研究課題/領域番号 |
21K00872
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩崎 義則 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (60294849)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 石筆文書 / 石筆 / 赤石筆 / 松浦熈 / 松浦静山 / 平戸藩楽歳堂文庫 / 松浦清(静山) / 松浦史料博物館 / 長崎歴史文化博物館 / 鉛筆文書 / 亀岡随筆 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,日本国内に伝来している近世期の「石筆文書」に関する基礎的研究を行う。ここで示す「石筆」は,様々な状況証拠から黒鉛を用いた鉛筆と推断される。平戸藩主松浦熈が記した『亀岡随筆』には,熈自身と実父清(静山)が,「石筆」,さらには「赤石筆」を用いて,文書を作成していたことが記されている。近世期の石筆文書の伝来数は少なく,清・熈父子らが作成した石筆文書は,日本の古文書学上において貴重な分析対象である。 こうした観点から,特に清・熈関連文書に着目し,松浦家一門・平戸藩士・平戸城下町人の家文書などに伝存した石筆文書を主たる対象とした基礎的研究を行い,その学術的な意義を明らかにする。
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研究実績の概要 |
2022年度は,研究計画にもとづき,(1)2021年度の調査において発見・確認した石筆文書の分析,(2)さららる石筆文書の捜索と調査,(3)石筆の現物,およびその入手・受容に関する調査と研究,(4)石筆の原料鉱物(特に赤石脂)をめぐる楽歳堂文庫の鉱物コレクションの調査研究を主に行った。 (1)については,浦史料博物館所蔵文書,同館所蔵の蒲生家文書,長崎歴史文化博物館蔵の吉村家文書の調査と研究を重点的に実施した。これらの調査によって,石筆文書の伝来・背景が記された史料を発見した。 (2)については,(1)の調査機関のほか,長崎県佐世保市が所蔵する平戸藩関係文書と西口松浦家文書の所在調査を実施した。 (3)については,国内に現存する石筆(鉛筆)の現物を展示等によって確認した。その上で,松浦家の伝来品等から,石筆現物の発見に向けた調査を実施した。また,近世期の記録類から,石筆の入手については,長崎出島オランダ商館やオランダ通詞など長崎地役人からの寄贈例が多いことを明らかにした。石筆の形状と形態については,成形した黒鉛芯を「石筆」と呼称したこと。現在の鉛筆的な形状(黒鉛芯と木軸が一体成形)の石筆は,舶来品に限定されていたことを解明した。 (4)石筆・赤石筆の原料鉱物である黒鉛と赤石脂の生産と流通の概況を,近世期の本草学の成果をもとに整理・研究した。黒鉛の国内産は少なく,品位も劣悪であり,筆記素材としては舶来品が優れていたこと。他方,黒鉛を用いない国内産の石筆が製造されたいたこと。また,赤石脂については,黒鉛と同様,国内産よりも,舶来品が品位が高く,筆記素材としても優れていた可能性を明らかにした。なお,赤石脂については,平戸藩楽歳堂文庫に所蔵される鉱物の現物調査を行った。 以上の研究と考察は,「近世の石筆と平戸藩」としてまとめた(現在,投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[石筆の形状]徳川家康・伊達政宗らが使った鉛筆(石筆)の現物および模造品の現物を博物館展示などで調査確認できた。他方,松浦静山・熈らが利用した石筆(赤石筆)の現物は発見できていない。 [石筆の利用]近世日本において石筆を所持・利用していた人物を各種の記録類から特定した。こうした石筆はオランダからの舶来品が多いことを指摘した。また,当時,黒鉛由来ではない石筆製造の可能性を随筆記事から発見した。 [石筆・赤石筆の原料]赤石筆(赤鉛筆)とその原料(赤石脂・赤土)に着目し,平戸藩楽歳堂文庫の鉱物コレクションを研究資料として活用した。即ち,同文庫の創設者・静山は,18世紀終盤,薬種調査を目的として,平戸藩領内で採取された赤石脂を収集。さらに,舶来品の赤石脂も同文庫に収めた。こうした赤石脂収集の背景として,平賀源内による国内産赤石脂の発見。さらに,18世紀終盤における,東海地方での筆記用途を目的とした国内産赤土の生産・流通があったことを解明した。さらに,平戸産赤石脂は,舶来の赤石脂と対照され,品位が鑑定されていた。こうしたことから,松浦熈については,石筆(赤石筆)をめぐり,特異な環境下にあったことを明らかにできた。この点は,「近世の石筆と平戸藩」という論考にまとめた。 [石筆文書]平戸城下町人・吉村家文書(長崎歴史文化博物館蔵)については,石筆文書のさらなる発見が期待されたことから,特に未整理分について重点的に調査を実施した。その中で,石筆文書の伝来とその背景をしめす,熈からの寄贈品リストを新たに発見した。また,松浦史料博物館が所蔵する石筆文書については,これらが作成れた背景を究明するため,平戸藩家老の日記等の調査を実施した。この他,石筆文書がある西口松浦家文書については,佐世保市立図書館で所在確認調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
[石筆の現物]2022年度の研究において,当時,石筆を所有していた人物を特定できた。中でも,三浦梅園等数名については,長崎のオランダ通詞から寄贈された石筆が伝来している可能性があり,その現物の発見にむけた調査を行う。また,松浦史料博物館において,引き続き,静山・熈が利用した石筆・赤石筆の発見に努める。また,国内における石筆・赤石筆の製造と流通の実態について,補足的な調査研究を行う。 [輸入石筆]2022年度の研究において,出島オランダ商館を起点とする石筆の流入について明らかにすることができた。この他,ポルトガル船・中国船による舶来(石筆の筆記原料も含めて)の可能性について,補足的な調査を行う。 [黒鉛・赤石脂の鑑定]石筆文書に利用された黒鉛・赤石脂の科学分析を実施する。 [石筆文書]既に調査収集した石筆文書についてのさらなる調査研究を行うほか,新たな石筆文書の発見にむけた調査を行う。とりわけ,吉村家文書の未整理分の調査,松浦史料博物館所蔵文書,西口松浦家文書の調査を重点的に実施する。 [研究成果]主に松浦史料博物館・長崎歴史文化博物館・佐世保市が所蔵する石筆文書の全データをまとめて,釈文と解説を付したデータベースを作成し公開する。また,以上の研究をもとに,オランダとの特異な関係があった平戸藩主である松浦熈によって作成された石筆文書の日本史上および国際的な意義付を論考としてまとめる。
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