研究課題/領域番号 |
21K00506
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 愛知県立芸術大学 |
研究代表者 |
井上 彩 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 教授 (90634915)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | クレオール / ハワイ・クレオール / 視覚的語彙認識 / 二方言併用 / 正書法 / 音韻的正書法 / 書記素と音素のマッピング / 二言語変種(方言)併用 / 社会言語学 / 世界の諸英語 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ハワイ・クレオール(HC)と呼ばれる英語の変種の話者がどのように語彙を視覚的に認識しているのかを探るために語彙認識の実験結果を分析する。それにより①二方言併用話者の語彙認識ではより複雑な書記素(文字)と音素(音)のマッピングが関わっているのであろうか、また、②話者の様々な言語的背景は語彙の認識にどのような影響を与えているのだろうか、といった研究の問いに答える。 複数の言語変種や方言を併用して使用する環境で育った話者が語彙を認識するメカニズムの解明を目的としている。
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研究実績の概要 |
令和5年度は9月と3月に米国のハワイ大学を訪問し、2名の研究協力者と研究打ち合わせを行うことができた。実験によって得られたデータファイルのうち文全体に埋め込まれた語彙認識の実験データを分析することによって、ターゲットとする語彙だけでなく、文全体の処理の速度及び、文の理解に関する正確さについても分析した。 独自の標準化された正書法を持たないクレオール言語や少数言語には、既存の言語の正書法を借用・応用する方法と新たにその言語の音韻体系に沿った正書法を作るという二つの選択がある。後者の音韻的正書法は、その言語の自律性や独立性を担保できるので言語記述・保全の観点から好ましいと判断されることが多いが、しばしばその実用化を阻むのが学習するのが困難なのではないかという側面である。 本研究の実験では、2つの実験の合間に10分間ほどのセッションを設けて、実験の参加者が初めて接するハワイ・クレオールの音韻的正書法を学習してもらっている。その後で、音韻的正書法と、既存の言語(英語)のスペリングを借用した正書法との両方で書かれたハワイ・クレオールの文を読む実験に参加する。分析の結果、参加者は音韻的正書法を短時間ではあるが学習することによって、英語のスペリングを利用した正書法で書かれた文とほぼ同じぐらい早く正確にハワイ・クレオールの文を読むことができることが分かった。 令和6年1月にはこの結果をオンラインで開催された国際学会Society for Pidgin and Creole Linguistics (SPCL) Winter Meeting 2024で、論文Reading Hawai'i Creole words and sentences in different types of orthographiesとして研究協力者との共著で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究期間の前半は新型コロナウィルスにより国外への移動や入国に制限のあった時期が長かったため、研究を進めるために米国のハワイ大学を訪問し、研究協力者と研究打ち合わせを行うことが困難な時期が続いており、令和4年度前半までは研究が進まない状況であった。令和5年3月になってようやく渡米することができ、研究協力者であるハワイ大学教授と研究打ち合わせを行い、データ分析の方法や研究の手順を決めることができた。 データ分析を開始した後は、当初詳細な分析を予定していた、様々なカテゴリーの語彙(及び非語彙)を認識する速度の分布よりも、語彙を埋め込んだ文全体を処理する速度とプロセスに、より興味深いパターンが見られることが分かった。そこでデータ分析の手法を変更し、追加のデータ整備やコーディングの手順が生じた。また、結果を評価するための先行研究の文脈も変わってくるため、追加の研究資料(参考文献)を新たに収集する必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度の前半には、クレオール話者の異なる正書法で書かれた文処理のプロセスについて、2つの国際学会で成果を発表する予定である。広く社会言語学全般についての議論が行われる国際学会 Sociolinguistics Symposium 25 では、本研究の成果がクレオール言語や少数言語での正書法選択への議論にどのような貢献ができるかについて発表する。方言研究の手法に特化した国際学会 Eighteenth International Conference on Methods in Dialectology (Methods XVIII) では、心理言語学の実験を用いることによって方言研究にどのような貢献ができるかという観点から研究手法の詳細について発表する。これら2件の発表によって、社会言語学や方言研究の分野の研究者から分析結果の評価や、今後の研究の方向性や、関連する先行研究について建設的なフィードバックを得ることを期待している。 令和5年度の前半にはまた、収集した正書法選択に関する文献の先行研究をまとめて論文執筆の準備をすすめる。 令和5年9月に再度ハワイ大学を訪問し、研究打ち合わせを持つことを予定している。文処理という観点からさらなる分析の余地があれば、今後も分析を続けたい。また、これまでの成果を論文にまとめて研究論文として投稿する予定である。
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