研究課題/領域番号 |
21K02293
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 広島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
下田 旭美 広島商船高等専門学校, その他部局等, 准教授 (80812784)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | タイ / 比較教育 / 高専 / 工学教育 / 技術者教育 / 教育借用 / 国際教育協力 / 比較教育学 / 技術教育 |
研究開始時の研究の概要 |
産業人材育成を担う国立高等専門学校(以下、高専)に対するアジア新興国の関心は高く、本研究者は、若手研究(2018-20年度)のもと、タイにおける高専教育モデル(5年課程)の導入過程を3年間、継続的に調査し、直面する課題をまとめた。本研究課題では、5年課程の完成年度を射程に含め、高専教育の中核である4、5年次の専門教育、卒業研究の実施状況と課題を解明する。その際、日本国内の高専の創設当時の課題とグローバル化を踏まえた「教育借用論」(林 2019)の理論的視点を援用する。これにより、タイにおける高専教育モデルの実装化を実践と理論の両面から分析・考察し、実装化の課題を解明、改善策を導くことを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、タイに日本から移植された5年間の高専教育モデルの実装の実態を把握し、学術的視点「教育借用」論と経験的視点「国内高専の創設当初の課題と取り組み」から、高専教育モデルのタイでの実装化の課題と改善策を明らかにすることである。 タイの高専教育モデルの実装については、現地調査を通して、同モデルの概観(学校基礎情報、年間スケジュールや時間割、入試、教員資格など)とともに、特に高学年で実施する高専独自の卒業研究やインターン、卒業後の進学や進路について整理した。また、タイ高専教育モデルが導入されたテクニカルカレッジを所掌する職業教育局とその歴史を、タイの産業発展を軸に概観し、同モデルのタイへの導入の歴史的、社会的背景を明らかにした。 学術的視点「教育借用」論については、先行研究の検討と教育モデル受容の過程での摩擦や衝突についての理論枠組み、分析項目の設定について国際学会で発表するとともに、高専教育のアイデンティティを探るべく、海外(カンボジア、ベトナム、タイ)の職業教育機関と高専を比較分析し論文にまとめた。さらに、以前に同様の方法で比較分析を行った欧州(ドイツ、イギリス、フランス)と上述の東南アジアの結果と日本の高専を総合的に分析し、日本の高専の特徴(5年間一貫の教育課程、教員の学歴資格、それに伴う卒業研究など)を明らかにした。 経験的視点「国内高専の創設当初の課題と取り組み」では、日本高専学会の学会誌でこれまで扱った高専研究について分析をし、学会誌が他の高専や外部と共有する媒体としての役割を担っていること、高専卒業後にその卒業生の間で強いネットワークがつくられていること、また高専の制度も独法化、新学科の開設など、教育制度自体に変化があること、高専独自の教育活動の向上・改善の論文があることなどが明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
タイの高専教育モデルの実装について、タイのテクニカルカレッジに高専教育モデルが導入され6年目となる2023年8月には、4年次の企業でのインターンシップ、5年次の卒業研究、卒業後の就職・進路などについて、関係者や学生への聞き取り調査とともに、関係資料の収集を通して把握を試みた。また、2022年8月にチョンブリ県にある一般のテクニカルカレッジを訪問し、職業教育局の産業人材育成の取り組みについての調査を行った。特にタイの産業発展のビジョンである「タイランド4.0」に向けた産業人材育成に取り組みについての把握を試み、その調査結果を2023年6月の日本比較教育学会にて発表した。また、上記の2つの調査結果から、インターンシップ制度が、タイの教育制度と社会的背景が主な要因となり、日本の高専のそれと比較し変容していることが明確となり、それらをまとめ、2023年11月のアジア比較教育学会にてポスター発表を行った。 学術的視点では、「教育借用」の際に先鋭化する高専教育のアイデンティティを探るべく、欧州と東南アジアの職業教育機関と高専を比較分析し、「第7章 海外から見た高専教育制度の特徴」(書籍『日本式教育の海外展開とインパクト -往還する高専/KOSENと日本式国際学校の新潮流-』)としてまとめた。 経験的視点「国内高専の課題と取り組み」については、日本の高専のインターンシップ制度とともに、日本学生のキャリア形成支援や制度全般についての文献調査を進めている。特にタイで活発に取り入れられている産学連携教育(Cooperative & Work-Integrated Education)について、高専の制度に留まらず日本全体の動向の把握を進めるとともに、2024年6月には、世界産学連携教育協会国際研究シンポジウムに参加し、世界の動向についても追っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年では、「教育借用」論について、欧州や東南アジアとの比較分析から導かれた高専の特徴と照らし合わせた枠組みを再検討していく。並行して、これまでの高専研究の分析から明確になった高専が重要視している実践的な教育活動(実習やインターンなど)や卒業研究(高専学会誌などの発表の場の設定など含む)、卒業後のネットワーク(就職や進学も含む)などについて、8月にテクニカルカレッジにて現地調査を行っていく。これまでの高専教育モデル移植のプロセスの中で、タイのインターンシップ制度は日本のそれと比較すると大きく変容しており、タイの教育制度と社会的背景が主な要因であることまで明らかになった。最終年では日本の高専のインターンシップ制度だけではなく、その制度の成り立ち、具体的な取り組みについて再整理し、その要因分析を深めていく。また、2024年6月には、世界産学連携教育協会国際研究シンポジウムに参加し、インターンシップ制度(産学連携教育)に関する世界の潮流についても見識を深め、世界の潮流を基礎にタイと日本の比較分析を試みる。そして、9月に開催される日本高専学会において、現地調査と比較分析結果について発表する予定である。 最終的には、これまでの継続的に実施した現地調査から明らかになった5年間のタイの高専教育モデルの全様を、高専の特徴と照らし合わせた「教育借用」論の枠組みを活用し、日本とタイの類似点とともに、インターンシップ制度のような相違点を再度洗い出し、タイに移植された高専教育モデルの実装にかかる課題をまとめるとともに、これまで整理してきたタイの職業教育分野や産業などの社会的背景も考慮しつつ、その改善策を検討していき、11月にタイ・バンコクで開催される東南アジア教育大臣機構・高等教育開発センター主催の「2024年地域間研究シンポジウム」にて発表する予定である。
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