研究課題/領域番号 |
21K01318
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分06010:政治学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川出 良枝 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (10265481)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 自由 / アレゴリー / 西洋政治思想 / 図像 / 視覚イメージ / 支配 / 人文主義 / ジャン=ジャック・ルソー / フランス / 政治思想史 / 西洋政治思想史 / 革命 |
研究開始時の研究の概要 |
政治理念は言語による理性的説得のみならず、感情や想像力に訴えることで受容、あるいは拒絶される。その際、視覚イメージが果たした役割は大きい。本研究は「自由」(liberty, freedom)という西洋政治思想において重要な位置を占める理念が、視覚イメージとしても活発に表出された点に注目する。ルネッサンス以降の西洋社会において、「自由」はしばしば古代ローマの女神像というアレゴリーによって表された。思想書の扉絵や挿絵、英米仏の革命期における図版・彫像・演劇・扮装などがその例である。こうした自由の視覚イメージの変容の過程を追跡することを通し、西洋政治思想史における自由観念の多様な諸相を解明する。
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研究実績の概要 |
本年度は、ヨーロッパの複数の国における自由の表象を分析する前提として、名誉革命の成功により先行して自由な国家としての自覚を強めたイギリスと他の国(とりわけ絶対王政下のフランス)との相違を分析する作業に取り組んだ。というのも、近年の修正主義的歴史分析においては、英仏両国の自由の度合いは従来考えられてきたほど違いはなかったという見方もされているからである。この点は、『フランス絶対主義』(コザンデ / デシモン著)が総括的な分析を行っており参考になった。絶対王政を全体主義のような抑圧的な体制とみるべきではないにせよ、フランスのアンシャン・レジームと、より自由主義的改革が進んだイギリスの名誉革命体制における自由の表象の共通部分と差異を拾い上げることは、政治史の知見とも連携する広がりをもちうるのではないかという確信を得た。 平行して単著『平和の探求』を刊行した。これは別のプロジェクトの成果物でもあるが、本研究の問題視角をこの著作にも早速投影することができた。すなわち、平和と戦争の視覚イメージに着目し、平和であることと自由であることの関係についてその「結論」で討究を深めることができた。自由民主主義体制の21世紀的課題を討究する、対談を元にした論考(谷口将紀との共著)も刊行した。 本研究はもっぱら西洋圏の思想や視覚イメージを対象とするが、比較の参照軸として中国や日本が貴重な位置を占めることに着目できたことも重要な成果である。 計画段階では十分想定しきれなかった要素について、柔軟に研究を進める一方で、当初の計画通り、17世紀から18世紀にかけての代表的な政治思想作品の扉絵における図像の蒐集も順調に進んでいる。図版のデザインに強い影響力を発揮したホッブズ、商業的な成功を期する出版業者との間で図版をめぐって何度もやりとりがあったルソーなど、扉絵もまた一つの思想の反映であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年7月にローマで開催される国際学会で発表することが決まり、その準備のために、2月から3月にかけて、パネルを組む報告者達を集めた準備のための研究会が2回開催された(4th and 5th Colloquium of the East Asian Intellectual History Network)。そこでの討議を経て、報告原稿もほぼ完成している。 図像の蒐集についても順調に研究を進めている。当初の計画では、自由、支配、ナショナル・アイデンティティに関する図像の分析を志し、またそれに連動してもっぱら人文主義的な枠組みに入る図像にのみ着目していたが、蒐集の過程でこれではやや分析の範囲が狭いことも発見した。さらに広範なアプローチにより、自由のアレゴリーのもつ豊かな意義を明らかにする必要があることを認識するに至った。 また共同研究という形での知見の拡大についても積極的に関与した。たとえば、『フランス絶対主義』の翻訳書の出版を記念して合評会が開催され、その評者の一人として参加することで、他の評者や、同書を綿密に分析した上で日本の読者のためのコラムや索引まで用意した翻訳者たちと活発な議論を行うことができた。また、ナショナリズムの問題を幅広く理解するために社会思想史学会のシンポジウムで「多文化共存の条件」という企画を立ち上げ、司会者を務め、事前準備のオンライン研究会の開催も含めて、登壇者から多大なる刺激を得た。
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今後の研究の推進方策 |
視覚イメージが用いられる目的には様々なものがある。すなわち、自らの思想を図像として表現することでさらに明確化したり、読者にアピールするために読者好みの図像を用いたり、あるいは文字を読むことのできない民衆を政治的に動員する道具としたりといった多様な目的である。この点を明確に分類整理することが今後の研究の推進に際して重要になってくる。また、これまでの研究の遂行過程で、当初計画していたものより幅広く図像を蒐集し、また、無理のない形で非西欧圏における視覚イメージとの比較なども試みる可能性を認識するに至った。この発見を活かして、さらに図版の蒐集と整理、それをふまえた分析をおこなう。あわせて、思想と視覚イメージとの関係についても、様々なパターンがあることを踏まえた緻密な分析をおこなう。 得られた成果については、国際学会での報告、また、報告をふまえたジャーナルへの投稿により公刊していく。
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