研究課題/領域番号 |
21K01175
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05040:社会法学関連
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神吉 知郁子 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (60608561)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2021年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
|
キーワード | 分配・再分配 / 公平性 / 最低賃金 / 賃金規制 / 有期雇用の無期転換 / 同一労働同一賃金 / 不合理な労働条件格差 / 最低賃金制度 / 労働法 / 分配 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,賃金に関して法的規制を及ぼす際に,労働市場における資源の公正分配の法的規範性や,契約の自由を制限する理論的根拠と限界を明らかにする計画である。具体的には,最低賃金規制と同一労働同一賃金規制を入口として,社会保障法分野における再分配の基礎的な理論を反映させながら,従来の実践を評価し,労働法制のもつ公正分配機能のあり方の提言をめざす。研究手法としては,文献やデータベースを用いた歴史研究,判例研究および最新の議論動向をフォローしながら,ヒアリング等によって実務の状況も確認する。そして,日本の問題を相対視するために,現地の研究者との交流を行いつつイギリス法との比較法研究を取り入れたい。
|
研究実績の概要 |
本年度は、労働者の生活を支える重要なシステムであり、格差是正の効果をもちうる最低賃金制度について、まずは賃金規制それ自体がもつ5つの機能((1)労働者の権利保護機能(2)社会正義の追求機能(3)労働市場の調整機能(4)経済的持続可能担保機能(5)当事者参加と民主的プロセス促進機能)のうち、従来あまり考察されてこなかった(2)(3)(4)機能を軸に理論的整理を進めた。これらの機能は、社会や市場全体の将来にわたる分配の最適化機能と再定義できる。労働の対価としての賃金支払は、実際には、社会資源の一次分配として機能しており、このような賃金のもつ分配機能をふまえて、自由と同様に重視されるべき平等という価値に立脚すれば、賃金規制は両者の最適なバランスをとるための重要な分配の契機とみることができる。また、社会資源の分配という観点からは、賃金と同様に「時間」の分配についても目配りすべきではないかという気づきが得られた。 とくに、比較法としてのイギリス研究では、近年、政府主導でコロナ禍にもかかわらず最低賃金の急激な引き上げが実現している理由など議論の経緯や理論的正当化根拠を調査した。社会的背景としては「生活賃金」運動の影響が指摘されるが、他方で、それは稼働年齢世帯への社会保障給付の縮減と表裏一体であり、両者の関係を労働を通じた一次分配と社会保障を通じた再分配との連動関係に着目して整理した。また、イギリスの最低賃金制度では、労働者の健康確保のために把握される労働時間と、賃金算定基礎となる就労時間とが区別され、市場への介入に抑制的なイギリスにおいて最低賃金引き上げのドライブとなりえていることがわかり、日本法への示唆を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献や資料調査については、概ね計画通りに進展している。比較法研究については渡航しての現地調査に対する制約により、やや課題が残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、賃金や労働時間の決定の公正分配機能の可能性を探るという課題にも向き合い、何らかの共通目的を目指すプロセスとして保障すべき手続的な公正さに目配りしたい。公正分配機能については公正さという相対的な規範的価値が問題となることから、そもそもそれが公正であるとの判断自体が常に議論の余地が残るものであり、その判断に至った手続的な公正さの担保がより重要であると考えられる。政策的な観点から規制を及ぼす際に、労働市場という共同体において資源が公正に分配されるべきであるという考え方そのものが何らかの規範的な力をもちうるか、もちうるとすればそれがどのような理論的根拠に基づいて、契約の自由をどこまで制限しうるかという可能性と限界を具体化する作業を進める所存である。
|