研究課題/領域番号 |
21K01179
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05040:社会法学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
矢野 昌浩 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (50253943)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 職業訓練 / セーフティネット / リスキリング / 自己決定 / 社会的セーフティネット / ディーセント・ワーク |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、労働者主導と使用者主導、社会化と企業内化という2つの対立軸から日本とフランスの制度の比較検討を行い、日本で労働者主導の職業訓練を可能にする制度論の考察を目指す。OJTと不可分の労働そのものでもなく、生活それ自体を支える社会的保護でもない、一定の規制の下で特定の社会的に有用な活動を行う者に対する公的機関・企業からの給付からなる、職業訓練固有の制度領域の確立をいかに図るかが課題となる。
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研究実績の概要 |
1 職業訓練の法的仕組みを検討するにあたっての前提と基本的な視点を、デイーセントワーク保障と使用者権限規制という課題設定のもとであらためて明確にした。フランス法の最近の動向について自営業者も含めて整理するとともに、2018年法改正時の立法者のアイディア(一人ひとりの選択と能力形成・活用を可能にする、システム内のアクター間の新しい協力メカニズムを再発見する、訓練が資金提供者の選択に近いほど、資金提供を受ける可能性が高くなり、個人の選択の度合いが減少することはよく知られているが、個人的権利を経済効率のみに奉仕する劣等なものにせずに、職業生活の選択のために人間に奉仕する文字通りの道具にする)を明らかにした。 2 COVID-19のパンデミックのもとで、量的にも質的にも「赤字」が露呈したケアの提供について、「無償ケアワーク-有償ワーク-有償ケアワーク」の相互作用という仮説(ケアワークに関する2018年のILO報告)を踏まえて、従来のケア論に関する議論ではかならずしも正面からとりあげられてこなかったと思われる、ディーセントケアワークアプローチの意義等を検討した。この検討では、一定の職業資格を取得することがディーセントワーク保障に繋がるという仕組みづくりが重要であるという問題意識を1つの前提としており、ケアワークをその具体的なフィールドとして選択した。 3 リスキリングや人的資本開示に関する近年の国際的な動向と、それに影響を受けた日本の政策動向の検討に着手した。日本の従来における職業訓練に関する法的仕組みは、職業訓練・能力開発を中核とする施策等を行政が総合的・計画的に講じるための法にとどまっている。現在の日本の政策動向はソフトローを中心としており、関係者に具体的な行動指針を示す点では異なるが、労働者の権利保障という点からのアプローチがみられない点は通底している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本法とフランス法の検討は基本的には予定通り進行した。最近議論されるようになったリスキリングに関する政策動向の検討に着手した。 すなわち、日本法とフランス法に関する検討の成果については、上記「研究実績の概要」に記載のとおりである。ケアワークに限定してであるが、ILOの議論動向もフォローすることができた。それとともに、リスキリングに関する世界経済フォーラムでの2018年以降の議論動向の分析に開始した。また、国際標準化機構(ISO)、アメリカ証券取引委員会、東京証券取引所などにおける企業の人的資本情報開示の潮流の概要を把握した。これとの関係で、現在、日本政府が議論している「新しい資本主義」における人的資本投資強化論について、政策文書の検討を始めた。さらに、厚生労働省労働政策審議会人事開発分科会での議論動向や、雇用保険法における能力開発事業等の改正動向をフォローした。企業の教育機能という点から、インターンシップに関する政策動向についても視野に入れて検討を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
日本におけるリスキリングに関する政策動向を検討する。その際に、EUレベルでの職業訓練に関する政策動向についても留意するようにする。 すなわち、上記「現在までの進捗状況」で記載したように、現在、日本政府は人的資本投資強化を進める政策をとっており、賃上げと労働移動の円滑化と人への投資という3つの課題を「三位一体労働市場改革」として検討している。企業による労働者へのリスキリングが政策課題のシンボルとされて、賃上げあるいは個々の企業の実態に応じた職務給導入と外部労働市場の機能強化と結びつけられながら議論されているが、この政策動向の理論分析を行う。また、企業の教育機能の重視という点は、1985年の職業能力開発促進法制定のときと同じコンセプトであるが、労働者の選択保障と企業のガバナンス改革が組み込まれているのが新しいといえる。近年の改革動向を、戦後日本の職業訓練法をめぐる議論のなかで位置づけて評価したい。その際にフランス法やEU法との比較も行う。以上の作業に付随して、企業の教育機能とのかかわりではインターンシップも重要な役割を果たしており、かつ改革に関する政策論議が進んでいることから、比較法的検討も加味しながらその分析を進める。
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