研究課題/領域番号 |
21K01272
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
丸山 英二 神戸大学, 法学研究科, 名誉教授 (10030636)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 倫理審査委員会 / インフォームド・コンセント / 生命科学・医学系研究に関する倫理指針 / IRB / コモン・ルール / 倫理審査 / Sarah Babb / 個人情報保護 / 生命倫理 / 研究適正実施 |
研究開始時の研究の概要 |
医学研究の実態を踏まえた上で,インフォームド・コンセント,倫理審査,個人情報保護などの要件にかかる規制の内容と体制をわが国および欧米について把握するとともに,内外の先行研究を踏まえてそのあり方を研究し,対象者の保護,研究の適正実施の確保・推進,不適正実施の防止に資する研究ガバナンスの望ましい形式と内容を,根拠となる倫理原則とともに体系的に提示する政策提言を行う。 あわせて,研究者に医学研究の実施のために行うべきこと,行ってはならないことを周知するための方策を検討するとともに,医学研究に対する各国の取組みの異同の背後にある社会文化的環境や法的環境の相違を把握しその由来するところをつきとめる。
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研究実績の概要 |
令和4年度においては、2021年3月制定の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(以下、「生命科学指針」)が、個人情報保護法の令和3年改正に対応するため2022年3月に一部改正されたことを受けて、その内容を把握し、批判的に検討するとともに、その内容を解説する資料の作成をした。その中で、インフォームド・コンセント(以下、「IC」)の要件に関して、従前にない取扱いが規定されていることを示すとともに、ICの簡略化が許容される場合が個別に規定され、一般的適用が否定されていることを批判した。また、昨年度から引き続いて、生命科学指針で多機関共同研究の倫理審査に関して一括審査が原則化されたことを踏まえ、一括審査が用いられる場合の倫理審査委員会と審査依頼機関との関係と責任の分担に関して検討した。あわせて、生命科学指針2023年一部改正に向けたパブコメにおいて、悉皆的研究に係る同意について意見を提出した。 前年度から引き続き、Sarah Babb, Regulating Human Research (2020)で描写・分析・評価された米国のIRB制度について検討し、Babbの著書を紹介する拙稿「人対象研究の規制――IRB (Institutional Review Board,施設審査委員会)の変容」を完成させた(アメリカ法2022-1号〔2022年12月〕)。 日本医学会の子宮移植委員会に参加した関係で依頼され、臨床研究としての子宮移植の実施に関し従前の研究で得られた知見を用いて昨年度に執筆した「子宮移植と法」の刊行を得た(移植57巻1号〔2022年5月〕)。 疫学研究倫理指針を中心に医学研究倫理指針のこれまでの経緯を振り返る報告(研究倫理を語る会)とがん登録と個人情報保護法について考察する報告(生命倫理学会研究倫理部会)〔いずれも2023年3月〕をすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.著書紹介を執筆したSarah Babb, Regulating Human Research (2020)により、米国の医学研究(広くは人を対象とする研究)のガバナンスにおいて中心的位置を占めるInstitutional Review Board(施設審査委員会、IRB)について、米国連邦制度における法規制の特徴という観点から、社会学的検討も含めて理解することができた。同書は、米国では、雇用機会均等、医療プライバシーなどの領域とともに研究ガバナンス領域においても、連邦政府は規制の枠組み等は用意するが、実質的対応は民間部門が担うという、ヨーロッパにもわが国にも見られない実態があることを示すとともに、倫理審査委員会事務局の拡充とその専門職化、効率向上のためのツールや外部委託の活用など、日欧に共通して見られる動きについても指摘しており、背後にある法的環境や社会の相違を弁えつつ欧米の動向を参照しながら研究ガバナンスのあり方を考究するという私の研究のとりまとめに有益な知見と今後の研究の方向性を示した。 2.生命科学指針で多機関共同研究に対する倫理審査が原則一括審査とされたことを踏まえ、2020年1月から連邦の補助を受ける多施設研究について単一IRBによる審査を義務づけた改正コモン・ルールとその下での倫理審査のあり方をめぐる米国での議論を参考にしながら、わが国における一括審査のあり方について、研究を続けた。 3.生命倫理、医事法学、医学関係の学会・研究会に積極的に参加し、それを通して、倫理審査委員会をはじめ医学研究の実情や医学研究に関する法令・指針が研究現場に及ぼしている影響について情報を収集した。 4.個人情報保護法2021年改正を踏まえた生命科学指針2022年改正について資料を収集し検討した。改正された生命科学指針を解説する研修の講師を務め、またZoom動画を試行的に作成・公開した。
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今後の研究の推進方策 |
1.2022年度までの作業によって得られた米国のIRB制度と日欧の倫理審査委員会制度の特徴に関する知見に基づいて、日欧米の倫理審査の制度と実態に関する欧米研究者の研究を参照し、倫理審査制度のあり方について自分なりの分析・評価を行い、その結果を提示したい。あわせて、わが国における研究倫理指針策定の黎明期における作業が、米国の制度などを参照しながら始められた2000年代前半における米国内の議論状況について、一次資料も参照して検討したい。 2.多機関共同研究の原則一括審査に関して、引き続き、多施設研究について単一IRB審査を義務づけた2020年施行の改正コモン・ルールをめぐる米国での議論、一括審査が原則の欧米での議論を参考に、わが国における一括審査のあり方について検討を進め、論稿にまとめたい。 3.2023年3月に告示された生命科学指針の2023年改正について批判的に検討し、個人情報保護法とあわせて解説するZoom動画を作成する。 4.近年の臨床研究法及び再生医療法の研究の部分に係る改正について検討し、そのあり方について見解をとりまとめる。 5.近年、従前のゲノム解析研究において、収集された試料・情報のうちマイノリティーのものについては使用されなかったり、捨てられたりして来たことが問題視され、米国では、これを人種等による差別を禁止する公民権法違反と捉える見解が散見されるようになっている。この問題について文献調査を行い、その検討を開始したい。
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