研究課題/領域番号 |
21K01076
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
内山田 康 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (50344841)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 核実験 / 生活世界 / 権力 / 力能 / 国家理性 / 無知 / 原子力マシーン / 被曝 / 原子力開発 / 核兵器 / 人類学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は私が「原子力マシーン」と呼ぶ核開発・原子力開発のグローバルかつローカルなネットワークにおいて、核施設について、核実験について、放射能について、誰が何をどのように知っているのか、という問題に答えるために、核実験場とその近くに住む人々の生活世界の変容について調査を行う。主な調査地は、フランス領ポリネシアの核実験に関わる島々であるが、核実験場はグローバルな「原子力マシーン」の一部であるから、メトロポリス(フランスの核関連の研究開発が行われる場所、および関連する核施設)においても、また福島の浜通りと原爆が投下された長崎でも調査を行う。
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研究実績の概要 |
2022年9月から10月までの2ヶ月間、フランス領ポリネシアで2度目のフィールドワークを行い、前回と同様に7週間、ガンビエ諸島のマンガレヴァ島で過ごした。リキテアのある家族が所有する小屋に住みながら、核実験場で働いた人たち、その家族たち、また家族を被曝のために亡くした人々から話を聞いた。島の地理についてよく知るために、マンガレヴァの尾根を走るトレイルのレースの長い方(39キロ)に出場し、島の全ての人たちに知られるようになったことは、その後に調査を続ける上で、とても役に立った。マンガレヴァには二つのブロックハウスが存在していたが、フランス政府に対する被害者の救済の要求およびそのための調査が始まった2005年の後、これらの核実験の遺物は撤去され、核実験の記憶の風化が一気に進んでいたことが判明した。 島の人々が核実験について語り始めたタイミングで、核実験の施設の遺跡が景観から消されたことは、この歴史的な出来事の記憶を消すためのフランス政府による介入が行われたと考えられる。調査の観点から考えると、物質的な証拠が無くなったため、事実について確かめることが困難になっている。また、2005年から一気に進み始めたと思われた、核実験の被害およびより広い影響に関する調査は、様々な物質的な証拠が処分されたため、困難に直面していた。1966年から1974年まで行われた大気中核実験が行われた時代に、CEA (フランス原子力庁)、CEP(太平洋実験センター)、フランス軍に雇用されたポリネシア人たちは、70代になっており、死んだ人たちも多い。核実験に関連した様々な施設は、フランス軍によって解体され撤去され、環礁のどこかに埋められたが、急いで行われたために残骸や瓦礫は少し残るものの、大きな施設は全て不可視化されている。また国家の秘密の壁に阻まれ、核実験の事実に関する記録にはアクセスできないままである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フランス領ポリネシア、ガンビエ諸島のマンガレヴァにおける調査は、非常に充実したものとなった。2022年9月11日に行われたマンガレヴァトレイルの島の全ての尾根を走る39キロのレースに出て、島の人々に走る姿を見られ、また最高齢の感想者として表彰されて、島の全ての人々に知られるようになったからだろう。人々は私に興味を持ち、どこに行っても声をかけられるようになった。そのために様々な人たちに話を聞くことが容易になった。 調査の結果は、福島の浜通りの原発事故に関心を持つ人びとが読む、「日々の新聞」において1ヶ月に2回のペースで連載を執筆しており、2022年度はフィールドワークの期間を除き20回書いてコミュニケーションを図った。2022年12月4日には広島市において日本文化人類学会主催のシンポジウム「原子力マシーンとちっちゃいこえ」で進行中の研究の報告を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
グローバルな原子力開発における周縁の生活世界の変容について、核実験の様々な影響を受けた福島の浜通りから調査を開始し、フランスのラ・アーグの再処理工場の近隣の生活世界、イギリスのセラフィールドの再処理工場の近隣の生活世界、ガボンのムナナのウラン鉱山に囲まれた生活世界、そして核実験場に近いフランス領ポリネシアのガンビエ諸島で調査を行い、それぞれの地域に固有な状況だけでなく、グローバルな原子力マシーンの中枢から同じ人々が訪れていること、同じ制度的な制約があることが明らかになってきた。この非対称性、すなわち原子力開発と核のごみが捨てられる場所の非対称性、核弾頭と核実験場の非対称性は、他の様々な非対称性と同じ形をしていると考えられる。 本研究において、私はフランス領ポリネシアのガンビエで人類学的な調査を行いながら、その研究の過程を発信する活動を続けてきた。3年目は、核開発を主導してきた中心的な諸制度と、それらが実験場、核のごみの処理場、あるいは緩衝地帯として使ってきた周縁の多様な生活世界との関係から、どのようなパターンが見出されるのかについて比較研究をすることに力を注ぎたい。
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