研究課題/領域番号 |
21K00480
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大塚 行誠 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 准教授 (90612937)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 記述言語学 / チベット・ビルマ語派 / チン語支 / ミャンマー / クキ・チン語支 / 言語学 |
研究開始時の研究の概要 |
ミャンマー西部のマグウェ地方域で話されているチン系諸言語の音韻,語彙,文法を言語学的観点から記述し,その基礎資料を公開することが本研究の主な内容である。マグウェ地方域はビルマ語を母語とする住民が大多数を占めているが,アショー・チン語の諸方言などチン系諸言語を話す人々のコミュニティーも点在する。これらのチン系諸言語は現在ビルマ語からの影響を強く受けている為,その言語接触の実態も調査する予定である。
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研究実績の概要 |
2023年度は、新型コロナウイルス感染拡大による海外渡航の制限がミャンマーでも徐々に緩和され、所定の入国手続きを済ませば比較的容易に入国できるようになった。しかし、ミャンマー国内の不安定な情勢は依然として続いており、特に本研究課題に関連するマグェ地方を含むミャンマー北西部の一部地域は事実上の紛争状態にあるため、当初予定したように現地に1か月程度滞在し、言語データを収集することは困難であった。2023年度は2023年9月と翌年2月の2回、ミャンマーのヤンゴンに1週間余り滞在し、市内に住むアショー・チン語話者およびタウンダー語話者から協力を得て言語調査(語彙調査および簡単な文法調査)を行った。ヤンゴン市内でチン系言語話者と言語調査に関する打ち合わせを行ったほか、チン族やチン系諸言語、ビルマ言語学に関する文献資料の収集も行うことができた。 2023年度の研究実績としては、アショー・チン語やタウンダー語と同系統のティディム・チン語の適用態標識に関する論文を執筆したことが挙げられる。適用態標識は多くのチン系言語において見られ、2024年2月の調査ではアショー・チン語にも同様の標識が存在することが確認された。今回は、先行文献が豊富なティディム・チン語の適用態に焦点を当て、研究結果をまとめたが、現在はこの基礎研究を基にアショー・チン語の適用態標識の更なる調査と論文執筆を進めている。また、タウンダー語などマグェ地方域で話されている他のチン系言語における適用態の現象とその形式・機能の違いについても今後は調査していく予定である。 さらに、昨年に引き続き、今年度もアショー・チン語に見られるビルマ語からの借用語を調査した結果を学術論文としてまとめ、国際ジャーナルでの公開に向けた準備を行ってきた。この論文は他のミャンマー・インド地域を専門とする言語学者との相互査読を経て、2024年4月に刊行されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れが生じていると判断した理由は、ミャンマー国内での不安定な情勢が続いているため、当初予定していたミャンマー西部マグウェ地方でのフィールドワークを通じた言語調査が2023年度も実施できなかったからである。さらに、現地調査協力者とのやり取りを昨年に引き続きオンラインで試みたものの、不安定な現地情勢に加え、ミャンマーの地方でのインターネット回線の接続上のトラブルもあり、言語調査をオンラインで円滑に進めることは困難な状況にある。しかし、2023年以降、ミャンマーでのフィールドワークが可能となり、短期間ではあるもののヤンゴン市内に滞在し、現地のチン系言語話者から協力を得て調査を実施することができた点でコロナ禍により渡航自体が不可能であった以前に比べると比較的調査が進んでいるとも言えるだろう。 一方で、治安上の問題も依然として存在しており、外務省の海外安全情報によると、ミャンマー西部では「渡航中止勧告」(危険レベル3)、ヤンゴン市内を含むミャンマー全土では「不要不急の渡航中止」(危険レベル2)の状況が続いている。さらに危険レベル3の地域も昨年から拡大を続けている。今後も現地情勢を注視しつつ、不安定な状況が続く場合は、ミャンマー以外でのチン系言語の調査やオンライン調査など、新たな調査方法を模索・検討し、本研究課題が継続できるよう柔軟に対応していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策について、まず調査方法について述べた後、研究内容について述べる。 [1] 調査方法 2024年に入り、新型コロナウイルス感染拡大によるミャンマーへの渡航制限がさらに緩和されたことを受け、2024年度もミャンマーへ渡航し、アショー・チン語とタウンダー語の更なる調査と言語データの収集を進めたいと考えている。しかしながら、ミャンマー国内の情勢は現在非常に不安定であり、本研究課題の申請時に比べると、現地に滞在すること自体のリスクも高まっている。今後は、ミャンマーを含む渡航先の情勢を常に注視しながら、安全を最優先にし、必要に応じて周辺国での調査やオンライン調査も併用しつつ、慎重にフィールドワークを行っていきたいと考えている。 [2] 研究内容 2023年度のフィールドワークにおいて、タウンダー語の基礎語彙調査が完了したため、これを基にタウンダー語の音声や文法に関する言語調査を進める予定である。また、アショー・チン語の文法調査においては、2024年度に適用態標識に関する調査と記述を行い、初期報告を本年度内に発表する計画を立てている。マグェ地方域で話される南部のチン系言語の適用態については、世界的に見ても先行文献が少ないため、中部チン語群のボム語や北部チン語群のティディム・チン語の適用態構文と対照しながら研究を進めたいと考えている。タウンダー語やアショー・チン語のような先行研究のほとんどない言語の文法記述においては、その言語において特徴的な音声現象や文法事項を一つ一つ取り上げ、入念に調べてまとめていくことが後の包括的な文法記述の際にも重要になるからである。
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