研究課題/領域番号 |
21K02263
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 出版法 / 出版業界 / 本屋仲間 / 大阪 / 素人蔵版 / 施印 / 進物 / 年玉 / 熊谷直恭 / 蓮心 / 鳩居堂 / 放生 / 牛馬 / 善書 / 京都 / 養生 / 倹約 / 陰徳 / 医療情報 / 知の伝達 / 無料 / 不安 |
研究開始時の研究の概要 |
医学的な知識のない人が自分や家族の命を守るために、信頼できる医療情報をどこで手に入れればよいのか。コロナ禍であらためて浮上してきたこの不安は、病院や医師免許制度さえない近世社会では一層強烈かつ慢性的なものであった。当時の出版業界はこの不安に目を付け、医療手引や薬広告の出版により大きく繁昌したのである。しかし、その一方で、医療情報をあえて無料で提供する人々も大勢現れた。本研究は、近世の医療情報の伝達における「施印」(=無料配布のチラシ)の役割を解明する。具体的には、「施印」を企画した人々は商業出版との差異化を図りながら、想定読者の不安をどのように晴らし、信頼を得ようとしたのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本年度は、近世出版法における「施印」の位置を検討した。京都老舗鳩居堂の四代目当主である熊谷蓮心(直恭)の「医療情報」施印活動を支えた思想の解明が本研究の課題であるが、施印活動は世の中へ情報を発信することを前提にしているため、その発信を規定する法律と、それを受容する読者の立場も検討しなければならない。そのうち、読者を論じるために十分に必要な史料はまだ見つかっていないが、法令の側面を体系的に整理している資料集が複数に刊行されているため、本年度は後者から着手した。 近世法における施印の問題を取り扱った法政史研究は皆無だが、書物文化史研究の分野では、施印は非営利目的な印刷物として原則的に自由に出版・流通できたことが長らくの通説である。しかし、問題が二点存在する。第一に、この通説を裏付ける充分な資料的根拠が示されていない。第二に、仮に原則的に自由だったとしても、肝心な「原則的」が指す範囲に関する検討がされていない。 以上の問題を解決すべく、筆者は近世大阪を地域対象に、幕府の出版法令を記す触書と、法令の厳守と出版業界の繁栄を責務とした大阪本屋仲間の記録を主な資料として、「施印」と関わる法令と、それをめぐって生じた事件を整理した。考察も合わせて、只今学術論文として仕上げている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筆者が本研究の主な史料として京都市歴史資料館所蔵の「熊谷(純)家文書」(写真帳)を利用しているが、近年、本文書群の再調査が行われた結果、新たに3400点ほどの資料が整理され、去年度目録として刊行された。熊谷直恭の施印活動をいっそう精密に検討できる機会であるが、新調査分の資料を整理する予想外の作業時間が必要となった。さらに、新調査分の写真帳が一般公開されるのは秋季ごろのため、それまで待機せざるを得ない。待機中に研究進捗に遅れを生じさせないため、予定していた研究順序を変更して、「熊谷家(純)文書」が必要でない課題として、施印一般の近世法における位置を検討することにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、二つの課題がある。第一に、新調査分の「熊谷家(純)文書」を読み込み、整理すること。第二に、史料アクセスの都合上に保留せざるを得なかった去年度に予定していた課題、すなわち蓮心の「麦飯」効用を弘める活動を検討する。この活動に着目する理由は3点ある。第一に、蓮心は「麦飯」効用について、その一生涯を通して唱え続けたため、彼にとって重大な意味を持つ活動であったこと。第二に、理想的な「麦飯」を作るための農業経験の試行錯誤が、町人である蓮心の思想に重大な変化をもたらす契機となったこと。第三に、「麦飯」宣伝活動を始めた直後、天保飢饉が発生したため、その活動が蓮心本人をはじめ、周辺の人々にも重大な意義を持つようになったこと。
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