研究課題/領域番号 |
21K01782
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
音川 和久 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (90295733)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 注記事項 / 投資意思決定有用性 / 証券市場 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、会計基準の新設・改廃に伴って開示の充実が図られてきた注記事項に焦点を当て、その投資意思決定有用性や証券市場に対する帰結を実証的に調査する。本研究の特徴は、1つの会計基準だけを集中的に取り上げて研究を行うのではなく、退職給付会計基準、税効果会計基準または金融商品会計基準など、複数の会計基準のもとで開示される注記事項を幅広く研究対象とする点、そして会計情報と株価水準の関連性を調査する価値関連性だけにとどまらず複数の尺度を用いて投資意思決定有用性や証券市場に対する帰結を実証的に分析する点にある。
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研究実績の概要 |
企業会計審議会が公表した「税効果会計に係る会計基準」によれば、繰延税金資産の回収可能性は毎期見直し、将来の税金負担額を軽減する効果が認められないと判断される部分は、評価性引当額として繰延税金資産から控除しなければならない。繰延税金資産の回収可能性は、タックス・プランニングや将来加算一時差異のほか、企業本来の収益力に基づいて判断される。したがって、経営者が将来の収益力に関する自分自身の私的情報を考慮して回収可能性を判断しているかぎり、繰延税金資産の評価性引当額は将来業績の有用なシグナルになると考えられる。しかし、その一方で、評価性引当額は、経営者による利益調整の手段として用いられるかもしれない。さらに、企業会計基準委員会が公表した適用指針では、過去および当期の業績を主な要件として企業を分類した上で、繰延税金資産の回収可能性を判断する具体的な取扱いが定められている。もし回収可能性の判断にあたって、経営者の裁量または過去および当期の業績に基づく画一的な判断が強く作用しているならば、繰延税金資産の評価性引当額と将来業績の関係は強力でないかもしれない。そこで、繰延税金資産の評価性引当額と当期または将来の業績水準の関係を実証的に分析した。その結果、評価性引当額と当期業績水準にはマイナスの相関があり、当期の税引前当期純利益が低い企業ほど、評価性引当額の水準や繰延税金資産小計に占める割合が高くなる傾向にあることを例証した。また、評価性引当額と将来業績水準にもマイナスの相関があり、評価性引当額の水準や繰延税金資産小計に占める割合が高い損失計上企業ほど、将来業績の水準が低迷する傾向にあることを析出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、税効果会計基準の注記事項については、当期の損益計算書で赤字を計上している企業を調査対象として、繰延税金資産の評価性引当額と将来業績の関係を実証的に分析した。日本でも、評価性引当額に関する実証研究の蓄積がある。しかし、それらの多くは、利益調整という観点から調査を行っており、将来業績との関係を明示的に分析した研究は少ない。さらに、繰延税金資産の評価性引当額は、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表本体ではなく、注記情報を参照しなければならず、一般的な商業用データベースには収録されていない。そのため、先行研究は、繰延税金資産の評価性引当額のデータを手作業により収集している。それに対して、EDINETからダウンロードした有価証券報告書のXBRLファイルを用いて、税効果会計の注記事項に関するデータベースを構築したことも特筆すべきと考える。次に、金融商品会計基準の注記事項については、保有資産の中で金融資産や金融負債が相対的に重要な割合を占める銀行業に調査対象を限定した上で、2022年3月期と2023年3月期の有価証券報告書から、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する注記事項のデータを収集する作業に着手した。しかし、データ収集プロセスにおいて、デリバティブ取引などについて複数の開示パターンが存在することが分かったので、銀行間で異なる開示パターンをどのように調整し、データベースを構築すればよいのか、時間をかけて検討する必要が生じた。そのため、各銀行の有価証券報告書を逐一確認しながら、開示パターンを考慮した上で、注記事項の金額データを一つ一つ収集した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、税効果会計基準の注記事項については、繰延税金資産の評価性引当額は当期の業績水準のみならず、将来の業績水準とも有意な相関関係があることを析出した。しかし、経営者が繰延税金資産の回収可能性を判断するときに、当期または将来の業績水準のいずれを相対的に強く考慮しているのかは検証できていないので、その点に関する追加分析を行いたい。また、日本企業の多くは決算発表時に経営者による次年度の利益予想を開示しているという特徴があるので、繰延税金資産の評価性引当額と経営者利益予想の関連性についても追加の分析を行いたい。次に、金融商品会計基準の注記事項については、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する注記事項を観察すれば、それぞれの銀行が客観的な公正価値測定ができる金融資産や金融負債を相対的に多く保有しているのか、それとも公正価値を測定するには主観的な判断や見積りを要する金融資産や金融負債を相対的に多く保有しているのかを識別することができる。したがって、各銀行が保有している金融資産や金融負債のクロスセクショナルな差異が会計情報の価値関連性やリスク関連性、投資家間の情報の非対称性、証券アナリストによる将来業績の予想などに対して、どのような影響を与えているのか否かを検証したい。さらに、実際のデータ収集プロセスにおいて確認されたように、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する注記事項の開示パターンは銀行間でまったく同じというわけではないので、その理由を探るため、開示パターンの決定要因も分析したい。
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