研究課題/領域番号 |
21K01886
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
井沢 泰樹 東洋大学, 社会学部, 教授 (60303997)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 在日コリアン / 自殺予防 / 精神障害 / 自助グループ / クリニカルバイアス / スティグマ |
研究開始時の研究の概要 |
在日コリアンにおける自殺問題の社会的歴史的環境的要因を明らかにするために、彼/彼女たちが日常的にどのようなストレス状況におかれているのかをインタビュー調査、参与観察、アンケート調査等により明らかにする。また、自死遺族の方々からの面談調査を試みて、自殺をされた方々がどのような状況下にあったのかを明らかにする。そうした基礎研究をとおして、自殺予防の方策としてのピアサポート活動、「自死遺族の会」活動の開始を試み、エスニック・マイノリティにおける精神障害と自殺問題の予防策を模索する。
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研究実績の概要 |
今年度はおもに2つの事業をおこなった。一つは2021年度に実施した在日コリアンのメンタルへルスに関するアンケート調査と2023年度から実施している在日コリアンに対するインタビュー調査をもとに、第119回日本精神神経学会学術総会(2023年6月22~24日)において「在日コリアンのメンタルヘルスに関するアンケート調査」と題した口頭発表(ポスターセッション)をおこなったことである。その発表内容は以下である。 まず目的として、在日韓国・朝鮮籍者の自殺死亡率は「日本全体」や他の国籍者よりも際立って高く、その傾向は一貫しており、長年に渡る日本社会における差別的処遇が影響していると考えられる。そこで、在日コリアンのメンタルヘルスに関する現状と課題を明らかにするためにアンケート調査およびインタビュー調査をおこなった。 結論として、在日コリアンは日常生活のなかでさまざまな生きづらさを感じており、それがストレス・精神疾患罹患要因となる場合が少なくない。また、そうしたポスト社会からの「避難場所」となることが期待される民族コミュニティであるが、封建的価値観や民族的紐帯を強調するあまり「息苦しさ」を感じている人びとも少なくないことも明らかとなった。 また、もう一つの事業は、2023年4月より、在日コリアンでかつ精神疾患を持つ人たちのための自助グループ「コリアンルーツ・メンタルヘルスグループ」を開始したことである。月に1回オンライン形式で、日々、孤立しがちな日本各地の当事者をつないで交流をおこなっており、「私たちの日々の心の支えになっている」というお声をいただいており貴重な交流の場となっている。現在、約10名の参加者でおこなっており、日本社会でコリアンルーツとして、そして精神障害者として生活するさまざまな思いやあるいはストレスを共有しており、引き続き活動を続けていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度、まず日本精神神経学会学術総会で発表をできた事は大変に意義深いことである。発表後の質疑応答では、在日コリアンの現状についての質問があり、また参加者からは、精神医学におけるスティグマとメンタルヘルスの問題として、この問題は引き続き探求されていかなければならない問題であるといったご意見等を頂戴した。精神医療において、人権、差別、あるいはダイバーシティの問題というのは、まだまだ遅れており、いわゆるクリニカルバイアス(医療者や支援者が特定の集団に対しても持つ偏見やスティグマ)の問題というのは、精神医療そしてメンタルヘルスの領域でもたいへんに大きな課題であると考えられる。引き続き本研究を進めて、その成果を第120回日本精神神経学会学術総会(2024年6月開催)においてシンポジウムとして発表する予定である(採択済み)。 また、2023年4月より開始した在日コリアンでかつ精神疾患を持つ人たちのための自助グループ「コリアンルーツ・メンタルヘルスグループ」も1年になる。月に1回オンライン形式で、孤立しがちな日本各地の当事者をつないで交流をおこなっており、「心の支えになっている」というお声をいただいており貴重な機会となっている。現在、約10名の参加者でおこなっており、日本社会でコリアンルーツとして、そして精神障害者として生活するさまざまな思いやあるいはストレスを共有しており、引き続き活動を続けていきたいと考えているが、なにぶんオンラインという形式上、人数があまり多くなると、たとえば開催時間のあいだに一言も話さないで終了してしまう参加者もいたり、話す人と聞き役が固定化してしまったりといった傾向が見られ、人数が増えればいいというわけではないことがうかがえる。可能であれば、各地域ごとに対面で集う機会を持ってもよいのではないかといった意見も出ており運営方式には今後も課題が残っている。
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今後の研究の推進方策 |
精神医学の分野において人権と差別、ダイバーシティの問題というのは、まだまだ遅れており、いわゆるクリニカルバイアスの問題というのは、精神医療そしてメンタルヘルスの領域でもたいへんに大きな課題である。2024年度はおもにインタビュー調査などの質的調査をおこなって引き続き本研究を進め、その成果を第120回日本精神神経学会学術総会(2024年6月20~22日開催)において通文化的視点・アプローチのシンポジウム「メンタルヘルス支援とダイバーシティ-LGBTQ+、留学生、在日コリアンへの支援に焦点をあてて-」を開催する予定である(採択済み)。 これは実は、在日コリアンの抱えるメンタルヘルスと自殺予防の問題というのは、やはり社会的マイノリティの一人であるセクシュアルマイノリティ、あるいは留学生の人々が直面する課題と共通する点も多いのである。本シンポジウムでは、そうした三者のマイノリティが直面する問題の共通性と独自性を明らかにして、問題解決の方途を探ろうとするものである。 また、2023年4月より開始した在日コリアンでかつ精神疾患を持つ人たちのための自助グループも引き続き実施をしていく。先述のような事情から人数が増えればよいというわけではないが、コリアンルーツで精神障害を持つ人々の貴重な出会いと交流の機会となっており、引き続き大事に育てていきたいと考えている。 また、ある在日コリアンからは、その人が在日コリアン、精神障害者、セクシュアルマイノリティであるということを告白された。その方から、既存の自助グループだけではなく、それに「セクシュアルマイノリティ」という属性を加えた、より複合的なアイデンティティを持つ人々のためのグループがほしいという要望があり、現在、それを開始するために準備を進めている。このように「研究」と「実践」を往還的に進めていく取り組みを着実に進めていきたいと考えている。
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