研究課題/領域番号 |
21K01064
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
鈴木 裕之 国士舘大学, 法学部, 教授 (20276447)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | アフリカ / マンデ / グリオ / 音楽 / ポップス / SNS / モバイル / 口頭伝承 / SNS |
研究開始時の研究の概要 |
アフリカにおいて口頭伝承を担い、ポップスの分野でも活躍するマンデ系民族のグリオによるSNS活用の現状を、コートジボワールのアビジャンを中心に調査する。「オラリティー」(声性)と「リテラシー」(文字性)が融合したメディアであるSNS活用の様態の調査を通し、「文字の文化」である科学技術の生みだす最新のテクノロジーがアフリカの「声の文化」に与える影響を解明し、人類の文化における「声」と「文字」の関係性の総合的理解を目指す。
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研究実績の概要 |
フィールドワークによる資料収集(インプット)、データの整理・分析、その成果の発表(アウトプット)という一連の作業を終えることができた。 まず、2022年8月15日から9月15日まで、コートジボワールのアビジャンにおいてフィールドワークを行った。その際、アビジャンで活動するマンデ系民族の歌手4人をピックアップし、各人にインタビューを行い、活動状況の概況、マスメディアとの関係、SNSの活用状況について詳細な聞き取り調査を行った。また、数件のマンデ系の伝統的な祭礼について参与観察を行い、グリオ(伝統的歌手・語り部)の活動の具体例について調査した。さらにポップス分野の歌手として活動するグリオが楽曲をいかに販売あるいは配信しているかを把握するため、アビジャンの音楽業界関係者にインタビューを行い、最新の音楽事情とグリオの関係について調査した。 帰国後は、調査ノート、インタビュー録音、映像資料などの整理・分析を進め、その成果を論文および学会発表の形で公表した。 論文は、国士舘大学『教養論集』第86号(2023年2月発行)に「アビジャンで歌うのはグリオだけではない:アフリカ現代都市における伝統芸能の変容」を投稿した。ここにおいて、フィールドワークで調査した4人の歌手について、ライフ・ヒストリー、音楽活動状況の推移を紹介し、また彼らが自らの音楽活動においてSNSを活用している状況を報告し、伝統的な音楽活動が近代化・グローバル化に伴っていかに変容してきているかを明らかにした。 日本アフリカ学会第60回学術大会(5月14日)では個人発表「アビジャンで歌うのはグリオだけではない:変容するマンデの「誉め歌」の実践」を行った。そこにおいて前述の論文の概要を示し、アビジャンにおけるマンデ系の祭礼において確認された変容の諸相を、社会構造の変化に関連させながら整理して報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回(2022年8月15日~9月15日)のフィールドワークにおいて具体的で詳細な一次資料を収集することができ、調査を大きく進展させることができた。 ここで調査した4人の女性歌手の事例により、マンデ系社会において本来はグリオと呼ばれる歌手・語り部が職能集団として伝統的な音楽活動を独占するのであるが、近代化が進み、多民族的状況にあるアビジャンにおいてはグリオ以外の歌手が伝統音楽の活動に参入するという状況があることが明らかになった。このアビジャンにおけるマンデ系の祭礼において確認された変容の諸相は、カースト制における役割の変化、父系出自ラインの優位性から母系出自ラインの有効性への変化、グリオ系譜に対する歌う技法の優位性、グリオ職能集団の機能低下と開放化、という4点に整理することができる。 さらに、グリオであるなしにかかわらず、マンデ系の歌手は伝統音楽とポップスの双方の分野で活躍しているが、彼らが自らの音楽活動においてSNSを活用している状況を調査することができた。フェイスブック、WhatsAppなどを利用した広報、Spotifyなどサブスク系のアプリを利用した楽曲配信はすでに常套手段となっており、マンデ系歌手の活動形式を規定し始めているという状況が明らかとなった。 こうして、一方では伝統的にグリオにより担われてきた音楽分野において変容が進行し、もう一方ではグリオも参加するポップスの分野においてSNS等の浸透が加速している状況が確認された。これを踏まえたうえで、次のステップとしてSNSの浸透がポップスのみならず伝統分野にも及び、それによりアフリカの口頭伝承文化にどのようなインパクトを与えてゆくのか、という最終的な課題に進む準備ができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定として、2023年中にアビジャンでのフィールドワーク(約1か月間)を1回おこなう。ここおいて、伝統とモダン双方の分野で活躍し、アビジャンのマンデ社会において影響力の大きいグリオを数名ピックアップし、SNS、インターネット、楽曲配信アプリなどをどのように活用しているのかを具体的に調査する。このようなケースワークを、インタビュー、伝統的祭礼及び芸能活動への参与観察を通して重ねてゆき、最終的な一次資料に加えてゆく。 フィールドワーク終了後は、収集したデータを過去2年のデータと合わせて整理し、SNSがアフリカの口頭伝承に与えるインパクトについて、アビジャンのマンデ系グリオを事例として考察してゆく。 その成果は、論文としては少なくとも国士舘大学『教養論集』に1本投稿し、可能であれば他の著作物として発表する。また今回と同様、次回もアフリカ学会学術大会において口頭発表をおこなう。 当初の予定では隣国ギニアにおける比較調査もおこなうつもりであったが、現在の進捗状況を鑑み、アビジャンにおけるデータの量を増やし、その質と精度を高めるために、今回はアビジャンにおける調査のみに留めておく。
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