研究課題/領域番号 |
21K00790
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02100:外国語教育関連
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
池田 周 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (50305497)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 小学校英語教育 / 英語リテラシー獲得 / 音韻認識 / 読み能力予測 / ローマ字指導 / 英語読み書き指導 / ローマ字学習 / invented spelling / 形態素認識 / 英語教育 / 小中接続 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、(1) 英語読み書き技能発達のレディネスとされる「音韻認識」が、実際に「語を発音し、綴る」技能習得に役立つためには「どのレベルまで発達しておく必要があるか」(音韻認識の必要レベル)を明らかにし、その到達状況を確認するためのテストの開発、および (2) 小学校で高めた音韻認識を生かして中学校で「語の読み書き」指導を行うタスクの構築を通して、読み書き指導の小中接続への貢献を目指すものである。音韻認識の必要レベル特定においては、特に意味理解の側面で「語の読み書き」に貢献する形態素認識にも着目し、中学生の「語の読み書き」能力の違いを説明する形態素認識や音韻認識の特徴を体系づける。
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研究実績の概要 |
研究プロジェクト3年目となる2023年度は、音韻認識や形態素認識を「語の読み書き」習得に生かすタスクの考案、および作成タスクを活用した指導実践と成果分析を中心に取り組んだ。特にこれまでの小学生を対象とする音韻認識測定調査、および2022年度に開始した小学校5、6年と中学校1、2年の児童生徒を対象とする経年調査データ分析から包括的に考察を行った結果、以下の点が明らかになった。 (1)音韻認識とそのテスト構成要素(タスク)、および英語読み能力は、概して学年進行(学校での英語学習経験の増加)により高まっていた。(2)音韻認識テストを構成するタスクのうち、「はじめの音認識」と「音素位置認識」の結果には高い相関があるが、英語読み能力との相関や予測力においては、より認知的に複雑な処理である「音素位置認識」の方が高い傾向がある。(3)学年ごとの英語読み能力の予測に、音・文字対応能力を加えると、「読むこと」について予測力が音韻認識よりも高い。 (4)音韻認識タスクごとの分析から、語の「はじめの音」を分割して認識する項目の正答率が、学年を問わず有意に低い。特に「CVC語の最初のC」(C:子音、V:母音)を取り出して操作することの困難さが改めて裏づけられた。(5)音素ごとの認識難易度について、音韻認識のタスク間(はじめの音認識、音素位置認識)では一定の傾向が推察できるが、文字・音対応には、対象児童生徒の「知識」による違いが推察される。さらに(6)小学校5、6年生のデータを学年別に音韻認識の上位群と下位群に分けて分析した結果から、音韻認識が初期読み能力と関わり始めるのは、5年生の上位群レベルより高い場合であることが明らかになった。すなわち、このレベルまで音韻認識を明示的指導によって高めておくことで、初期読み能力の獲得が促される可能性が指摘できる。これらの成果は、学会発表により公表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトではこれまで、英語圏の初期読み指導教材から収集し、日本語を母語とする英語学習者、特に小学校段階で活用できるタスクをまとめ、指導実践を通して児童の観察記録や音韻認識測定を重ねてきた。今年度は、さらに音韻認識や形態素認識を「語の読み書き」習得に生かすタスクの考案を継続して行っている。その中で、特にこれまで小学校中学年と高学年で、調査時の対象児童に限定される音韻認識特徴として整理してきたデータから、第二言語習得やリテラシー獲得などの理論基盤に基づいて、汎用的音韻認識測定ツールに用いることができる語やタスクの選定を開始した。この過程で、特に日本語を母語とする英語学習者の音韻認識と形態素認識に焦点を当てるならば、有声・無声の違いや、破擦音・破裂音・摩擦音などの調音の違い、さらにローマ字に含まれるかなど多角的に選定指針を構築する必要性があることが認識された。また、「語の初頭音の認識」「ターゲット音の語中の位置」などのタスクによって各音素の難易度の違いが見られたことから、「音素特徴×語中の音素の位置×タスクの違い」という視点からより詳細なデータ分析を行うため、用いる統計手法の再検討を行い分析計画を修正することにした。これらに新たに時間を費やす必要がある。 一方この間に、2022年度に開始した「小学校から中学校の複数学年での音韻認識測定」を今年度も継続して実施することができた。各年度とも対象学年は小学校5、6年および中学校1、2年であり、特に2023度の小学校6年~中学校2年については前年度のデータも存在することの意義は大きい。研究倫理に則るデータ収集を徹底したため、調査後の対象児童生徒別のデータの擦り合わせに非常に長く時間がかかったが、年度末までに経時的データとして整理できたことから、プロジェクトのまとめに向けて十分に取組みを継続できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進に向けては、まず2023年度と2024年度に実施した「小学校から中学校の複数学年での音韻認識測定」のデータ分析に焦点を当てたい。特にこれまでの成果を踏まえて、初期読み能力獲得を音韻認識が促進する時期として小学校高学年に着目している。それを裏づけるための2023年度小学校5年生で2024年度6年生が受けた同内容の音韻認識と初期読み能力テストの結果分析を丁寧に実施する。また2年間のデータを学年ごと、横断的に分析、考察することで、学校での英語学習経験の長さが音韻認識発達にどのような影響を及ぼすかについて、詳細に確認していく計画である。さらに、中学校1、2年生で実施してきた形態素認識テストのデータ整理、および結果の分析と結果の解釈についても、文献研究を進めて取り組んでいく。これについても、調査対象者の小学校6年時の音韻認識と、中学校1年時の音韻認識と形態素認識のデータが揃っているため、経時的な考察が可能である。 さらにこれまでの音韻認識指導実践を通じて現場の先生方からいただいた示唆に基づき、本プロジェクトで提案してきた「中学年の国語科ローマ字指導と関係づけた音韻認識指導の導入」だけでなく、低学年への導入可能性とその方法、さらに高学年など既に英語の語句や表現に文字でも十分に慣れ親しんでいる児童に対する音韻認識指導のあり方も検討する。すなわち、低学年では音韻認識指導で用いる語句の導入段階にも実生活との意味的な繋がりが必要であり、高学年では既に文単位で意味のまとまりを理解している中で、その一部分を成す語の内部音韻構造に意識を向ける際には無機質にならないように丁寧さが重要である。そのため紙芝居や絵本など、ストーリー性のある教材の開発と指導過程の整理などについても今後可能な範囲で研究範囲を拡げ、最終成果として構築する音韻認識指導プログラムにも組み込む計画である。
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