研究課題/領域番号 |
21K01440
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安達 貴教 京都大学, 経営管理研究部, 教授 (50515153)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 不完全競争 / 市場支配力 / 十分統計量 / プラットフォーム / 経済厚生 / 帰着 / 価格転嫁 / 公共政策 / 競争政策 / 公的資金の限界価値 / 市場支配度指数 / 厚生分析 / 市場支配度指数アプローチ |
研究開始時の研究の概要 |
完全競争と独占を二つの両極端として、それらの間に位置する不完全競争的状況一般を全 体的に捉えようとする「市場支配度指数アプローチ」は、従来からのゲーム理論ベースの不 完全競争の定式化とは異なり、戦略的詳細のモデル化をスキップし、不完全競争の程度を 「市場支配度指数パラメータ」と簡便に把握することで、応用的問題の取扱いや実証分析との親和性に優れていると考えられる。そこで本研究においては、同アプローチの今後の更なる進展を目指すため、主に、北米における炭酸飲料水産業の市場環境を念頭に置いて、公共政策・競争政策的視点から、物品税制度の導入・改正や企業結合等の厚生的帰結について理解を進展させることを狙う。
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研究実績の概要 |
市場経済は、洋の東西と時間を問わず、不完全競争として捉えられるべきものであり、標準的なミクロ経済学で登場する完全競争に基づく分析は、あくまで便法にしか過ぎない。そうして完全競争は市場経済を把握する際のベンチマークとして考えられるべきではなく、不完全競争の一特殊ケースとして位置づけられるべきである。研究代表者は、このような大局的視点から、「不完全競争の経済学」の(再)構築を試みているが、本研究課題は、その一環として捉えられる。 とりわけ、21世紀も20年を過ぎた今日にあっては、前世紀からの寡占的産業に加えて、産業を問わず、プラットフォーム的機能が市場経済において占める重要性が増していることから、今後は、不完全競争下における公共政策の厚生評価を考える場合、単純な単層的企業に加えて、重層的な企業間関係を考える場合、20世紀型の垂直関係的なサプライチェーンを念頭に置くこともさることながら、21世紀型のプラットフォーム・エコシステムも意識することが求められている。 本研究課題は、その題目名が示す通り、市場経済における不完全競争的な側面を多角的に把握し、公共政策に代表される種々の外生的変動が、消費者や企業といった経済主体に与える厚生的な影響に関して、市場支配力指数に代表されるような十分統計量的な指標を用いることで統一的な把握を試みようとするものである。 研究開始初年度である令和3年度においては、単層的な寡占的企業が想定された市場環境において、厚生効果に関する一般的なフレームワークを提示することに成功し、その成果は査読制の英文学術誌に公表された。続く令和4年度においては、寡占的な第3種価格差別の厚生評価に関する論文として結実した。そして昨年度は、主に、プラットフォーム産業を対象にした分析において成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度においては、まず、令和4年度分の実施状況報告書中の「今後の研究の推進方策」でも述べていたように、本研究課題からの成果でもある、寡占的第3種価格に関する研究論文(研究代表者による単著)の内容も取り込まれた、英文研究書が出版された(共著)。当該書は、第3種価格差別の経済理論的な研究に関する最新の概況がまとめらたものであり、とりわけ、寡占を扱っている章では、十分統計量からの厚生評価に関して、要点を絞った整理が行なわれ、共著による研究書ではあるものの、本研究によって遂行された知見が随所で取り入れられている。 また、プラットフォームが関わる市場を念頭に、既存プラットフォームの合併や新規プラットフォームの参入を対象とした分析に関し、複数の論文として、査読制の英文学術雑誌にその内容を公表した。これは、寡占的なプラットフォームが並存している状況を想定し、消費者やヴェンダーなど、プラットフォームと関係する主体が、複数のプラットフォームから一つだけを選択するというだけでなく、複数を選択しうるような、いわゆるマルチ・ホーミングを内生的に扱う場合と外生的に扱う場合のそれぞれにおいて分析を試みることによって、マルチ・ホーミングの度合に関しての競争政策的な含意を得ることに成功した。なお、この成果については、研究代表者が所属する大学のトップページでの研究紹介欄でも紹介された。 更に、研究開始初年度で提示した一般的な厚生評価のフレームワークを、製品の質が内生的に決まるような状況を念頭に置いた理論分析を行ない、暫定的な結果を国際学会で報告し、また、従来型の垂直的関係を対象とした実証分析も継続して行なっている。以上のような状況に鑑み、本研究課題は、「おおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の3年間を終了して、不完全競争の経済学における新しいアプローチを展開することによって、公共政策や競争政策の評価の視角を提示しようとする本研究課題の意図するところはおおむね達成されているが、最終年度である令和6年度においては、更なる拡充を目指して、上記「現在までの進捗状況」でも触れた、現在進展中の課題についての研究を継続する予定である。 まず、十分統計量に着目した製品の「質」の分析に関してであるが、現在では、対称的な企業を想定した上で、租税パス・スルーが、質に関するフォーミュレーションに関わる要素とどのように関係されるかが明らかになってきたので、これを実証的な議論が可能な定式化を目指すこととしたい。 また、垂直的関係に関わる分析に関しては、現在では、構造推定的アプローチと、誘導推定的アプローチの双方からの接近を試みているが、これは、時間がかかるものの、ロバストネスを確保するための方策である。なお、このような垂直的関係を伴う市場環境に置いて、本研究の初年度で得られたような、単層的な寡占企業の下での結果が、どのように拡張されるのかは、未だ未知であり、その観点からの研究推進も興味深いであろう。 なお、令和5年度中においては、本研究によって今まで得られた成果の一部の成果を取り込み、「不完全競争の経済学」の(再)構築を模索する立場からの学術的な啓蒙書を出版予定である。これは、学術的な研究活動の成果のエッセンスを一般社会に還元することを狙ったものであり、これによって、不完全競争的側面から市場経済を理解しようとする幅広い知的理解が、政策関係者層のみならず、広く市民層一般に普及せんことを企図している。
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