研究実績の概要 |
令和5年度は、初期値を0とする線型過程を誤差項にもつ条件付き移動平均モデルに対するWald検定の研究を行った。令和4年度も条件付き移動平均モデルに対するWald検定の検定を行ったが, 4年度はマルチンゲール差分過程のもとで行っていたものを, 誤差項に対してより一般化した線型過程を許した上での検定理論を構築した。 線型過程のもとでは, 補助方程式に基づいた最小2乗推定量の漸近分布は長期分散と短期分散の比を局外パラメータとして持つため, 最小2乗推定量をもとにした検定は実行不可能である。そこで 、帰無・対立仮説の両仮説のもとで長期分散と短期分散の一致推定量を提案し、最小2乗推定量の修正を行うことで実行可能な検定の提案を行った。 本研究で提案している検定は疑似対立仮説パラメータに依存するため, このパラメータを適切に選択する必要がある.そこで, 平均検出力基準に基づくパラメータの選択手法の提案を行った。これまでの先行研究では, 検出力関数が具体的な分布による陽な表現が得られない場合、正確さに劣るシミュレーションによる方法に頼らざるを得ないが, 本研究では特性関数をもとにした数値計算による手法を提案しており, これは本研究が研究対象としているモデル以外にも適用可能な極めて汎用性も高く、シミュレーションによる手法よりも正確である。 研究成果は, 国内では2023年10月10日に慶應義塾大学,海外では、2023 Joint Statistical Meeting(トロント)とIMS APRM 2024(メルボルン)にて報告を行った。さらに, COMPSTAT2024(ギーセン)に採択されたため学会報告を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は令和4年度に引き続き1次のオーダーの条件付き単位根移動平均(MA(1))過程のWaldタイプの研究を行った。 令和4年度の仮定を拡張しWaldタイプの検定手法の提案を行うことに成功し, 数値計算による新たな疑似対立仮説パラメータ選択手法の提案を行った。いずれの成果も重要な貢献であると考えられるが, 新たな疑似対立仮説パラメータ選択手法の提案は本研究で扱うモデルを超え様々なモデルに応用が可能であり、既存の手法よりも極めて正確にパラメータを選択することができるため特に重要な貢献であると思われる。 以上のことから進捗状況は「(2)おおむね順調に進展している。」と言える。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度までは、条件付き単位根移動平均過程のWaldタイプの検定手法についての研究を行った。令和5年度の予定としては、当初、初期値も撹乱項とする定常な単位根移動平均過程のWaldタイプの検定を行う予定であったが、計画を変更し線型過程を許すモデルにおける検定理論と検定結果に影響を与えるハイパーパラメータの選択問題に関する研究を行った。そこで, 令和6年度では、当初の計画通り初期値も撹乱項とする定常な単位根移動平均過程のWaldタイプの検定を行い、MA(1)モデルのWaldタイプの検定論を完成させる。 回帰式を導出する際に分散・共分散行列のコレスキー分解を用いるが, 条件付きのケースと比較して極めて複雑な形状であるため漸近分布の導出が極めて困難であることが予想される. Helmert変換とそれに関する漸近理論の文献を精査し研究を進めていく予定である. さらに, パネルデータにおける検定問題の研究も可能であれば行う予定である。また、COMPSTAT2024(ギーセン)に採択されたため学会報告を行う予定である。
|