研究課題/領域番号 |
21K01723
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07080:経営学関連
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
国府 俊一郎 大東文化大学, 経営学部, 教授 (90759721)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 台湾 / 人事制度 / 人的資源管理 / 労働市場 / 高学歴化 / ジョブ型雇用 / 現地人材の活用 / 日系企業 / 労務管理 / 経営学 / サービス業 / 現地人材活用 / サービス産業 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、台湾のサービス分野に進出する日系企業と現地企業について、現地人材のキャリアの発展空間に関する人事制度と定着率の比較を行う。本研究は、日系企業であっても現地人材の発展空間を広げる度合いによって定着率が向上するという仮説を立て、ヒアリングによる質的調査と量的アンケート調査によって、仮説検証に向けてのアプローチを試みる。 台湾における日本や日本文化に対するイメージは良好であり、日系企業の認知度も高い。しかしながら、台湾における日系企業は高い離職率に悩み、優秀な人材の引き止めに苦慮している。本研究の成果が台湾のサービス分野に進出する日系企業の現地人材の確保と活用に益することを期待している。
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研究実績の概要 |
新型コロナウイルス蔓延による出入国の規制が日本、台湾の双方で緩和され、3年目にしてようやく一年を通じて本格的に研究を行うことができた。まず、昨年度の末に九州経済学会にて報告した結果を中心に、コロナ禍中ないしその後の台湾の労働市場と教育の関連についてまとめた論文(タイトル「台湾におけるICT産業の成長が労働市場及び高等教育への進学に与えた影響の検証」)が、査読を通過して2023年12月に発刊となった。本研究は台湾の現地人材のキャリアの発展空間と人事制度の定着率に対する役割を問うものであって、現地労働市場における属性の一つとして教育水準は、また、そのコロナ禍中における変化を把握することは本研究の推進において重要である。台湾の労働市場はジョブ型雇用であって、高度専門人材は産業横断的であるから、ICT産業の躍進に伴い、サービス業でも人手不足による賃金の上昇や教育水準全体の引き上げによる高学歴化の影響が見られる。台湾企業でも日系企業でも人材の獲得や引き止めに関する施策の重要性が増しており、本研究の重要性が増していることを実感した。 次に、昨年度から実施してきた日本における物流産業における調査を台湾に延伸した論文(タイトル「日本の中小物流企業におけるドライバーの人事労務管理課題の検討-実データ分析と台湾との比較からのアプローチ-」)を2024年3月発行の大東文化大学経営論集に投稿した。日本の物流企業、特にドライバーの賃金は歩合制が多く、学歴がほとんど効果を持たないのに対し、台湾では高学歴化の進展とともに、ドライバーの高学歴化も徐々に進展して賃金が上昇している様子が看取できた。 さらに、本年夏季休講中に台湾を訪問し、二つの現地大学と二つの現地企業(ホテル経営)にヒアリングを行った。その結果は、9月に行われたアジア経営学会にて報告している。その成果については、進捗状況の中で詳細に述べたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
上述したように、本研究は新型コロナウイルス蔓延に伴う出入国規制の影響を受け、本格的な研究実施に時間を要することになった。2年目の2022年度には年度末にようやく一度台湾を訪問できたものの、外国人を警戒する企業も多く踏み込んだ企業訪問はできなかった。しかし、2023年度はようやく本格的な企業訪問を実施することができた。2年間の研究停滞の中でも本研究は、一方では物流分野に研究の幅を広げ、もう一方では労働市場の実態を調べる中でジョブ型雇用と台湾の労働市場の親和性に着目することができた。 後者では特に、日系企業が台湾の労働市場で現地人材を活用していくために必要な条件の一つを絞り込むことができた点で大きな進展があったと考える。日本企業では配置転換を人材育成やキャリプランの中心に据えるのが一般的であるが、ジョブ型雇用の台湾では配置転換による人材育成は従業員に受け入れられない。それではどのように技能形成を行っているのか、特に大学を卒業したばかりの人材はどこでどのように訓練を受け、即戦力としてジョブ型の職場に就職していくのか、インターンシップが関連しているのではないか。 そこで夏季休講中の台湾訪問調査では、リテンション等に関するヒアリングに、新たに新卒社員のインターンシップについてのヒアリングを追加した。その結果をアジア経営学会全国大会において報告した(タイトル「台湾におけるインターンシップの採用への活用-サービス系企業を中心に-」)のであるが、台湾ではジョブ型雇用という労働市場固有の属性と高学歴化という現象が相俟って、在学中のインターンシップが基礎的な仕事を覚える機会になっていると同時に、企業にとっても不足していく高卒程度の労働力の代替として利用している実態が見えてきた。この視点は、台湾現地従業員のキャリアを見る上で不可欠であり、また、本研究の重要な貢献の一つであると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の対象の一方は台湾の現地企業だが、もう一方の日系企業については、研究の実施が難しい状況が続いていた。上述したように2023年度は台湾での実地調査を本格的に実施でき、現地企業の雇用制度について踏み込んだヒアリングと独自の研究成果をあげることができた。しかしながら、昨年度の報告でも述べたのであるが、新型コロナウイルス蔓延によって交流が断絶していた。その結果、コロナ禍の間に企業が台湾を撤退したり、担当者が辞職していたり、人事異動によって帰国していたりするなど、新型コロナウイルスがサービス業に与えた影響が大きかったこともあって、日系企業についてはほとんど最初から研究人脈を作り上げなければならなくなっている。 したがって、本研究では2023年度を通じて、台湾に進出している日本企業との連絡をとり調査を打診している。加えて、台湾出張中にも台湾の大学の教員にインターンシップ先の中から日系企業の情報を得る努力を行い、状況は少しずつ改善しつつある。また、物流企業に研究の範囲を広げた結果、調査を依頼できる企業の幅も増加している。こうした状況を踏まえ、2024年の夏季休講中の台湾における調査を実施できるのであれば、本研究を当初の予定に近い形で完結することができると判断し、一年間の延長(2024年度まで)を申請した。 上述したように、本研究で不足しているのは台湾の日系企業の調査であり、その実施を夏季休講中に実施する予定である。そのための準備を現在念入りに行なっている。その結果を、9月に挙行されるアジア経営学会の全国大会にて報告する。また、その成果を論文にまとめたものを同学会の査読論文雑誌に投稿する予定である。 日系企業も台湾で人材に選ばれる企業であるためには、ジョブ型雇用への転換とともに、台湾型のインターンシップの実施が求めらることを明らかにできれば、本研究成果の社会貢献の一つになるだろう。
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