研究課題/領域番号 |
21K00439
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02040:ヨーロッパ文学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022-2023) 大阪市立大学 (2021) |
研究代表者 |
海老根 剛 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (00419673)
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研究分担者 |
古矢 晋一 立教大学, 文学部, 准教授 (20782171)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 群集 / ベルリン / フロイト / エルンスト・ユンガー / カネッティ / デーブリーン / ヘルマン・ブロッホ / 都市文学 / デープリーン / ヴァイマル共和国 / ホロコースト文学 / ドイツ青年運動 / ナチズム |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、群集や集団に関する近年の学術的議論の再活性化と理論的進展にもとづいて20世紀の群集をめぐる思考を捉え直し、従来の研究では十分に注意を払われてこなかった観点、主題、対象を導入することで、世紀転換期(19世紀末/20世紀初頭)から第2次世界大戦後までのドイツ語圏の群集をめぐる言説と表象の展開を文学作品などに即して分析することである。 本研究は、それが対象とする時代と地域の群集をめぐる思考の歴史性を浮き彫りにするだけでなく、そこに今日の時点においてはじめて認識可能となるポテンシャルを見いだすことで、私たちが直面する現実の理解に資するアクチュアルな知見を引きだすことをも目指している。
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研究実績の概要 |
2023年度は研究代表者、研究分担者それぞれが計画に基づいて研究を進めるとともに、両大戦間のドイツ文学およびオーストリア文学を専門とする研究協力者とともに学会でシンポジウムを開催した。 海老根は当初の計画にもとづいて、ヴァイマル共和国中期から末期に成立したベルリンを舞台とする都市小説のうち、とりわけdie Angestellten(会社員)を主人公とする小説を同時代の群集をめぐる言説のパラダイムと関係づけて考察する研究を進めた。特にイルムガルト・コインとマルティン・ケッセルの作品に表れる登場人物の行動の描写を、今世紀の群れの科学において理論化された「同期」の概念を援用して考察することを試みた。 古矢は当初の計画通り、カネッティ、フロイトの理論やモッセの歴史学的研究を参照しながら、エルンスト・ユンガーの編著『忘れえぬ人々』を一つの例に、戦間期ドイツ語圏における戦死者祭祀の問題を群集・集団をめぐる言説として捉え直すシンポジウム発表を行った。またカネッティの『群集と権力』における「インフレーションと群集」について以前に口頭発表した内容を改稿して論文化し、ホロコーストの背景と群集の問題を論じたカネッティの議論を批判的に検討した。 また今年度は日本独文学会秋季研究発表会(京都府立大学)において、慶応大学の粂田文氏と金沢大学の早川文人氏にもご協力いただき、「「群集」を再訪する –ただしパトスなしに」というタイトルのもとシンポジウムを開催した。海老根が司会とシンポジウム全体の趣旨説明を含む発表を行い、古矢は第一次世界大戦の戦死者の表象を主題とした発表を行った。粂田氏はデーブリーンの長編小説『山 海 巨人たち』の発酵する群れについて、早川氏はヘルマン・ブロッホの小説における群集表象の展開を主題とした発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は過去二年間の研究協力者をも交えた研究会の成果の中間的な報告として、日本独文学会においてシンポジウムを実施することができた。海老根は公務との日程調整がうまくいかずドイツでの資料調査を行えなかったが、古矢は計画した資料調査を実施した。研究代表者、研究分担者ともに所定の計画にもとづいて研究を遂行しており、おおむね順調だと言うことができる。 研究代表者の海老根は、昨年度に行った研究を継続し、ヴァイマル共和国時代の新即物主義の都市文学作品の考察を行った。シンポジウムにおいては特にマルティン・ケッセルの長編小説『ブレッヒャー氏の失敗(Herrn Brechers Fiasko)』における登場人物たちの特異な共同行動のありようを、群れの科学における「同期」の概念を用いて考察した。 研究分担者の古矢は「第一次世界大戦と「死者たちの群集」表象―戦友意識と戦死者祭祀」というタイトルで、予定通りシンポジウム発表を行い、各発表者とフロアの参加者との議論から有益な示唆を得た。このシンポジウムの内容は研究叢書としてまとめる予定である。また2023年度は計画通り、ドイツで資料調査を行った。 またシンポジウムにおける質疑応答とその後の総括の議論を通して、研究協力者を含む4名の問題意識を深めることができ、今後の研究の展開を検討する良い機会になった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、研究代表者、研究分担者のそれぞれが、計画に沿って各自の研究課題に取り組むとともに、昨年度に行ったシンポジウムの発表にもとづいた論集を電子出版として刊行する予定である。 海老根は引き続きヴァイマル共和国中期から末期にかけての文学表象の展開を、特に都市小説を対象にして検討する。そのさい、ヴァイマル共和国時代に関する最新の歴史研究の知見を参照することで、新即物主義の文学について従来の研究の観点を批判的に再検討する。くわえて現代の集団的な政治行動の理論を通覧することで、研究のための理論的視座を明確化することに努める予定である。また海老根はドイツでの文献調査も行う予定である。 古矢は上記シンポジウム発表の論文化を進めるとともに、ホロコーストおよび第二次世界大戦における群集表象の考察に取り組む。具体的には、ホロコーストの生還者であるH・G・アードラーの社会学的著作ならびに文学作品を取り上げ、強制収容所における群集表象を分析し、理論的枠組みとしてはアーレントの『全体主義の起原』やカネッティの『群集と権力』などを再検討する。古矢もドイツないしオーストリアでの資料調査を計画している。
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