研究課題/領域番号 |
21K01507
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
細谷 圭 國學院大學, 経済学部, 教授 (40405890)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | マクロ経済動学 / 時間選好率 / ネガティブイベント / COVID-19 / 地球環境問題 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,動学マクロ経済学において重要な役割が付与される時間選好率の決定に注目する。時間割引に関係する重要性の高い経済的・社会的課題を取り上げるが,それらに共通するのは経済主体の意思決定に無視できない影響を及ぼすネガティブイベントに分類できるという点である。具体的には「COVID-19」「東日本大震災」「地球環境問題」に焦点を当てるが,事態の進展速度と将来の不確実性の度合いにおいて,これらのイベントの間には著しい違いが存在する。こうした違いが時間選好率の内生的決定要因を左右し,結果的に経済のパフォーマンスに影響するはずであり,理論分析と実証的なチェックによって理論的仮説を検証する。
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研究実績の概要 |
本研究は,動学マクロ経済学において重要な役割が付与される時間選好率の決定に注目する。これに特に関係の深いトピックスを分析対象とするが,それらに共通するのは経済主体の意思決定に無視できない影響を及ぼすネガティブイベントに分類できる点である。具体的には「COVID-19」「東日本大震災」「地球環境問題」に焦点を当てるが,イベントの進展速度と将来の不確実性の度合いにおいて,これらのイベントの間には著しい違いがある。そうした違いが時間選好率の内生的決定要因を左右し,結果的に経済の長期的なパフォーマンスにも大きな差異をもたらす可能性がある。このような論点について,本研究では理論モデル分析と結果の実証的なチェックによってアプローチを試みる。
令和5年度は,すでに刊行が決定していた論文が冊子体確定版などとして続々と公刊された。一方で,本申請課題の範囲内で新たな研究にも着手することができた。内容の一端については,以下の「現在までの進捗状況」の項で述べることとし,本項では研究実績を形式的に整理しておくことにしたい。研究実績を大別すると,研究テーマの基盤である時間割引に関する理論的研究とそれと密接に関係するCOVID-19についての実証的研究に分類することができる。理論的研究としては5点が公刊された(確定業績)。また,実証的研究(いずれもCOVID-19関連)としては2点が公刊された(確定業績)。この他,歴史的な視点も含めた現代マクロ経済学に関する論考を集めた英文書籍(Springer社刊)を編集したことに加え,わが国の診療報酬制度と薬価基準制度に関する論考を合計2点公刊した。
令和5年度から6年度にかけては,すでに完成し英文雑誌に投稿中の論文の受理・刊行を目指しつつ,令和5年度中に大きく進展した地球環境問題と時間選好率をめぐる包括的な理論研究について,特にウェイトを高めて研究していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は順調に進展していると思われる。まず,プロジェクトの中核的研究である時間選好関数を実装した理論分析の状況について述べておくべきだろう。上述したように,令和5年度は5点の論文を公刊したが,特に重要なものとして,健康ダメージによって時間選好率が影響を受けるメカニズムをCOVID-19研究に応用したものを指摘したい(Journal of Macroeconomicsに掲載)。これによって,感染症によって生じるダメージが長期的な消費プロファイルに無視できない影響を及ぼす可能性が示唆された。これは政策的にも重要な結果と考えられる。この論文の定式化をさらに洗練させ,3年間のパンデミックの評価を試みた論考も現在一定の評価を得ており,早期の公刊を目指している。健康状態が時間選好率を決めるというアプローチは近年急速な進展がみられており,この方面でさらなる貢献を期したい。
地球環境問題,そして感染症パンデミック以外の大規模(自然)災害の影響についても,現在開発を進めている理論的枠組みのなかで取り扱いが可能であり,令和6年度はこれらに集中的に取り組む。
他方,実証研究については,ここ数年COVID-19パンデミックの諸側面の評価に注力してきたものの,上述の時間選好の理論分析との架橋を図る実証分析をつねに模索してきた。令和5年度はこれに道筋をつけることができた。すなわち,すでに基本文献になっているFalk et al. (2018) “Global Evidence on Economic Preferences” (Quarterly Journal of Economics 133 (4): 1645-1692)で展開された経済的選好に関する実証結果をふまえ,COVID-19における感染制御と経済活動のパフォーマンスの違いを解釈する論考を執筆することができた。次年度はこの研究をさらに深めたい。
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今後の研究の推進方策 |
すでに言及したように,現在,自然環境を具体的な分析対象としたテーマについて,特に力を入れて研究を進めている。環境の質をはじめとした環境に関連するモデル内生変数が,時間選好率に影響するタイプの内生的時間選好モデルとして定式化される。このモデルを数値解析もまじえて解析することで,環境問題における経済主体の選好形成の役割の一端が明らかになると思われる。この研究に関しては,環境変数と一般的な経済変数(消費や資本ストック)に生じる影響に加えて,厚生に与える変化も興味深い論点である。現在進行中の予備的分析においては,たとえば,環境税率と達成される厚生水準との間での非線形性が確認されている。
先に健康ダメージと時間選好の関係についての研究にふれたが,それは個人の健康状態が現在/将来選好を決するメカニズムとして捉えることができる。こうした考え方は,人間の選好形成様式の一側面を確実に描写するものと考えられ,有意義な発展が期待できる。たとえば,いわゆる「質で調整した生存年数(QALY)」を応用することも一案であり,現在の研究展開のなかでは,特に「障害で調整した生存年数(DALY)」を使用することは有力な選択肢になると考えられる。いずれにせよ,健康状態が時間選好率を介して経済主体の動学的意思決定に与える影響についても併せて考察を深めたい。
個別テーマの進捗は,論文の公刊状況にもあらわれているように順調と判断できる。プロジェクトの研究期間後半を迎えるにあたり,そうした個別の蓄積をまとめ上げる成果を出したいと考えている。その際に重要な情報をもたらしてくれるのが,先に指摘したFalk et al. (2018)である。そこで示された経済的選好に関する分析結果を用いて,本プロジェクトで得られた種々の理論的帰結を系統的に評価していくことにより,ネガティブイベントが経済行動に及ぼす影響への理解が進むと思われる。
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