研究課題/領域番号 |
21K01916
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉田 誠 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90275016)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 日産自動車 / 先任権 / 会社共同体 / 従業員秩序 / 年功序列 / 生産復興運動 / 従業員共同体 / 雇用保障 / 人員整理 / 防衛闘争 / 混合組合 / 横浜船渠 / 勤続年数 / 年功的処遇 / 合理的賃金制度 / 日給 / 生活給 / 日本的雇用慣行 / 歴史社会学 / 勤続給 |
研究開始時の研究の概要 |
長期雇用および年功を特徴とした日本的雇用慣行の歴史的な成立時期をめぐる議論に対して、戦後GHQによる米国の先任権制度の日本への移植および経営者側での一定の受容という事実発見を起点として、「年功」概念を戦前・戦中以来のものとする旧来的な見方を前提とするものとしてではなく、戦後的平等観の攻めぎあいの帰結として捉え、労働者の側からする年齢、経営側からする優秀な従業員の長期雇用、米国発の先任権という、この3つのベクトルの合成から日本的雇用慣行における「年功」概念が確立し、またそれが戦後日本の労使関係上のアイデンティティとして構成されたことを検証する。
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研究実績の概要 |
2023年度の研究実績としては、第二次大戦後初期の日産自動車の労使関係と人員体制の展開に即しながら、日本的雇用の生成プロセスの検討を行ったことにある。その目的は、初期労働組合の取り組みがいかにいわゆる「日本的雇用慣行」の形成に関係してきたのかを確認した。組合の結成過程を検討すると、工員層だけによる組織化が進められていたなかで、その急進化を危惧する経営側が社員層に対して社工員同一の組合とするよう示唆し、工職混合の従業員組合が結成された。この従業員組合は旧来的な企業内秩序の維持との引き換えに、雇用保障と生活できる賃金を確保するための会社共同体を構築することを目指すことになった。このため家族を含めた生活保障を意図する賃金制度が組合主導で作られることになった。しかし、こうした会社共同体の方向性は、1948年末の経済九原則やドッジ・ラインにより苦境に立たされることになる。組合は経営側に対して協力的な姿勢をとりながらも、しかし人員整理を避けることができなかった。 この人員整理にあたって、会社側は日本経営者団体連盟に協力をあおぐなか、米国の先任権が移入され、解雇基準の中に「勤続年数の浅き者」という形で活用されることになった。当時、GHQは米国型の先任権を日本に提案していたし、また日本の経営者団体も、その受け入れに積極的な姿勢をとっていたのである。解雇における先任権規定の導入という事態は、他の企業の人員整理基準にも見られる。なお、この時期の経営側の文書を確認すると、単に解雇基準として先任権を使うということだけでなく、新たな従業員秩序の基盤に勤続年数を置くという方向性が看取できる。こうした事実発見は、今後日本的雇用の形成における年功概念の再検討を迫る意義を有すると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」と評価した理由は、2023年度には単著『戦後初期日産労使関係史』を公刊し、この本において本研究課題である先任権と日本的雇用についての重要な論点を提示することができたからである。すなわち、GHQがアメリカの先任権制度を日本へ移入にしようとしていたこと、および日本の経営者団体が先任権を整理解雇の人員整理基準として積極的に取り入れようとし、「勤続年数の短いもの」が1949年のドッジ・ライン期の人員整理基準に入ったこと、およびその結果、1949年の人員整理においては戦後入社の短期勤続者が解雇者の中心となり、戦前・戦中から在籍していた長期勤続者が温存されることになったことを、各種データや証言を用いながら明らかにした。アメリカ発の先任権制度を介する形で長期勤続者の雇用維持が可能になったのであり、これがその直後1950年代前半期に「終身雇用」(J. C. アベグレン)や「年功」(氏原正治郎)の発見につながった可能性を提示し、先任権と長期雇用や年功序列との間に一定の関係があったことを示唆することができた。 これは研究が「順調に進展している」ことを示すが、他方で、単なる解雇基準としての先任権の枠組みを超えて、新たな労務管理の原理として先任権が用いられようとしてきたことや、GHQによる先任権の導入奨励の政策展開についての研究を進めてきたが、これらについては社会政策学会労働史部会において中間的な発表を行いえただけであり、公表論文とすることができてない。これらを勘案すると「当初の予定以上に進展している」とはいえず、一段階低い「おおむね順調に進展している」と評価せざるをえないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はGHQや労働省が先任権の移植をどのように進めようとしていたのか、また経営者団体や労働組合がそれに対してどのような対応をとっていたのかを時系列的に確認していくこととする。これまでは先任権の移植という事実発見に重きを置き、その移植政策の展開過程については今後の検討事項としてきたからである。 GHQや労働省がどのように先任権の導入を推奨、奨励してきたのかを、占領期における政策文書や労働協約等の解説書等を探査し、検討する予定である。 そのうえで、日本側の経営者団体の先任権の受けとめかたが、解雇基準だけではなく、昇進や昇給といった日本の人事制度に勤続年数重視という考え方を植えつけることになった点を研究する。これにあたっては経営者団体の政策文書のなかで先任権がどのように扱われてきたのかを検討する。1950年代は一方ではアメリカのジョブ型が模索されながらも導入に失敗した時期である。他方で、戦前の身分制につながる資格制が復活した時期ともいわれている。資格制をめぐる議論のなかで勤続年数という基準がどのように扱われているのかを洗い出し、資格制における年功序列の考え方の基底に米国の先任権が関与している可能性を検討する。 ここから派生的に出てくる重要な仮説は年功と年功序列の峻別である。戦前の労務管理のあり方は年功的処遇と戦後になって特徴づけられたが、これは経営側にとって優秀と考えられる労働者を長期雇用し、処遇上優遇してきたことである。優秀であるがゆえに解雇されずに長期に雇用されてきたのであり、そしてその長期勤続に報いて褒賞が与えられていたのである。他方、年功序列とは勤続年数の長短を基底において従業員を序列化することであり、戦前的な年功処遇とは似て非なるものではないかということである。本研究では後者の勤続年数の長短に基づく序列こそ、先任権の影響があることを明確にする予定である。
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