研究課題/領域番号 |
21K00450
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02050:文学一般関連
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
中村 史 小樽商科大学, 商学部, 教授 (20271736)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ジャータカ / シャーマー / マハーヴァストゥ / 屍鬼二十五話 / トリックスター / スダナとマノーハラー / 海幸山幸 / クシャとスダルシャナー / 異類婚姻 / スダナ / マノーハラー / インド古典 / 日本古典 |
研究開始時の研究の概要 |
インド古典の日本古典への流入については仏典を介してのシルクロード経由が知られている。本研究ではこれまでほとんど注目されていない別の重要な東南アジアルート、最終的な流入の形として口頭伝承に焦点を当てる。最初の研究対象は東南アジア起源とされる海幸山幸神話である。ホヲリ命が自らの訪問を海神の娘・豊玉姫に知らせるため訪問の印として装身具を用いるというモチーフがある。本研究ではまずこの「証拠の指輪」モチーフが東南アジアに流布したインド起源の「スダナとマノーハラー」に由来することを実証する。さらにこうした個別研究に留まらず、インド→東南アジア→日本という文学の流れについて一定の見通しを付けたい。
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研究実績の概要 |
令和5年度は主に、文化人類学由来の「トリックスター」の概念を用いて、インド古典文学のうち、ピカロ的トリックスター、盗賊・詐欺師の活躍する説話について考察した。先行研究においてヒンドゥー教の神々のトリックスター性はよく取り上げられてきているが、仏教のジャータカの登場人物のそれについてはあまり注目されてこなかった。 今年度の研究では、ヒンドゥー教のサンスクリット説話集『屍鬼二十五話』(11世紀半ば成立か)所収話、仏教のパーリ『ジャータカ』(5世紀成立か)所収の複数話と比較・対照して、特に、仏教混淆サンスクリットの『マハー・ヴァストゥ』(紀元前2から後3、4世紀成立か)所収「シャーマー・ジャータカ」の文学的興趣のあり方について考えた。 これらの説話では、おおよそ、刑場に引かれてゆく美男の盗賊に一目惚れした高級遊女などが身代わりを立てて盗賊を救いともに暮らす(が、盗賊は彼女を害して逃げる)ーーなどといった展開を遂げる。 「シャーマー・ジャータカ」では、刑場に引かれてゆくのは盗賊に間違えられた馬商人であり、これがブッダの前世の姿と説き明かされる。この馬商人を救うためにあらゆる策略を凝らし、馬商人が逃げた後の証拠隠蔽のために散々悪知恵を働かせる高級遊女がブッダの出家前の妻ヤショーダラーの前世の姿と説き明かされる。トリックスターはーー多義的存在のヒンドゥー教の神々とは異なりーーブッダとは本来相性の良くないはずのものであるが、「シャーマー・ジャータカ」では、盗賊をやや強引に(錯覚をも利用して)ブッダと結び付け聴き手を喜ばせるために、トリックスター的性格を専らヤショーダラーに託した大変コミカルな語りとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究はもともと、インド古典の「スダナとマノーハラー」物語の「証拠の指輪」モチーフが東南アジアを経由して古代日本の『古事記』所収の「海幸山幸」神話に流入した可能性を追求することに端を発した。申請期間の初めの2年間は、ちょうどコロナ禍の只中に当たり、様々な研究上の心境の変化も経験することとなった。おそらくそのことにも起因して、当初の研究の方向性をむしろ研究人生の長いスパンで引き継ぐことにするとともに、少し異なる方面へも目が開けてきたと考えている。そのため、様々な事柄を考えあわせて「おおむね順調に進展している」と自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
もともと今回の科研費は3年の期間で申請し採択されたものであったが、1年の延長を認められたことも手伝って、すでに新たな展開に向かって進み始めている面がある。 今回の研究は、インド古典の「スダナとマノーハラー」物語の「証拠の指輪」モチーフが東南アジアを経由して古代日本の『古事記』の「海幸山幸」に流入した可能性を考えることに始まった。この「スダナとマノーハラー」にみる「異類婚姻」「異郷訪問」のモチーフを共有しながらも全く異なる様相を持つ「クシャとスダルシャナー」では「異類婚姻」「異郷訪問」の変形・転倒した様々なヴァリエーションと語りの面白さが見られ、異形のクシャはブッダの過去の姿、美しくわがままなスダルシャナーはヤショーダラーと説き明かされる。さらに「シャーマー・ジャータカ」では上述のように、トリックスター活躍の面白さを専らヤショーダラーに担わせることになっている。 今後、そのようにしてフォークロア研究(含む文化人類学)の成果に学びつつ、インド古典文学の興趣を明らかにしてゆく方向性が見え始めている。
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