研究課題/領域番号 |
21K01492
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
及川 浩希 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90468728)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | R&D / Matching / Patent / イノベーション / マッチング / ミスアロケーション / 特許 / 経済成長 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、企業と被雇用研究者のミスアロケーションに焦点を当てた経済成長政策を論じる。研究開発プロジェクトに携わるのは研究者・技術者だが、遂行するプロジェクトを決定するのは企業であるため、プロジェクトの質と研究者の質が合っているとは限らない。そこで、特許データと企業データを用いて企業と研究者のマッチングを割り出し、それぞれのイノベーション能力を識別するとともに、ミスアロケーションの程度を推定する。そして、企業と研究者のマッチング構造を内生的経済成長のモデルに組み込み、シミュレーションを行うことにより、ミスアロケーションを解消した時に可能となる潜在的な経済成長と、望ましい政策介入のあり方を示す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、企業の研究開発活動における研究者のミスアロケーションを計測し、それがどの程度経済成長に影響しているかを明らかにすることである。したがって、研究の第一段階は、企業と雇用された研究者の間にどのようなマッチング・パターンがあるかを、データから読み取る作業になる。昨年度は、その実証分析の精緻化を主として行った。 本研究では、研究開発に貢献する主体として、企業(開発プロジェクトの決定を行う問題設定者)と研究者(担当プロジェクトの問題解決者)の二つを想定している。両者の能力が組み合わさって研究開発の成果が生み出されるので、それぞれの能力を識別するには、企業間を移った研究者の移籍前後の成果の違いに着目する必要がある。特許文書に記録された発明者のリストと、特許譲受企業との対応関係から、複数企業で研究開発に携わった研究者を抽出し、能力の識別と、それらの間の相関関係を推計した。推計手法は、Borovikova and Shimer (2020)に依った。 米国特許庁に登録された特許データから推計された相関係数は、コントロール変数の種類など、推計時の設定によって幅は出るが、0.3-0.5の間にほぼ収まることが分かった。したがって、企業と研究者の能力には有意な正相関があるものの、完全な同類マッチング(assortative matching)ではないということになる。この結果は、研究者という研究開発資源の企業間アロケーションには何らかのしがらみがあり、それを取り除いて能力の相関を高めれば、全体的な研究開発のパフォーマンスが向上する可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要に記した結果を得るにあたって、昨年度の研究は、既存研究のBhaskarabhatla他(2021)の論文との整合性及び関係性の検証に費やした部分が多かった。昨年度の序盤に出会った彼らの論文は、本研究と基本的に同じ問題意識を持ち、共通部分の多いデータを利用していながら、正反対の実証結果、すなわち発明者と企業との間の能力の負の相関を見出していた。結論から言うと、この結果の違いの原因は、実証分析の手法にあった。Bhaskarabhatla他(2021)は、AKMアプローチと呼ばれる分析手法を使っている。マッチングの切り替え頻度が低いサンプルでこの手法を用いると、相関係数に下方バイアスがかかることが知られている(limited mobility bias)。近年、労働経済学の分野では、このバイアスを取り除く手法が複数開発されており、本研究で採用しているBorovikova and Shimerのアプローチはその一つである。 この点を明確にするため、Bhaskarabhatla他(2021)と本研究の変数のセットと分析手法の組み合わせのパターンを網羅的に用意し、どのようなパターンで負の相関が推計されるのかを検証した。その結果、手法の違いが相関の正負の違いにほぼ対応することが分かった。そのため、本研究では、Bhaskarabhatla他(2021)の結果は既知のバイアスへの対処をしていないが故の結果であると位置付け、よりもっともらしい相関係数を見出した上での分析を進めることとした。 この検証のため、全体の進捗からすると、昨年度は足踏みする時期に当たった感はあるが、他の関連研究との比較を通じて分析が洗練され、実証分析の足場を固めることとなった点は評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
プロジェクト全体のベースとなる実証分析にひと段落をつけることができたので、今年度は理論モデルの構築を進める。ゴールは経済成長分析にあるので、研究開発にドライブされた内生的成長モデルをベースにし、研究開発部門に企業と研究者の双方の能力から決まる研究開発生産性を設定する。その際、能力に異質性のある企業と研究者の雇用の決定が、理論全体の鍵となる。不完全な同類マッチングが生じる枠組みは労働経済の分野で複数構築されているので、それを取り入れる形を想定している。今年度中に、大まかな枠組みを作成し、その後、データとの整合性の検証と、必要に応じた理論枠組みの修正を行う。来年度以降、理論的な枠組みの構築が一段落したら、これまでに蓄積してきた特許データからの結果に沿うようにモデルのカリブレーションを行い、政策実験等のシミュレーション分析に進む予定である。
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