研究課題/領域番号 |
21K01730
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07080:経営学関連
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研究機関 | 中央学院大学 (2022) 早稲田大学 (2021) |
研究代表者 |
大月 博司 中央学院大学, 商学研究科, 教授 (50152187)
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研究分担者 |
金 倫廷 北海学園大学, 経営学部, 准教授 (20611255)
古田 駿輔 早稲田大学, 商学学術院, 助手 (40879673)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 中間持株会社 / 純粋持株会社 / 自律性 / 求心力 / 遠心力 / 正統化 / 制度化 / 組織コントロール / 持株会社 / グループ経営 / 組織変革 |
研究開始時の研究の概要 |
我が国で中間持株会社の生起現象が増大しているにも関わらず、その学術的研究はほとんど行われていない。中間持株会社は、既存の持株会社に関する理論では説明できない新しい現象であり、それを説明できる新しい理論モデルが求められている。そこで本研究では、中間持株会社の「生起メカニズム」、「正統化問題と変異の関係」、「グループ経営としてのコントロール問題」を主要課題とみなし、組織変革論・新制度派組織論・組織アイデンティティ論などをベースにその分析を進める。本研究によって中間持株会社の生起メカニズムが理論的・実証的に解明されると、中間持株会社の理論的貢献と実践的インプリケーションが期待される。
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研究実績の概要 |
本研究に着手した頃と比べると、中間持株会社を設立する持株会社が増えつつある。その理由を探ると、各社さまざまな起因が考えられるが、そこにいくつかの共通点が見られる。例えば、事業子会社の業務効率化、ガバナンス強化,組織マネジメントの実効化などである。 本研究は、純粋持株会社を維持しながら中間持株会社がなぜ増加するのかという主たるリサーチクエスチョンから、具体的な課題として、①中間持株会社がなぜ生起し、いかに持続的なものになるのか、②中間持株会社が変異する中でいかに正統化されるのか、③有効な純粋持株会社は中間持株会社をどうコントロールするのか、を設定して研究に取り組んできた。そして、関連する研究のレビューをベースに、事例の比較研究とインタビュー・データによるディスコース分析によって、各課題の探求を図った。 その結果、中間持株会社は純粋持株会社によるグループ経営の最適化や効率化を進めるため、という見方の妥当性が次第に明らかになった。また、正統化について制度化のロジックを援用すると、経済性のロジックが有力であると想定されることになった。さらに中間持株会社のコントロールは、グループ経営としての位置づけが重要であり、純粋持株会社(親会社)が認識するグループ経営のアイデンティティを事業子会社に浸透・強化させるアイデンティフィケーション次第であることが確証されつつある。 以上のように研究はある程度順調に進みその成果も結実しつつあるが、純粋持株会社と中間持株会社の関係性、とりわけ持株会社の有する求心力(規制)と遠心力(自由)のバランスのあり方については不明な点が多く残っている。自由と規律のバランス問題は、組織における二項対立や二重性の問題と相通じるところがあることから、そうした観点の研究成果を中間持株会社の分析に活かすことが今後の研究をより豊かにするために必要かと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当時はコロナ禍で対面での研究交流や研究調査が十分にできず、研究計画の整合的な進展を十分に図ることは容易でなかった。だがその状況に慣れるにつれ、研究のスピードも次第にアップするようになった。そして当初計画したように、わが国における中間持株会社の事例については精力的に収集した。その中には、想定していた中間持株会社の成立パターンとは異なる事例も集めることができた。しかし実際には、中間持株会社の設立はそれほど多くなく、業種も偏っているため、事例の比較研究を十分に行うことができなかった。また昨年からコロナ禍が収まりつつあるとはいえ、対面での共同研究が難しく議論が深まらず、研究を深めることはできなかった。たとえば、中間持株会社の設立数が多少だが増してきた理由についていろいろと想定されるが、その確証作業について共同研究を多面的に展開できなかったのである。 とはいえ、こうした中で各自に分担された研究テーマについては、それぞれ若干ながら進展を見ることができた。例えば、販売子会社を統括するために新しく中間持株会社を設立した花王のケースをはじめ、中間持株会社が設立される事由の部分的な解明である。花王製品の各販売会社の場合、自律性を期待して設定されたため、独自の判断が許容される体制だったが、売り方などに一貫性のある、しかも全社一丸となって競争力のある販売活動を展開するための体制とはいえなかった。これを理由に花王は、そのコントロールセンターとして役割を期待しての中間持株会社を設立したのである。これは、組織における自由と規律の問題であり、その解決策とて中間持株会社が手段として利用されたとケースである。 このような事例研究を通して、中間持株会社の設立はパターン化が想定されたが、よくよく考えると、それができたからといって、理論面/実務面で有用かはまだ不明であり、今後の課題とされるのである。
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今後の研究の推進方策 |
近年わが国では、ささまざまな業種で中間持株会社を設立するケースが散見されるようになった。そのため、中間持株会社の生起メカニズムを示唆する事例が目につくことになり、我々にとって当該研究が容易になりつつあるといえる。しかし、中間持株会社自体の変容も見られるため、さらに多様な事例を集めることが必要だと認識している。そして、中間持株会社の生起現象に何らかの生成パターンがあることを想定して事例分析を行い、それを基に中間持株会社の理論モデルの構築とその実証ができるように研究を進めていきたい。その上さらに、グループ経営としての全体最適につながる中間持株会社に対するコントロール・メカニズムを解明するとともに、それを推進・定着させる正統化のプロセスの説明モデルの解明も進めていく。 以上の点を踏まえ今後は、事実ベースの研究スタイルを軸に、中間持株会社の構造分析と併せてプロセス分析も行い、中間持株会社の生成に関わる理論モデルの構築に資する分析を多面的に進めていくことになる。そして、実践に役立つ有効な中間持株会社のモデルを提示できればと思っている。 別の観点からいえば、近年のAI技術の進展は著しく、純粋持株会社によるグループ経営にとって、ネットワークの構築・維持・高度化について従来とは異なる発想が求められている。しかも中間持株会社という新しい組織形態は、ネットワークの軸であるとともに、親会社のネットワークの一部に過ぎない。それゆえ、こうした親会社と子会社のネットワーク関係や子会社間のネットワーク関係についてDXやAIの視点を入れて分析を進めることが必要であろう。組織メンバーというアナログ的側面の強い要因と、AIといった目に見えないデジタル要因との絡み合いで中間持株会社を分析してみるとどうなるのだろうか、これらは本来の研究目的を逸脱することだが時間が許せば取り組んでみたい課題である。
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