研究課題/領域番号 |
21K00899
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
権 学俊 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (20381650)
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研究分担者 |
張 惠英 立命館大学, 経営学部, 准教授 (60772704)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 東アジア / 朝鮮人特攻隊員 / 顕彰 / 慰霊 / 国民意識 / 同化 / 記憶 / 植民地朝鮮 / 朝鮮総督府 / 皇国臣民 / 航空熱 / 太平洋戦争 / 特別攻撃隊 / 飛行機 / 航空政策 / 戦争 / 特攻認識 / 戦跡 |
研究開始時の研究の概要 |
日本による朝鮮や台湾の植民地支配は、未だに政治的・歴史的な問題をめぐり多くの論争がなされている。同時に、多岐にわたる研究によって植民地政策の様々な側面が明らかになりつつある。しかし、日本と韓国、台湾において朝鮮人・台湾人特攻隊員という「戦跡」はどのようなプロセスを経て各国社会に受け入れられ、発見されたのか。各国における朝鮮人・台湾人特攻隊員に対するイメージが戦前から現在までどのような変容を遂げたのかについては、歴史社会学的な検証が進んでいるとは言い難い。本研究は朝鮮人・台湾人特攻隊員の多角的な分析を通して、戦後日本社会と韓国社会、台湾社会における「戦争の記憶の力学と構造」を検証する。
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研究実績の概要 |
戦時中「半島の神鷲」「軍神」として讃えられた朝鮮人特攻隊員は、植民地解放後は韓国と戦後日本で歴史の汚点と見なされ、長い間歴史の記憶から抹消されてきた。朝鮮人兵士・軍属のなかには、強制的な動員による犠牲者がいたにもかかわらず、解放後の韓国社会では必ずしも植民地支配の犠牲者・被害者とは認められなかったのである。また、日本では、植民地支配や戦争の歴史的脈略から語られるのではなく、感動的なひとつの素材にとして利用された。朝鮮人が置かれていた歴史的環境は無視され、全ての朝鮮人が日本の同化政策に順応・協力した二等臣民として描かれている。朝鮮人特攻戦死者に関しては、特攻隊員に関する様々な出来事が表面化することはあっても、戦後から現在まで社会的評価は一貫して否定的である。その影響もあり、歴史学界では植民地支配と朝鮮総督府の統治政策、アジア・太平洋戦争の戦時動員問題については一定の研究蓄積があるものの、朝鮮人特攻隊員の存在は看過され、包括的研究は見られない。 このような問題意識に基づいて、2023年度は主に日韓両国で忘却されてきた存在であり、日韓の狭間で「歴史の空白」と残っていた朝鮮人特攻隊員に対する日韓両国の歴史認識の違いについて研究を進めた。戦前から現在まで朝鮮人特攻隊員に対するイメージ・意識が日韓でいかに異なり、どのような変容を遂げて社会に受け入れられてきたのかという点を明らかにしようと試みた。そのため2023年度の研究では、特定の一人の朝鮮人特攻隊員に焦点を当てるのではなく、できるだけ多くの隊員を対象とし、彼らの記憶が創出される過程を両国の社会環境とメディアとの相互作用に注目しながら分析を進めた。これらの分析を通して、朝鮮人特攻隊員をめぐる日韓両国における戦争体験・記憶のずれ、歴史認識の違いが生じる要因や社会背景を考察しつつ、両国の国民意識を明らかにしようと試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時の予定より研究はやや遅れているが、その理由は以下の通りである。 (1)予定していたフィールドワークができなかった。 (2)東アジア、特に日本と韓国を対象とした研究内容と範囲から、さらに研究範囲を広げて(ヨーロッパとの比較)研究を進めていることが挙げられる。 東アジア全体の歴史に対する日韓国民の「記憶の空白」を把握していくためには、ヨーロッパ、特にドイツの戦争体験と戦争認識、戦後処理の過程と東アジアとの対比・比較が必要だと考えられる。国境を越えても通用する歴史認識を育むには、一国史観ないし自国中心史観から脱皮することが重要であり、省察的な東アジア歴史像を構築する必要がある。現在の「国史」中心体制から脱皮し、自国史の流れを東アジア地域との関連の中で有機的な関連を持った観点から東アジアの通史を把握していく必要がある。日韓両国は過去の植民地支配と不幸な歴史から自由ではなく、今も歴史認識をめぐる対立は深刻であり、今なお問題が山積している。近隣諸国と対話する姿勢や理解を深めてきたドイツの歴史認識をさらに検討することで、省察的な東アジア歴史像を構築を目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
朝鮮人特攻隊員は両国でどのような存在として記憶され語られてきたのか。その記憶を「親日」と「感動」という言葉に矮小化してよいのだろうか。そして、戦前から戦後にかけて、日韓両国が朝鮮人特攻隊員とその記憶をどのように扱ってきたのかについて検証する。そのために2024年度は、まず日韓両国の埋め難い歴史認識の大きな隔たりをまざまざと見せつけられる出来事であった、「アリラン特攻」卓庚鉉の帰郷祈念碑建立をめぐる問題を取り上げる。慰霊観光、戦跡まちづくりをはじめ、植民地支配や歴史認識、靖国問題、戦後補償などが複雑に絡んだこの問題を通して、近現代日韓両国における「記憶のずれ」を浮き彫りにし、朝鮮人特攻隊員が両国でどのように位置づけられ、受け止められてきたのかを検討する。また、日本における国民意識をさらに分析するために、知覧特攻基地戦没者慰霊祭における韓国人遺族参加の問題と慰霊をめぐる日韓の葛藤・対立、朝鮮人特攻隊員の慰霊碑建立の動き、石川県金沢市の石川護國神社の参道に建立された大東亜聖戦大碑と朝鮮人特攻隊員の無断刻銘問題を分析したい。 上記の問題を検討することによって、(1)朝鮮人特攻隊員の存在は日韓両国に何を語っているのか。(2)朝鮮人特攻隊員はいまだに韓国と日本社会で受け入れられずに、歴史の空白としてひたすら漂流しているが、彼らの慰霊と顕彰についてどのような社会的な合意と議論が必要なのか。(3) 日韓両国は自国の歴史や国家暴力とどのように向き合うべきなのかを検討してていきたい。この問いをさらに明確にするために、ドイツなどの現地調査を通して、東アジア全体の歴史に対する日韓両国民の「記憶の空白」を埋める作業、その可能性について検討したい。2024年は朝鮮人特攻隊員の問題を通して、日韓の近現代史と植民地支配、現在の私たちの課題を再考したい。
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