研究課題/領域番号 |
21K00555
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02070:日本語学関連
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
岡田 祥平 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (20452401)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 鮎川哲也 / 役割語 / ガ行鼻音 / 西村京太郎 / 手話 / 表象 / フィクション作品 / ピジン / ろう者 / 山村美紗 / 「内地人」 / 日本語学 / 社会言語学 / 言語意識 / メタ的な言及 / 言語資料 |
研究開始時の研究の概要 |
現在も長編推理小説の新人賞に名前を残す鮎川哲也(1919-2002)の作品には,非常に多種多様の「ことば」に関する記述が観察される。本研究では,鮎川作品における「ことば」に関する記述を丹念に拾い上げ,日本語学や社会言語学の観点から考察を行い,(あくまで鮎川という一作家の観察結果によるが)1940年代から1990年代に至るまでの日本語の動態を追うと同時に,鮎川作品が日本語学や社会言語学の研究資料としての可能性を模索することにある。また,社会言語学・日本語学の観点から文学作品を読むことを実践することにより,文学作品の解釈の新たな手法や可能性を提示することも目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は前年度の研究内容を発展させ,以下のような内容に取り組んだ。 ・鮎川哲也のデビュー作で旧満洲地域を舞台にした『ペトロフ事件』には現代日本語では役割語とされる「日中ピジン」やいわゆる「ザアマス言葉」をめぐる表現が認められる。ただ,それらの表現が「初期バージョン」(1950年代・1960年代に発表,発売されたもの)と「現行バージョン」(1970年代以降に発売されたもの)とで大きく異なる。その異同をまとめたうえでなぜそのような相違が生じたのか,考察を試みた。(なお,この点については論文にまとめ投稿をしたのであるが不採択となった。査読コメントを踏まえたうえで修正を行い,来年度,再度論文投稿を行う予定である。) ・昨年度は感染症の影響で本研究課題で対象とした鮎川哲也作品について十分な調査が行えなかった。そこで,鮎川と同じ推理作家である西村京太郎が,異なる時代(1960年と1990年代)にろう者を描いた2作品について,両作品におけるろう者の描かれ方を整理し,日本語使用社会がろう者の存在をどのようにとらえてきたのかについて,学会発表をしたわけであるが,今年度はその内容を論考にまとめ,発表した。 一方,今年度は新たに鮎川哲也の『黒い白鳥』に見られるガ行鼻音の記述について整理をし,分析,考察を試みた。この試みは本研究課題が採択される前から進めていたが,本研究課題が採択されたことにより種々の文献調査が行えるようになったことにより,さらに考察を深めることができた。ただし,今年度は論文としてまとめるまでには至らなかった。 さらに,国立国会図書館によるNDL Ngram Viewerを利用すれば「1940年代から1990年代までの日本語の動態」の一端を解明することができるのではないかと思い至り,その試みとして「共生」という語の使用実態の変遷について小考を試み,話題提供を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鮎川哲也作品については,『ペトロフ事件』の「初期バージョン」と「現行バージョン」での比較を行うことにより,1950年代から1980年代までの間に生じた役割語としての「日中ピジン」や「ザアマス言葉」の位置付けについて考察を行えうことができた。同一作家の同一作品における本文の異同からこの種の考察を試みることができたことは,役割語研究にも一定の新知見をもたらすものだと考えられる。また,『ペトロフ事件』以外の作品の分析にも本格的に着手できた。 一方,研究計画時には想定していなかったものの,鮎川と同じ推理作家である西村京太郎の作品について論考をまとめることができた。さらに国立国会図書館によるNDL Ngram Viewerを利用した研究を模索することもできた。 以上のことから,昨年度に引き続き,1940年代から1990年代の日本語,あるいは日本語使用社会の動態について,先行研究では指摘されていなかった側面から,素描,整理ができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は研究計画の最終年度となるが,本年度までの研究内容を公表できるようさらに考察を進めるとともに,これまでの研究では取り上げていない鮎川哲也の他の作品についても,分析,考察を進めたい。
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