研究課題/領域番号 |
21K00931
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
朝治 啓三 関西大学, 東西学術研究所, 客員研究員 (70151024)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | グロステスト / 司教区登録簿 / 修道院 / 司教巡察 / 聖職推挙権 / 司牧 / ヘンリ3世 / ウィリアム・ローリ / シモン・ド・モンフォール / イングランド国制 / 修道院巡察 / アダム・マーシュ / フランシスカン / 教皇イノセント4世 / 司教 / 教皇 / 教会法 |
研究開始時の研究の概要 |
カトリック平和共同体建設において、階層制社会の末端にいる信徒にまで統一された信仰内容が伝わるか否かは、各層の聖職者の力量にかかっていた。特に司教は司祭など聖職者を叙階する権限や、司教区巡察を通じて教義の徹底を検査する権限を持つため、彼のカトリック神学の内容が重視された。さらに信徒を聴聞する司牧活動を担う、各層の聖職者組織を統括する能力も司教には不可欠であった。本研究では司教の神学、各層聖職者の司牧能力、司教行政職の制度と機能を司教座未刊行史料から再現する。 本研究により、わが国での西欧カトリック世界の社会構造解明研究に新視角を提供し、欧米の研究者への、日本人研究者としての学問的発信を行う。
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研究実績の概要 |
研究課題としているリンカン司教ロバート・グロステストの司牧と、司教区行政の実態把握、及びその歴史的意義の解明を目指して、今年度には司教区登録簿及び司教書簡を分析した。またリンカン大学とリンカンシァ文書館に赴いて、未刊行史料の解読・転写を実施した。さらに大英図書館やロンドン大学歴史学研究所にて、刊行されている史料及び研究書を調査した。この活動に基づいて次の論文を刊行した。すなわち「アダム・マーシュからグロステスト宛書簡」及び、「グロステストの修道院巡察」である。 前者はフランシスカンのアダム・マーシュが、グロステストに司牧に関して質問し、その回答を受けて、マーシュが司牧の社会的役割について考察した内容を読み取り、今日の神学研究の水準と照らし合わせたうえで、歴史的意義を確定しようとした。13世紀イングランドに住むカトリック信者が、世俗権力者による良き統治を受けるべきであるという神学的必要性を、グロステストが確信し、世俗信徒たる権力者や一般信徒に布教しようとしていたとの結論を得た。後者はグロステストがリンカン司教に就任した直後に、修道院巡察を敢行し、司牧能力や修道院経営能力に問題があると判断された修道院長合計11名を解任し、後任者を叙任した事例を、年代記や司教文書登録簿記録から読み取り、個別に人名同定や、世俗推挙権者との関係を調べた。その結果、世俗権力者の推挙権を通しての司牧活動への影響力行使を、グロステストが司教の布教活動への侵害と見なして、改善を要求していることが判明した。 さらにリンカン文書館での調査結果を踏まえて、司教区内の世俗領主の推挙権の行使の仕方の実態を解明しようとした先行研究を調査し、今後の研究の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
司教の司牧と国制に関する先行研究は、神学の分野ではカトリック神学における神と人を仲介する聖職者の司牧の位置づけや役割に関するテーマが主流である。私はこのテーマでの研究も行い、その成果の一部を「書評」の形で『西洋中世研究』15号に発表した。これに対して法制史学の分野では教会裁判権と国王の世俗裁判権との境界線問題を確定するための両派の闘争という位置づけが主流である。これら二つの研究方法に対して、本研究ではリンカン司教グロステストが実際に行った司教の司牧活動(司教区巡察、聖職者叙任、対ローマ教皇演説、司教会議での国王への演説など)を通して、司牧と世俗国制との関係を、史料解読と実証によって解明することを目指す、といういわば歴史学としてのアプローチを試みてきた。これまでに発表した論文で、対教皇、司教会議での対国王演説、書簡における司牧観の読み取り、神学内容を解明するためのフランシスカンとの書簡のやり取りなどを解明した。令和5年度には、新たにグロステストが国王やその行政役人宛に送った書簡を史料にして、論争となっていた論点を解明した。そしてそれが、世俗権力者による教会聖職への候補者を推挙する権利の行使と、推挙された候補者の司牧能力の審査を重視する司教の司牧観に基づく聖職叙任権の行使とのつばぜり合いであることを知り得た。残されている課題は、司教の司牧観を実現するための司教区行政を担った、司教区役職者(大助祭、地方助祭、教区教会司祭、助祭、クラーク、チャプレン、聖堂参事会、付属小修道院長など)の叙任や解任をめぐる司教の配慮を、具体的に明らかにする作業であり、令和6年度はこの課題の解明を目指す。コロナ禍で渡英できなかったことによる原史料への接近が、2023年5月以降可能になったことで、研究の進展を期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
残る課題は司教区行政の実態解明である。既に2022年度に発表した論文「13世紀イングランドにおける司教による修道院巡察」において、先行研究を渉猟して、論点を抽出しておいたので、2024年度にはそれらの論点ごとに、史料と照らし合わせながら、グロステストが実行しようとした司牧活動と、その司牧を実行するための行政組織や司教区役職者の活動とが、うまくかみ合って機能していたのか否かを調査する。先行研究のうち最新、最高のものはマイケル・バーガーの研究であり、これを出発点として、そこに含まれる未解明点や不十分点を、史料に基づいて、明らかにする。幸いリンカン大学のルイーズ・ウィルキンソン教授から、参考にすべき先行研究の紹介や、史料専門の研究者との面談も可能となったので、予定している課題を達成可能であると思われる。グロステスト研究の第一人者ケムブリッジ大学コーパス・クリスティ・カレッジのホスキン博士とも、学問上の連絡が取れている。司教登録簿の中に司教区役人の任免に関する情報が記録されているので、それらの史料を解読し、先行研究の成果と照らし合わせながら、独自の結論を導き出せるとみている。
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