研究課題/領域番号 |
21K01882
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 星槎大学 |
研究代表者 |
保屋野 初子 星槎大学, 共生科学部, 特任教授 (20772841)
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研究分担者 |
秋山 道雄 滋賀県立大学, 環境科学部, 名誉教授 (00231845)
東 智美 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (70815000)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 北タイ / 利水者の主体化 / 参加型水管理(PIM) / 灌漑共同管理委員会(灌漑JMC) / 住民組織 / ムアン・ファーイ / 国営土地改良事業 / 集落機能 / 伝統的灌漑システム / 灌漑用水管理の主体 / 地域社会システム / 灌漑システム / 統合的水資源管理(IWRM) / 地域の水環境 / ボトムアップアプローチ |
研究開始時の研究の概要 |
持続可能な水資源管理は世界的共通課題である。最大利用者である農業用水に関し、とくに途上国の灌漑用水末端での利水者の組織化や主体化が課題となり、日本では用水管理の担い手の再編が課題となっている。本研究は、北タイと日本の3つのタイプの灌漑システムを対象に、利水者組織・農家の用水管理実態を調査して課題を把握した上で、各組織の特性、地域社会とのかかわり、利水者の意識などとの関係性を明らかにし、主体の視角から持続可能な農業用水管理の要件を抽出する。その際に住民組織論、資源論、環境社会学の各分析枠組みを用い、持続可能な水資源管理の末端主体からのボトムアップアプローチを示し、次の研究段階への道筋をつける。
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研究実績の概要 |
2022年度は3年ぶりの現地調査を実施した。北タイのチェンラーイ県では2022年9月、2023年2月~3月に各1週間ほど、政府大規模灌漑事業・メーラーオ灌漑事業の利水者および灌漑局事務所職員からの聞き取り調査と資料収集、伝統的灌漑システムであるムアン・ファーイのジャオウォー堰の利水者からの聞き取り調査を行った。両システムとも2019年以降の変化を把握することに重点を置き、前者については水利費徴収、乾期水不足、灌漑共同管理委員会(灌漑JMC)、利水者の意識などの観点から水管理の変化と現状を把握した。後者については、堰の沿革や地域社会の歴史的背景、人間関係などを含めた地域社会とムアン・ファーイとの関係性の把握にも努めた。 以上の成果として、メーラーオ灌漑システムに関する論稿を学会誌『水資源・環境研究』に投稿し、研究ノート「『利水者の主体化』課題に対する参加型水管理の可能性―北タイの大規模灌漑事業における導入と改革の事例研究―」(保屋野・東)が掲載予定である(2023年6月発刊『水資源・環境研究』35巻3号)。ジャオウォー堰に関する論稿は現在執筆中で、2023年中に投稿の予定である。 愛知川沿岸土地改良区の現地調査は国内でのコロナ禍の行動制限が続いたため実施できなかったが、これまでの調査記録や資料の整理・分析、今後の調査の方針づくりなどの作業にあて、愛知川水利史のポイントを整理した。愛知川沿岸土地改良区が愛知川に対して持つ水利権は15.4立法メートル/sであり、このうち0.3立法メートル/sは河川への放流を義務付けられている。ただ、河川への放流量は季節によって変動があり、7月末の中干し後の穂孕み期には、放流量がゼロの設定となっている。これが、愛知川本川における瀬切れと関わっていることが想定される。これらを踏まえ、2023年度中のできるだけ早期に調査を再開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2年目にあたった2022年度後半は、国外の事例研究対象国タイへの入国制限が緩和され、前年度の遅れを取り戻すべく北タイでの現地調査を2回実施した。計画では、それぞれの灌漑システムの「主体」のありようが比較可能となるような調査を実施する予定であったが、両システムともに2019年の調査時から外的および内的に大きな変化が見られたことから、それぞれのシステムの利水者・水利組織の変化の内容に着目し、その具体的把握と外的および内的要因を明らかにする調査方針に変更して実施した。 メーラーオ事業においては灌漑局主導で始まったPIM(農民参加型水資源管理)改革が利水者・水利組織に浸透しつつあり、水利費の統一的徴収、水管理ルールの順守、灌漑共同管理委員会(灌漑JMC)の稼働といった制度的変化と意識変化の結果、水管理の効率化、不平等配水の改善がなされていることがわかった。ジャオウォー堰については堰がコンクリート化されメーラーオ事業ほかの水利組織との水資源共同管理態勢に移ることとなり、ムアン・ファーイとしての運営にも変化が迫られていることがわかった。こうした変化を通して、各灌漑システムの利水者・水利組織の主体のありようも変化の過程にあることを捉えることができた。 愛知川沿岸を対象とする現地調査は計画より遅れているが、2019年までの調査の蓄積をもとに現地の状況に関する論点を整理した。さらに、2021年の個体群生態学会で愛知川の瀬切れについて報告した後、関係者との意見交換を進め、愛知川水利に関わる文献・資料を新たに収集した。
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今後の研究の推進方策 |
3年目の2023年度は、北タイにて1回、愛知川沿岸では2~3回の現地調査を実施する。北タイの事例については、2年目の調査で明らかになった各灌漑システムの利水者・水利組織の変容について、それぞれの要因、背景、経緯などをさらに具体的に把握したうえで、各システムにおける利水者・水利組織の主体に関しての共通項、相違点などを整理し、比較検討のための準備を整える。 愛知川沿岸土地改良区の事例においては、国営土地改良事業の進捗により、地域への影響が見え始めている。これが末端の水管理体制をどこまで再編していくのかという点を追求することが、今年度の事例研究一つの論点である。水管理に関する社会的環境の変化に対し利水者・水利組織がどのような対応をしているかを水利組合単位での聞き取り調査から把握し、水管理の主体としての利水者・水利組織の変容、さらに今後の再編への示唆となるかどうかを検討する。 3つの灌漑システムを対象としたこれまでの事例調査結果を整理し、持続可能な灌漑用水管理の主体に関する仮説を立て、成果を学会発表、あるいは投稿するための準備を行う。
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