研究課題/領域番号 |
21K01385
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07010:理論経済学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中嶋 智之 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (50362405)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 最適課税問題 / 私的情報 / プリンシパル・エージェント問題 / 連続時間最適化問題 / プリンシパル・エージェント・モデル / 最適課税 / 連続時間プリンシパルエージェント問題 |
研究開始時の研究の概要 |
近年多くの国で所得格差や資産格差の拡大が社会問題化しているが、実証研究によれば、この2つの格差の原因は同一ではない。すなわち、現実に観測される資産格差は所得格差の結果ではなく、それ独自の要因を反映したものと考えられる。所得格差是正のための最適政策については多くの理論的実証的分析の蓄積があるのに対し、資産格差については未だ十分とは言えない。本研究は、そのギャップを埋めるべく、資産格差のもとでの最適な所得再分配政策についての理論の構築と分析を目的とする。
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研究実績の概要 |
2023年度も前年度に引き続き、政府の最適(マクロ)経済政策について研究を行った。特に、情報の非対称性やコミットメントの問題などにより、資産市場が不完全であったり非完備であったりする場合に望まれる経済政策に関する分析を進めた。特に、ここ数年継続している研究が、そのようなマクロ経済政策分析に理論的基礎を与えるダイナミックなプリンシパル・エージェント問題である。ダイナミックなプリンシパル・エージェントに関する既存の研究では、(プリンシパルにモニターされない形で)エージェントが資産蓄積を行うことを許容しないことが通例である。その理由のうち大きなものが、いわゆる、first-order approachの適用可能性の問題である。First-order approachとは、プリンシパルの最適化問題の制約条件であるエージェントの誘引両立条件をエージェントの効用最大化問題の1階の条件で置き換えるapproachである。多くの場合、プリンシパル・エージェント問題を理論的・数量的に分析するうえで、first-order approachの適用がcrucialなステップになる。それにもかかわらず、ダイナミックなプリンシパル・エージェントモデルにおいて、エージェントの資産蓄積を許した場合のfirst-order approachの適用可能性は、未だ十分に明らかになってはいない。当該年度も、この点について検討を進めてきた。特に、Sannikov (2008)、Di Tella and Sannikov (2021)、Kocherlakota (2004)などのプリンシパル・エージェント問題においてfirst-order approachの適用可能性について分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
貸し手側のコミットメントの限界により、借り手と貸し手の関係に非効率性が生じる可能性について、特に借り手が政府であるケースについて理論的に分析したものがJournal of Money, Credit, and Bankingに掲載された(Kobayashi, Nakajima and Takahashi, 2023, “Debt Overhang and Lack of Lender’s Commitment”)。Sannikov (2008)、Di Tella and Sannikov (2021)のモデルを拡張し、ダイナミックなプリンシパル・エージェント問題において、エージェントに資産蓄積を許した場合にfirst-order approachが適用できることを議論した論文” Principal-Agent Problems with Hidden Savings in Continuous Time: Validity of the First-Order Approach”に関して、より一般的な仮定のもとに結果を拡張する作業を行った。Kocherlakota (2004)で分析された最適失業保険のモデルにおいても、類似した手法を用いてfirst-order approachが適用できる可能性について分析を行った。これらの結果を得るために、確率微分方程式(特にforward-backward stochastic differential equations)や偏微分方程式(特にviscosity solution)の理論の適用についても検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、これまでの研究に基づき、私的情報などにより資産市場に不完全性・非完備性がある状況における望ましい経済政策に関する理論的分析と、idiosyncratic riskのあるマクロ経済モデルを用いたより数量的な分析を勧めていく予定である。
例えば、以下のようなテーマを考えている: (1)貯蓄がモニター可能でない場合の保険提供の理論を最適な失業保険の提供の問題に応用すること、(2)民間による 保険提供がある経済において、社会保障に関して政府が果たすべき役割についての理論研究、(3)人的資本など政府によってモニター可能でないような資産蓄積 が可能な経済での最適な所得再分配政策、(4) 動学的なメカニズムデザイン問題の連続時間の最適制御問題のフレームワークにより分析すること、(5)労働者の moral hazardの問題がともなったlabor search modelでの最適なマクロ経済政策など。
更に、より数学的な研究課題としては、dynamic programmingにおけるHamilton-Jacobi-Bellman方程式のviscosity solutionやstochastic maximum principleにおけるforward-backward stochastic differential equationsの最近の理論的結果を、経済問題へ応用することも検討していきたい。
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