研究開始時の研究の概要 |
本研究では,乳児との触れ合いによる大学生の親愛感情の変化を, 以下の方法で検討する。まず、親愛感情の評価は心理尺度(対児感情評定尺度)と唾液中オキシトシン濃度で行う。次に“触れ合い”は「抱っこしてアイコンタクトする」とし, ベビー人形を抱っこする群を比較群として設定する。そして、乳児との触れ合いで大学生が経験するストレスを唾液中コルチゾール濃度で評価する。さらに、親愛感情への関連要因は抱っこ中のアイコンタクトの有無、対象者の被養育体験とし, 被養育体験尺度で評価する。
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研究実績の概要 |
本研究では,未婚で育児経験の無い青年を,非血縁の乳児を抱っこする実験群と,乳児人形を抱っこする対照群に分け,心身へ及ぼす影響を4時点(1回目前・後・2回目前・後)で比較した。その結果,唾液中オキシトシン値とコルチゾール値,対児感情得点が,抱っこする対象との相互交流の有無や質に影響されることが示された。乳児との触れ合いによる心身への影響に関する先行研究は,限定された刺激を使った研究手法が多い中, 本実験プロトコールは,複数の感覚を共有する“抱っこ”に焦点を当てており,乳児と養育者間で顕著にみられる関わりを再現できたといえる。研究結果は,乳児と乳児人形の抱っこにおいて,オキシトシンとコルチゾールの変動が異なる傾向を示し,乳児を抱っこすることでオキシトシンの分泌が維持され,コルチゾールの分泌が抑えられる一方,乳児人形を抱っこすることがオキシトシンの分泌低下に関与し,コルチゾールの分泌に正の影響を与えることが明らかとなった。また, 抱っこがもたらす身体感覚が青年の対児感情やストレスと関連しているかを検討した結果,過去の経験や時間との相乗効果が,抱っこによる個々の反応に影響を及ぼすことが浮き彫りとなった。これらの結果は,乳児との身体接触が育児経験の無い青年の感情形成にどのような役割を果たすかを理解する上で重要な示唆を提供し,抱っこが心理的・生理学的な側面でもたらす影響を理解するための一助となる。さらに,育児経験の無い青年に向けて,抱っこを介した乳児との交流機会を設けることは, 近い将来親となるための準備性を高めるだけでなく, 対人関係能力を向上させ, 青年自身の健康の維持にも役立つ可能性が示された。青年自身が生活するコミュニティでこのような取り組みができれば,地域社会の育児支援体制の強化に貢献でき,その体験を通して青年自身の自己効力感と生涯発達へもポジティブな影響をもたらすと考える。
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