研究課題/領域番号 |
21K01481
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
増原 宏明 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (10419153)
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研究分担者 |
大野 太郎 財務省財務総合政策研究所(総務研究部), 総務研究部, 総括主任研究官 (90609752)
芝 啓太 九州産業大学, 経済学部, 助教 (00848799)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 診療報酬点数 / COVID-19 / 移動 / 受療日数 / 医療制度 / カウントデータ / 国民健康保険 / 診療報酬明細書 / 差の差の分析 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、国民健康保険改革という社会実験による受療行動の変化を、長野県の診療報酬明細書を用いて以下の2つを分析することである。第1に、2018年4月から始まった保険料率の引き上げによる受療と医療費の減少を分析し、保険料統一化の可否や時期を検証することである。第2に、後期高齢者医療制度への移行(2割から1割負担)や70歳での自己負担率の下落(3割から2割負担)が、医療費と受療率に果たした影響を分析することである。特定の年齢での保健指導が必要かを、長野県のデータから明らかにする。
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研究実績の概要 |
令和5年度は,診療報酬明細書の作業を進めつつ,研究計画に資する基礎研究としての診療報酬制度と薬価基準制度,そして関連研究としてのCOVID-19の研究に従事し,成果を出した。制度論として2点,COVID-19として2点,合計4点の研究成果を出すことができた。内容の詳細については,「現在の進捗状況」で触れる。制度論としての論文は,社会保障法関係では日本で有数の学術雑誌となる『社会保障法研究』の第18巻に,2本出版された。法学を専門とする読者向けに,診療報酬制度と1日あたり定額払いのDPC-PDPSを,入院カルテを例に出しながら分析した。診療報酬制度と加算の仕組み,そしてDPC-PDPSのDPCコードの決定方法と加算が医療機関別係数に変換される仕組みを,1つの例で統合的に分析したことが特徴である。薬価基準制度については,近年導入された新薬創出加算制度が医療機関にもたらすインセンティブと,制度的限界の観点から明らかとしたことが特徴である。COVID-19の研究は,Applied Economics Letters (IF: 1.6, Q2)とApplied Economics (IF: 2.2, Q2)から出版された。前者の論文はG7を例にとり,PCR検査陽性者数,移動に関して,ストリンジェンシー指数を用いて明らかにしたことである。後者の論文は, PCR検査陽性者数,移動量,外食支出,鉱工業生産指数の都道府県月次データを作成して2020年10月に実施された「Go To Eatキャンペーン」を分析した。比較対照群が存在せず,介入群のみの政策であったため,各変数の分布の同等性と,変数間の独立性について,ノンパラメトリックな検定を用いて関連性を分析し,キャンペーンの開始と変数の間に,関連性が存在することを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究3年目の令和5年度は,診療報酬明細書のクリーニング作業,具体的にはデータセットの構築と予備的な分析をしつつ,診療報酬制度と薬価基準制度の基礎研究と関連研究としてのCOVID-19の分析に従事した。成果は4点挙げられる。1つ目が診療報酬制度の制度研究であり,診療報酬点数の計算方法を,入院カルテを例示として出しながら解説した。とりわけ,加算の決定方法と医療機関にもたらすインセンティブを詳細に分析した。さらに,出来高だけでなく,同じ例がDPC-PDPSに適用された場合の計算方法も解説した。DPC-PDPSの医療機関別係数が引きあがった時の定量的なインパクトをシミュレーションした。2つ目が,薬価基準制度の制度的分析である。薬価基準制度と薬価の決定方法を,その流通過程と製薬企業,卸,医療機関のインセンティブを踏まえつつ明らかにし,近年導入された新薬創出加算制度がもたらす影響を,製薬企業の開発戦略を踏まえつつ分析した。最後に,総額管理手法を踏まえつつ,薬価基準制度の改革の方向性を探った。3つ目が,G7のCOVID-19対策の有効性を,ストリンジェンシー指数を用いて明らかにしたことである。具体的には,感染対策の期間が長期化するにつれて,経済合理性に合致した政策でなければ,その効果が薄れていく可能性が示唆された。先進国だけをみても,日本の状況は特異であることも明らかとなった。4つ目が,2020年10月の「Go To Eatキャンペーン」の研究である。ノンパラメトリック検定を用いて,外食支出,移動量,PCR検査陽性者数,鉱工業生産指数との関連性を調べた。外食支出の分布は,キャンペーンが始まった10月と11月、そしてキャンペーンが終了した12月に変化し,非常事態宣言が発令された2021年1月には,移動手段の分布が変化したことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者が診療報酬明細書のクリーニング作業をしつつ,必要に応じて研究分担者にも協力を仰ぎながら,研究計画を遂行する。保険料が変化した市町村に居住する被保険者を介入群,保険料が据え置かれた市町村の被保険者を比較対照群として,差の差の分析により改定の効果を測定する。受診日数については,研究代表者が2019年に明らかとした有限混合分布モデルの識別性の判定方法を用いながら,非負整数値の単純な有限混合モデル,具体的には有限混合負の2項分布モデルだけでなく,有限混合ハードルモデルなどの推定方法も試す。有限混合モデルは過剰識別という潜在的な問題を抱えており,真の要素数を特定化するのが困難である。ベイズ推定であればWBICであればモデルを特定化することができることが示されており,また最尤推定であっても特定の分布ではsBICを用いての要素数を特定化可能である。統計手法を取り入れながら,計画を遂行する。関連して,令和5年度に引き続き,周辺分野の研究,具体的にはCOVID-19の研究も実施する。世界的にはCOVID-19に関する緊急的な対応は峠を越えた。COVID-19のインパクトを事後的に検証する研究が必要となるため,できる範囲で論文化する。さらに,5類に移行したことでわが国でも大幅に感染症対策が緩和されたが,重症者が0人になったわけではなく,医療機関は引き続き即応病床を使いながらの治療が継続されている。各医療機関の即応病床と確保病床の使用実態を明らかとする研究も,「保険料率統一と高齢者医療費の分析」に資する分析として,並行して実施する。
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