研究課題/領域番号 |
21K00809
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
水野 卓 愛媛大学, 法文学部, 教授 (00757643)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 『春秋』 / 『春秋左氏伝』 / 君主の称謂 / 春秋左氏伝 / 素材 / 出土文献 |
研究開始時の研究の概要 |
これまでの『左伝』研究は、成立年代や著者の解明に興味関心が集中しており、春秋史の史料としての側面についてはあまり言及されてこなかった。『左伝』の成立が戦国期・漢代にかかわらず、その記載内容が春秋期の史実であるかが否かが史料としては重要である。そこで、『左伝』の「素材」に注目し、特に「君主の記載法」における一定の分類法を見出すことで、それがいつの時代のどの地域の伝承に基づくものであるかを明らかにする。また、これまでの『左伝』研究者が見ることのできなかった出土文献と比較することで、『左伝』の「素材」の出所を明らかにし、春秋史に寄与する史料としての『左伝』の有用性を見出す。
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研究実績の概要 |
本研究は、いまだ伝世文献に頼らざるを得ない春秋史に焦点を当て、春秋史研究の基本史料である『春秋左氏伝』(以下『左伝』)の構造を「素材」という側面から明らかにするものである。このような研究課題について、令和4年度は、①検討対象の中心となる『春秋』と『左伝』の底本を確定する、②『左伝』における「君主の記載法」を分類するという2点を研究計画として掲げた。 今年度もコロナの影響により、海外だけでなく国内への出張が制限されてしまったため、『春秋』と『左伝』の底本を確定する①の計画は断念せざるを得なかった。そこで、②の『左伝』における「君主の記載法」つまり「君主の称謂」を分類する研究を優先し、『春秋』や『左伝』に関する研究書や、出土文献に関する一次史料・研究書を購入して分析を進めた。 その成果としては、2022年10月8日に早稲田大学で開催された「日本中国学会第74回大会」において、「『春秋左氏伝』の素材-「君主の称謂」を手がかりとして-」と題する学会発表を行った。ここでは、『左伝』に記載された「君主の称謂」に注目し、特に、春秋時代の最初期と最後期の事例を取り上げ、『左伝』の“素材”としての列国史の存在を指摘した。また、2023年3月28日に刊行された『資料学の方法を探る』(22)に、論文「『春秋左氏伝』の「始」-“素材”としての「列国史」を探る-」を発表した。『左伝』に記された「始」字が、「はじめて」の意味で用いられている点を確認した上で、「始」字が含まれる記事は、その主題となる国の記録が元になっている可能性が高いことを見出し、それら各国の記録である「列国史」を“素材”として、『左伝』が編纂された点を指摘した。さらに、これら『左伝』の史料学的分析をふまえ、春秋史の論文「春秋時代の「人」」も発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度もコロナの影響により、実施計画で掲げた「『春秋』や『左伝』の底本の確定」は遂行できなかった。そのため、『左伝』の君主記載法から、その“素材”を明らかにするべく、「君主の称謂」を手がかりとして分析し、研究会での報告1本と論文2本という研究成果を出した。 学会発表「『春秋左氏伝』の素材-「君主の称謂」を中心として-」では、『左伝』に記された「君主の称謂」を分析するため、特に、『左伝』が描く最初期(隠公期)と最後期(哀公期)の、かつ『春秋』に対応しない(影響されない)記事に注目した。その結果、隠公期の記事については、魯や周の同時代記録が“素材”として用いられていること。哀公期の記事については、魯だけでなく、斉や楚の同時代記録が“素材”として用いられていることを、それぞれ見出した。 論文「『春秋左氏伝』の「始」-“素材”としての「列国史」を探る-」では、『左伝』に見える「始」字について、それが「はじめて」の意で用いられていることから、まず、「始」字を含む記事は、その出来事が起きた国の記録が元になっていると推測した。その上で、時期ごとに「列国史」の存在を指摘した。すなわち、春秋前期では、“素材”として、魯や周の一部ではあるが同時代史料を活用しており、春秋中期になると、魯だけでなく晋の同時代史料も活用し、春秋後期になると、斉や呉の同時代史料を活用している点を見出した。ここから、当初は周や魯の「列国史」しか利用しえなかった編纂者が、次第に晋や宋、楚、呉といった「列国史」を手に入れ、それらを“素材”として『左伝』を編纂していった過程を指摘することができた。 このような『左伝』の史料学的分析をふまえ、春秋史の研究として、論文「春秋時代の「人」」も発表することができた。これらの研究成果をふまえ、現在までの進捗状況としては、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果により、『左伝』の「君主の称謂」に関する分類に着手することができた。特に、『春秋』の記事に対応しない『左伝』の記事については、ある程度分析を進めることができたため、今後は、『春秋』の記事に“対応する”『左伝』の「君主の称謂」を分析する。 また、計画として挙げた出土文献における「君主の称謂」についての分析も進める。その際、出土文献の実見は必要だが、コロナの影響により海外(特に中国)出張が許可されない場合は、国内において『左伝』の検討を引き続き行う。一方で、コロナの影響によりここまで実施できなかった底本の確定を行う。 これらの分析結果を、学会発表や論文として活字化するとともに、今年度は最終年度となるため、研究の総括を行う。
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