研究課題/領域番号 |
21K00921
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
和田 光弘 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (10220964)
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研究分担者 |
森脇 由美子 三重大学, 人文学部, 教授 (10314105)
久田 由佳子 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (40300131)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 大西洋史 / アトランティック・ヒストリー / ジョン・チョート / エリー運河 / ゼブロン・ダグラス / キャサリン・ビーチャー / マテリアル・カルチャー / ピーボディエセックス博物館 / アメリカ史 |
研究開始時の研究の概要 |
グローバル化が進む昨今、アメリカ史研究においても、海や国境を越えるヒト・モノ・カネ・情報等の研究が重視されるに至っている。大西洋を囲む4大陸の相互連関を考究対象とする大西洋史(アトランティック・ヒストリー)のアプローチは、まさにその動向の頂点にあり、いわゆるグローバル・ヒストリーとの親和性も強い。本研究ではこの最新の枠組みのもとに、これまで彼の地の文書館等に収蔵されていない新史料の「発掘」と分析を推進し、東海地区における主要国公立大学3校のアメリカ史研究者間のネットワークを構築しようとする野心的な試みである。
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研究実績の概要 |
本研究では東海地区における共同研究という機動力を最大限に生かしつつ、地域・時代ともに幅広い個別事例を収集・分析し、そこから得られたさまざまな知見 を総動員して大西洋史の視座の有効性を示してゆくことを目標とする。研究代表者・研究分担者は、それぞれの担当する研究課題を出発点として本研究のテーマにアプローチした。もっとも本年度も、コロナ禍により海外での史料収集や実地調査が事実上、不可能となり、やむをえず当初の予定を若干変更せざるをえなくなったが、そのような状況下でも、インターネットの活用や、すでに手元にある史料の解析を鋭意進めるなどして、研究の進捗に影響のないように取り計らった。研究代表者の和田光弘は、「シス大西洋史」の一端を明かにすべく、18世紀末マサチューセッツ州の地方名士J・チョートの遺産競売に関する史料の分析を引き続き試みた。とりわけ今年度は、回帰分析などの計量分析を多用して、史料生成の背景に迫った。また、初期アメリカ学会が総力を結集して編んだ学術論文集に、新史料の分析などに関する論文を掲載した。学会報告では、歴史科学協議会・第56回大会予備報告、さらに歴史科学協議会・第56回大会報告で研究成果を報告した。研究分担者の森脇由美子は、引き続き、ニューヨーク州マディソン郡サリヴァンの有力者ゼブロン・ダグラスの邸宅に残された未刊行史料「オネイダ湖運河文書」の分析をおこなうとともに、同運河およびダグラスについて、ニューヨーク州議会などの公文書などから探った。研究分担者の久田由佳子は、家政学の祖として知られるキャサリン・ビーチャーの著作の分析の他、料理用ストーブの発明や衛生観念の変化などのマテリアル・カルチャーの研究、さらに女性史、家族史、労働史などの既存の研究を踏まえながら、19世紀前半の家事労働が工業化の影響を受けてどのように変化したのか、明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者と分担者はそれぞれ担当するテーマのもと、独自に米国の市井より入手して私蔵している未刊行手稿史料のオリジナルなどを中心とする新史料の読み込みと分析をおこない、大西洋史の実証的な深化を試みた。研究代表者の和田は、当該史料分析の成果の一端を、前述の論文で公刊したほか、さらに別の新史料の分析などに関する論文を初期アメリカ学会の学術論文集に掲載した。さらに『歴史評論』の第56回大会準備号に文章を寄せた。また、かつて著した著書『タバコが語る世界史』(山川出版社)が第7刷(1,500部)(2023年1月)、『植民地から建国へ』(岩波新書)が第4刷・第2回増刷(1,500部)された(2022年12月)。後者は、少なくとも今年度は3冊の書籍、1本の論文でも言及された。さらに学会報告では、歴史科学協議会・第56回大会予備報告、そして歴史科学協議会・第56回大会報告で研究成果を報告した。また、来年度に名古屋大学を会場として開催される第73回日本西洋史学会大会の大会準備委員会委員長を拝命している。研究分担者の森脇は、ニューヨーク州サリヴァンの個人宅から発見された未刊行史料のオリジナル(森脇所蔵)を分析の俎上に載せて、同史料の読み込みを進めた。これらの史料は、エリー運河の支線オネイダ湖運河に関する 82 点からなり、サリヴァンの有力者ゼブロン・ダグラスが州議会における証言のためにまとめ、保管していたと考えられ、大西洋の彼方の市場へのアクセスがいかにして可能となったのか、「シス大西洋史」の実践例となろう。研究分担者の久田は、東海ジェンダー研究所記念論集編集委員会の編集委員として論文を寄せた。また大学生向けのテキストにおいて「歴史の扉」を担当し、われわれの大西洋史研究プロジェクトの大いなる理解者であるマーカス・レディカー氏の講演の翻訳を担当した。
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今後の研究の推進方策 |
主要設備としては、関連史資料の収集を引き続き進めるとともに、すでに研究代表者の和田が名古屋大学に導入している「初期アメリカ刊行物史料集成:エヴァ ンス・データベース(America’s Historical Imprints, Series I: Evans, 1639-1800)」を一層活用したい。このデータベースは、17・18世紀にアメリカで出版されたほぼ全ての刊行物を網羅し、大西洋史研究の重要な基礎資料となりうるものであり、研究協力者の所属する愛知県立大学、三重大学にとっても貴重な史料集成といえる。上記の共同作業を通じて、東海地区の主要国公立大学3校のアメリカ史研究者間のネットワークが強固となり、関連文献等も重複なく充実させることが可能となろう。さらに和田は、コロナ禍で困難だった海外調査も予定しており、大西洋史の諸相や史料の利用に関する諸問題を総合的に考察するとともに、個別の適用例として、マサチューセッツ州イプスウィッチの地方名士ジョン・チョートのオリジナル文書(和田所蔵)の分析に引き続き邁進し、大西洋史の下位分類たる「シス大西洋史」の具体相を明らかにする。研究分担者の森脇もアメリカでの調査を予定しており、さらにニューヨーク州マディソン郡サリヴァンの個人宅から発見された未刊行史料のオリジナル(森脇所蔵)の分析を引き続きおこなう。研究分担者の久田は、ピーボディエセックス博物館の諸史料の調査や、捕鯨業に従事する男性とその妻たちの手紙の分析などをおこない、陸に残された女性たちの生活を明らかにし、マサチュー セッツの捕鯨基地の経済的変容、大西洋経済における位置づけなどについて鋭意考究する。来年度は最終年度であるため、研究代表者・分担者ともに、上記の研究の成果を論文にまとめて、広く学界に問いたい(英文での報告書も上梓する予定である)。
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