研究課題/領域番号 |
21K01865
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
西原 和久 成城大学, 社会イノベーション学部, 名誉教授 (90143205)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 沖縄と砂川 / 反基地運動 / 反基地意識 / 反戦平和活動家 / 基地撤去 / 東アジアの平和と共生 / 環太平洋の基地問題 / 平和理論・平和思想 / 基地返還 / 反戦平和思想 / 反戦平和運動活動家 / 沖縄返還 / 基地問題 / 女性活動家 / 平和 / 共生 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、男性中心である戦後日本社会において、長い抗いの人生を送り、まつろわぬ者として戦後日本を生き抜いてきた女性活動家たちの「生活史」と「生活世界」を的確に捉えつつ、そこから基地問題を中心として反基地運動にかかわりながら得てきた、平和と共生に向けた未来への教訓を引き出すことに焦点があり、そしてその際とくに北東アジアの望ましい未来社会を展望することにある。とはいえ、もちろん男性活動家を研究から排除するのではなく、男女等にかかわらず、さまざまな活動家との共生を含めて、トランスナショナルな共生を基礎としつつ、平和な未来に向けた人びとの活動とそこから生じてくる未来構想を読み取ることである。
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研究実績の概要 |
令和5年度(2023年度)は、前年度の実施状況報告書において明確にした調査内容の若干の路線修正(新規に、高齢男性活動家調査、全国の関連基地調査を行う)を踏まえ、前年度に続いて、7月に北海道の札幌近くの(かつての恵庭事件、長棟ナイキ訴訟に関わる基地を含めた)自衛隊基地の現地調査と資料収集と聞き取り調査を行い、9月には米軍三沢基地と自衛隊大湊基地調査、さらに(近場なので科研費は使用していないが)オスプレイの駐機している千葉県木更津自衛隊基地など関東の基地も調査し、「基地問題と東アジアへの平和社会学的視角」といった報告や論文を執筆した。また、年度の最後には、ハワイのオアフ島の米軍基地調査に赴き、この島がアメリカの「インド太平洋軍」の中心となっており、島の三分の一が軍関係である印象を確認するとともに、なによりも、日本とその周辺の米軍と自衛隊の基地が、このインド太平洋軍の中に位置づけられていることも確認した。 こうした調査を踏まえて、反基地意識がどのように平和構築(本科研費調査の副題の「東アジアの平和と共生」)に寄与できるかを、最終年にむけて社会学理論的に検討する準備を進めている。それが、日本平和学会の『平和学事典』等の購入のほかに、(この科研費調査期間に立ち上げた平和社会学研究会(代表が私・西原)の『平和社会学研究』第2号(東信堂刊行)における「コスモポリタニズム」特集や「平和思想を考える」という特集に繋がっている。この令和5年度の調査研究を踏まえて、研究会誌の発行、研究論文の複数刊行、そして平和社会学研究会の月例の研究例会や総会・シンポジウムなどで、今後、この科研費調査研究が平和構築のための平和理論の構築に向かっていることが明確になってきたのが、令和5年度の一つの研究実績であろうと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年の科研費研究の進捗状況は、上記「研究実績の概要」で示したように、反基地運動に関わる高齢男性にも対象を拡大し、さらに沖縄と砂川以外の国内外の米軍・自衛隊の反基地運動にも検討対象を拡大し、そして最終的にそれらから学べる平和思想・平和理論の検討へという段階にある。 その結果、前年度の「平和思想論と平和構築論」や「砂川闘争関係インタビュー」などの論稿や、ハワイの反米運動の翻訳(「ハワイはアメリカではない」)に加えて、令和5年度は、複数の論文等の刊行と複数回の講演・報告を行った。論文等としては、5月の「共生と平和への展望」(講演会配布用小冊子)や6月の「「戦争と社会」と「戦争と平和」の狭間」、および11月の「基地問題と東アジアへの平和社会学的視角」などとなって結実した。だが、こうした検討を踏まえて、戦争原因論や平和構築論などの平和理論関連の検討の必要性を痛感するようになったので、令和5年度の後半は、現地調査の継続とともに「資本主義と国家主義をグローカルに問い直す」や「平和社会学と平和構築論への視角」の論文執筆(ただしこの刊行は令和6年にずれ込む)などの平和理論研究の論稿執筆が順調に進捗している。なお、成城大学での平和論の講演会や沖縄における東アジア共同体研究会での「平和社会学と東アジア共同体論」や東京・自由学園における「平和社会学を学ぶ」の講演なども進捗していることを付け加えておく。 要するに、令和5年度の最終月に平和社会学研究会で報告したのだが、「人はなぜ戦争をするのか――資本主義と国家主義の探究を介した戦争原因と平和構築をめぐる始原への問いへ」といった方向で、平和構築に関わる国家発生論や間主観的認識論を含む(平和)社会学理論的な整理を、本科研費研究の最終年度に向けた〈反基地意識の現状把握から展望する平和理論・平和思想〉としてまとめ上げる作業に入ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の方向性は、既に述べた点から見えてくるが、最終年度の方策として、沖縄での男女高齢者への反基地意識の追加調査等を実施し、同時に南西諸島ミサイル基地化問題での調査も可能な限り行いたい。さらに東アジアの平和関連で「台湾有事」が語られているので、この点に関する意識調査の必要性も痛感している。時間と予算が可能な限り、複数の知人がいる台湾での調査も推進したい。また、必要に応じて、環太平洋地域の基地問題に関する検討も進めたい。 そして何よりも、令和6年5月刊行の『平和社会学研究』第2号に掲載の拙稿「平和を拒むもの」や「平和社会学と平和構築論への視角」(副題「戦争原因論から脱資本主義と脱国家主義の未来展望へ」)の議論の精緻化を、今回の科研費の最終報告書と密接に繋がるテーマとして進めたいと考えている。なお、この科研費とは経費的には直接の関係はないが、内容的・時期的には密接に関わっていたオンラインゼミ「砂川平和しみんゼミ」での「基地問題を考えるシリーズ」を、私は2021年春~2023年秋まで5期35回にわたり開催してきたが、現在、その後継ゼミとして「平和問題を考えるシリーズ」(当面は令和6年度の8月~1月の6回)を開講する予定である。私としては、そうした活動とともに、本科研費研究のテーマである「基地と平和の問題」をまとめあげる所存である。さらに具体的に述べれば、追加の現地調査も考えに入れつつ、最終的には、反基地意識の研究から浮かび上がる「平和理論・平和思想」の総まとめに入ることを考え、国内外での学会報告や講演会、さらには関連著作の刊行に向けた準備を加速したいと考えている。著作に関して付言すれば、拙著『トランスナショナリズム論序説』の増補改訂版と新著『平和思想と平和社会学』の刊行、および共著『共生と平和の国際関係』の刊行を年度内に見通す予定である。
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