研究課題/領域番号 |
21K01267
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
秋葉 悦子 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (20262488)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
完了 (2023年度)
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配分額 *注記 |
910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 医事法制 / 最善の医療 / 医師の職業義務 / 自由意思 / 公的医療制度 / 自律 / 実践倫理 / 救命措置の放棄 / トリアージ / 医師による自殺幇助 / 治療中止 / 執拗な治療 / 事前指示 / 医療資源の分配 / パンデミック / 公的医療 / 治療義務の限界 / 自殺幇助 / 安楽死 |
研究開始時の研究の概要 |
交通事故で視力を失い四肢麻痺に陥った著名なディスクジョッキーが、心身の苦痛に耐えかねてスイスの安楽死クリニックで医師の幇助によって自殺した事件について、イタリアの憲法裁判所は2019年、医師の自殺幇助は一定の条件下で自殺幇助罪を構成しない旨を判示した。医師の自殺幇助と治療中止の限界をめぐる一大論争が巻き起こされたが、2020年春、コロナ禍による医療崩壊が生じ、人々の関心はパンデミック下でのトリアージの基準をめぐる議論へと移行した。現在、正当な治療中止と違法な自殺幇助の限界の画定と、緊急事態下での患者選択基準の策定が急ピッチで同時進行している。イタリアの議論を調査分析し、日本法への示唆を探る。
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研究成果の概要 |
医師の治療義務の限界は、患者の自由意思と最善の医療の二つの基準によって画される。前者は新自由主義思想下で医師の自殺幇助を要求する権利にまで拡大した。後者はこの度のパンデミック下で限られた医療資源を衡平に配分するために機能した。 2019年のファーボ事件判決後、イタリアの医事法制は医療崩壊の危機を経て、患者の自由を尊重しつつも医師の職業倫理と相容れない自由には譲歩せず、人の生命と傷つきやすい者を最低限保護することを明確にした。自由権の基礎にある生命の倫理的価値、最善の医療の実践を目指す医師の職業倫理が護持し続けてきた伝統的な共通価値を論証したと言える。
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
治療義務の限界をめぐる議論は、日本の学術界では主に患者の自由意思の視点からなされている。しかし患者の自由意思の無批判的な尊重は、最善の医療の提供を職業義務とする医師の倫理と相容れない。 パンデミックや地球温暖化によって危機にさらされている生命と健康を護るために、個々人がそれぞれの場所でプラネタリー・ヘルスを構築する取り組みが様々な形で本格化している今日の世界情勢に照らしても、医師の職業倫理という共通の視点からの考察は不可欠である。自由診療を基本とする米国の医療とは異なり、堅固な公的医療制度を発展させてきた日本の医療は貴重な模範となりうる。イタリアでの議論はその参考になる。
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