研究課題/領域番号 |
21K00548
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02070:日本語学関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
山本 佐和子 同志社大学, 文学部, 准教授 (00738403)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 抄物 / 集成抄物 / 古文真宝 / 笑雲清三 / 蘇軾 / 文英清韓 / 中世語 / 蘇軾(蘇東坡) |
研究開始時の研究の概要 |
室町時代~江戸時代初めに、禅僧や公家の学者などが講義に基づいて作った漢籍・漢文の注釈書「抄物(しょうもの)」は、当時の日本語の貴重な資料である。室町末期には、複数の抄物を集めて諸説を一覧できる「集成抄物」が作られ、新興の戦国大名にまで広く受容されたため、伝来の確かな写本・刊本が多く残っている。 本研究では、集成抄物について、誰がいつどのような目的で作ったのか(作成)、誰がどのような方法で後世に伝えたのか(継承)、どのような人々が集成抄物を手に入れたいと望み、出版したのか(受容)を調べることで、集成抄物の言葉が、いつ頃、どのような人々がどういう場面で使っていた日本語なのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、中世室町期の抄物のうち、先行する複数の抄物を類聚・編纂した「集成抄物」について、書誌学的・文献学的調査と言語事象の観察を行う。それらの成立経緯や継承・受容の様相を明らかにし、言語資料としての性格を再考して利用を促進することを目的としている。「集成抄物」は、抄物の成立時期半ばの1530年代以降に五山僧の抄物について作成されるようになり、織豊期には公家や有力大名にも注釈書として広く受容されたため、伝来の確かな写本や良質の古活字版が現存する点、言語資料として貴重である。 今年度も前年度に引き続き、「古文真宝後集」の抄物を中心に、書誌学的・文献学的調査を進め、その成果を報告した。 まず、「笑雲清三抄古文真宝抄」に関しては、編纂者・笑雲清三〔生卒年未詳〕の関与の仕方を見直すことで、言語資料としての価値を再評価できる可能性を考えた。「笑雲抄」は編纂者・笑雲清三の見解を示す抄文が著しく少なく、一部は蓬左文庫蔵写本にのみ書入れで残る。また、先行抄の一つ「湖云」は、一元光演聞書「一抄云」と同じ桂林徳昌〔1428-1509頃〕による講義の湖月信鏡〔生卒年未詳〕による聞書とされてきたが、一元抄に比べて冗舌で、俗語語彙に富む。湖月講・某(笑雲清三か)聞書である可能性が高く、今後、湖月信鏡が関わった他の抄物についても言語資料としての利用も視野に調査を進める。 「古文真宝抄」の他の抄物では、現東洋文庫蔵米沢文庫旧蔵の集成抄について、22年度に妙心寺の南化玄興〔1538-1604〕の直筆題箋が残ることと、市立米沢図書館蔵朝鮮版「東坡先生詩」の書入れ抄物と、同一の略号を持つ先行抄を収めることを見出した。これに加えて、本年度は、一部に天隠龍澤〔1423-1500〕や月舟寿桂〔1470-1533〕の仮名抄(いずれも講義の聞書か)が含まれることを見出し、研究発表で報告すると共に、全文の翻刻を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、21年度の開始時から「古文真宝後集」の抄物を中心に、集成抄物の継承と受容の様相について書誌学的・文献学的調査を行ってきた。この調査の中で、今年度は、計画当初、もう一つの研究対象として掲げた東坡詩(蘇軾の詩)の抄物についても調査・考察を進める手がかりを得た。また、集成抄物の言語資料としての再評価も計画当初の目標であったが、当年度まで3年間で調査した「笑雲清三抄古文真宝抄」諸本、東洋文庫蔵「古文真宝後集集成抄」ともに、先行抄ごとに言語的特徴を観察することで、単独の抄物としては現存しない仮名抄として参照できることを明らかにできた。 東坡詩(蘇軾の漢詩)の抄物では、「古文真宝後集」の抄物の中で最も流布した抄物の編者、笑雲清三が編纂した「四河入海」が、五山僧の作成した坡詩抄物の中で最も流布したものである。織豊期における流布や版行にも、「古文笑雲抄」と同じく、文英清韓〔1568-1621〕が関わっていると推定される。今年度はその古活字版について、伝本調査を開始した。現在までに、名古屋市蓬左文庫蔵本の悉皆調査と、静嘉堂文庫本の一部の調査を終えている。 東坡詩の抄物に関しては、市立米沢図書館蔵朝鮮版「東坡先生詩」書入れ抄について、東洋文庫蔵「古文真宝後集」集成抄と、先行抄が共通することを見出している。22年度から、東洋文庫蔵「古文真宝後集」集成抄所収の先行抄の翻刻を進めており、今後は、略号が一致する「東坡先生詩」書入れ抄の先行抄と、言語的特徴を比較対照しながら、両抄の成立経緯や言語的特徴を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、21-23年度に行った「古文真宝後集」の抄物に加えて、「東坡詩」の抄物について調査・考察を進める。また、「古文真宝後集」の伝本調査の過程で、仁和寺で見出した「花上集抄」について、23年度に報告を行う予定であったが、諸事情で延期したため、24年度中に研究発表・研究論文等で成果を報告したい。 まず、「古文真宝後集」の抄物については、東洋文庫蔵集成抄の先行抄がほぼ全て明らかになったため、成果を報告したい。この資料については、市立米沢図書館蔵「東坡先生詩」との比較が有効であるため、二抄を併せて調査を進めて成果を公表する。 東坡詩の抄物に関しては、24年度には、22年度に開始した大阪府立図書館蔵「増刊校正王状元集註分類東坡先生詩」の文英清韓による書入れ抄の翻刻も再開する。 そのほか、「花上集抄」は集成抄物ではないが、初学者・学習者向けの漢籍漢文を原典とする点、「古文真宝」の抄物と似通う。3点残る伝本のうち、1点が、地方大名向けに作成された俗文語文の抄物「彭叔守仙抄古文真宝抄」と同じく、禅宗の寺院ではない仁和寺に所蔵されていた点も注目される。 「花上集抄」の諸本は、現存数が少なく殆ど流布しなかった抄物と考えられる。約60年間所在不明だった仁和寺蔵本の再発見により、うち1点の宮内庁書陵部蔵本がその忠実な写しであることが判明した。「花上集」は、五山文学では重要な位置にある漢詩集とされるが、内容が易しく、その注解を示す抄物の需要はなかったことが推定できる。言語面について、仁和寺蔵本・宮内庁書陵部蔵本と国立公文書館内閣文庫蔵本とを比較すると、後者には近世初期のものと思われる言語的改変が認められる。仁和寺蔵本の翻刻と本文対校を行い、抄物の書写にあたり表現が改変されやすい部分(文末表現など)を明らかにすると共に、近世初期の抄物の受容を知る手がかりとする。
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