研究課題/領域番号 |
21K01135
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05020:公法学関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
阿部 雪子 中央大学, 商学部, 教授 (50299814)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | BEPS防止措置実施協定(MLI) / PPT条項 / Principal Purpose Test / MPT条項 / Main Purpose Test / 所得の分割 / リスク / 権原の保持 / 夫婦財産制 / 課税単位 / 所得の人的帰属 / 財産の帰属 / 国際的租税回避 / 受益者要件 / OECDモデル租税条約 / OECDモデル租税条約コメンタリー / トリーティショッピング / LOB条項 / 受益者条項 / 租税条約 / トリ―ティ・ショッピング(条約漁り) |
研究開始時の研究の概要 |
近時、租税条約上の受益者をめぐり注目すべき裁判例が現れている。これまで各国の裁判例では受益者か否かにつき法的基準により判断していたが、2015年の連邦最高裁Swiss Swap判決は、経済的実質の観点から受益者に該当しないと判断した。本判決における受益者の判断基準及び適用範囲の考察は、わが国が国際的に協調し税源浸食と利益移転の問題に対処していくために重要な意義がある。またOECDは条約の特典の濫用を防止するためにLOB条項を導入しているが、LOB条項と受益者条項の範囲が交錯する場面があり不明確であるという問題がある。そこで国際的租税回避防止策の観点から両条項の機能及び適用対象を明らかにしたい。
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研究実績の概要 |
本年度の成果として第1に、国際的租税回避防止の観点から、主要目的テスト(Principal Purpose Test;PPT)条項の適用要件の解釈につき、PPT条項と同様の要件を備える英国のMPT(Main Purpose Test;MPT))条項を手掛かりに解明した。PPT 条項は、2017 年に租税条約の一般的濫用防止条項としてOECD モデル租税条約第 29 条(9)に導入され、その後、BEPS防止措置実施協定(MLI)7条1項に条約濫用防止を目的として採用されるに至ったが、適用要件が曖昧で、かつ不明確であるとして解釈上の問題が指摘されてきた。そこで、英国のMPT条項の主要目的要件の解釈が問われた2022年の英国の裁判例を参照しつつ検討することを通じて、PPT条項の適用要件の意義を明らかにした。本件と同様に、特定の租税条約濫用防止条項が締約国の租税条約に置かれている場合、租税条約濫用防止条項とPPT条項のいずれを適用すべきかという適用関係の優劣の問題をも明らかにした。この点は、受益者条項と特典制限(LOB)条項の適用関係を検討する上で重要な意味がある。本成果は、国際取引法学会において報告し、識者から有益な知見を得ることができた。また国際取引法学会誌に登載することができた。第2は、所得の帰属アプローチを採用する受益者条項に関連して、所得が誰に帰属するのかという問題に着目し、資産の所有者とその資産の権利から生ずる収益の法律上(私法上)の権利者が分離している事案につきアメリカ法を参照しつつ検討し、人的帰属の判断基準を明らかにした。本成果は、研究会において報告するとともに雑誌に公表することができた。第3に、次年度、国際研究会の報告に向けてカリフォルニア大学バークリー校ロースクールの教授と事前打合せを開催し、テーマの方向性について有益なご指導ご助言を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記のとおり、2024年9月開催の国際取引法学会において、主要目的テスト(Principal Purpose Test ;PPT)条項の解釈および適用関係等に関して研究報告並びに学会誌に論文を寄稿したことは大きな成果である。また、所得の人的帰属の判断基準の明確化の視点から、最近の裁判例について諸学説の議論の蓄積を踏まえて比較法的に検討し、口頭での報告、個々の質問事項に関する応答、意見交換等を通じて有益な知見を得ることができた(租税法研究会)。所得の帰属との関連では、国際租税研究協会(IFA日本支部)のセミナーにおいて暗号資産取引をめぐって交換と課税繰延べの観点からコメントを行った(租税研究雑誌)。次年度(2024年10月)開催予定のUC Berkeley School of Lawの国際研究会のシンポジウムで報告する機会を得たことから、その準備並びに資料作成に向けてUC Berkeley School of Lawの教授と事前の打合せ会議を実施できたことは大きな成果といえる。事前の研究会を通じて、次年度の国際的なシンポジウムの報告者として深度ある研究の実施が期待できる。以上から、1年程度、研究期間を延期して、国際的租税回避防止の観点から、租税条約上の受益者条項、特典制限条項(Limitation on Benefit;LOB条項)の法的解釈の問題を所得の帰属アプローチと結びつけることにより比較法的、総合的な法制度の研究の実施を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
租税条約における受益者要件並びにPPT条項の機能、適用要件及びその適用範囲の問題について質の高い研究が求められているなかで、本テーマに関しては、次年度の国際研究会シンポジウム(2024年10月)の報告に向けて、UC Berkeley School of Lawの教授と緊密に連携することにより受益者条項の法的解釈の考察をさらに深化させたい。文献資料の収集、購読を更に加速させつつ受益者条項、PPT条項の適用範囲や機能などの考察を行い、所得の帰属の視点から受益者条項の解釈論の確立を行うことが最終的な目的である。また、国内では論文の公表も予定している。
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