研究課題/領域番号 |
21K00547
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02070:日本語学関連
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
轟木 靖子 香川大学, 教育学部, 教授 (30271084)
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研究分担者 |
山下 直子 香川大学, 教育学部, 教授 (30314892)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 方言 / 言語形成地 / アクセント / 語彙 / 居住歴 / 方言調査 / 言語形成期 / インフォーマント |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,社会言語学における言語調査の対象者の条件について新しい提案を試みる。現代日本語の方言調査においては言語形成期と言われる3歳から5歳以上12歳から15歳までの時期をその地域で過ごしたことが条件とされるのが一般的である。しかし,現在,同一地域に長期間にわたって居住している話者はかならずしも多くない。 本研究では,香川大学の学生の多人数調査のデータをもとに,語アクセント,文末詞,語彙,表現の各項目について,いわゆる「生え抜き」の話者と他地域での居住経験のある話者のデータを比較し,調査項目によってどの時期を対象地域で過ごしていれば生え抜きの話者と差のないデータが得られるかについて検証する。
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研究実績の概要 |
香川県の若い世代の語彙とアクセントについて調査をおこなった。若い世代は共通語化していると言われているが、若い世代でも使用されている伝統的な語彙や表現もある。調査では香川県内で生まれ育った香川大学生8名に伝統的な語彙を含む香川県の方言語彙の使用と2拍名詞の読み上げによるアクセントについて分析・考察した。8名のうち比較的伝統的な語彙やアクセントを残している2名は両親と成育地が同じである点が共通していた。いっぽうで、「香川県の方言が好き」「同年代に比べて方言を話す方である」のような方言に対する意識については共通点はみられず、一見関係がありそうな方言に対する意識は今回の調査では伝統的なアクセントや語彙の使用には影響がないという結果になった。岡山県の話者についても同様の調査を計画中である。香川県の2拍名詞のアクセントについては、伝統的には第一類と第三類が同じ高起式無核(H0型)で発音されると言われているが、第一類の「鼻」と第三類の「花」については、どちらもH0型であったのは2名、共通語と同じ「鼻」がH0型「花」がL2型であったのは3名(うち1名はH1も)、「鼻」をH0型「花」をH1型が2名、「鼻」も「花」もL2型が2名であった。また、第四類は「松」「箸」は低起式がみられたが、「空」「海」は全員が共通語と同じH1型であった。この違いはどのような原因で生じるのか、もう少し詳しい検証が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は言語形成地が香川県である若い世代に対象をしぼって調査をおこなった。共通語化が進んでいると思われることの多い20代の話者であっても一部伝統的な語彙やアクセントも残っており、その話者は両親と同じ地域で生まれ育っているという共通点があることがわかった。本人の「香川の方言が好き」という意識や、「同年代のなかでも地元の方言をよく使う方である」という方言に対する意識は、今回の調査結果からは、伝統的な語彙やアクセントの保持にそれほど強くは影響していない傾向があった。また、2拍名詞のアクセントについては語によってほぼ全員が共通語化したアクセントであったもの、一部伝統的なアクセントであったもの等のばらつきがあった。伝統的な方言語彙については、調査開始時には「聞いたことがある」の回答が多いと予想していたものについても「聞いたことがない」という回答が多かったものもあり、一部の語彙は失われていく過程にあることが確認された。大学生で香川県で生まれ育った話者の中にも違いがあり、本当はもう少し地域差にも着目したかったが、そこまでの分析はできなかったものの、共通語化の進んだアクセントとそうでないものを見出す等の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度となるが、香川県については言語形成期に外住歴のある話者のデータとの比較、また岡山県の話者についても調査をすすめたい。また、今回のアクセントの調査時に、「猿が」について「いる」「おる」のどちらかを使って読み上げてもらうというときに、「猿が」だと「いる」、「が」がなければ「おる」を使うという回答者がいた。「猿がいる」であれば「猿」はH1型、「猿おる」であれば「猿」はH1型もL2型もありそうとのことで、これは、自然な発話における語アクセントの調査という点で、注意深く検討すべき課題であると思われる。調査時に「・・・が」という形をとることで、日常的には伝統的なアクセントが使われているところを共通語的なアクセントとして表出させてしまっている可能性があるからである。今後のアクセント調査においては、「・・・がーーー」という形にターゲットとなる名詞を入れて読む調査をする場合に、「が」をつけないで文を作った場合にどのように変化するかにも注目して調査をおこなう予定である。 岡山のアクセントについては、母音融合がどのくらい使われるか、3拍形容詞のL2型アクセントが文末に来た場合と名詞修飾の場合で変化するかについて、他の東京式アクセントの話者と比較をおこないたい。 また、語彙の調査については、自然談話の観察から、50代以上であれば使っていると思われる「がいな・がいに」「むゆか」は大学生は「自分では使わない」という回答が多く、今後使用者が減ることが予想される。「周囲の人が使う」という回答に関して、「誰がどんな場面で」使っているのかをより詳細に記述することを心がけたい。
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