研究課題/領域番号 |
21K02447
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
森 敏生 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30200372)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 創発的学習 / 異質協同 / グループ学習 / 形成的評価 / 学習としての評価 / 変容的評価 / 責任化・主体化・協働化 / 学習評価の改善 / 学習のための評価 / 主体的・自立的な学習 / 学習評価 / 形成的アセスメント / フィードバック / 体育科教育 / 授業デザイン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、体育科教育における学習評価論の刷新につながる変容的評価(transformative assessment)の位置づけと役割を明示し、変容的評価を実装した授業をデザインする原則的な方法を明らかにすることを目的としている。体育では学習者自身の能力表現や情動に深く関わるリアルな課題に、異質な集団が協働で取り組む学習の複雑さがある。そのため、目標準拠型の形成的評価にとどまらず、目標変更あるいは目標創出型の変容的評価の位置づけや機能の解明は、体育実践においてより重要性、必要性、現実性を帯びている。本研究は、他教科における変容的評価論の探究への波及効果も期待できる。
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研究実績の概要 |
今年度の研究課題の中心は、仮説的な授業モデルの内実を授業事例の分析・検討によってよりクリアにすることである。そこで、体育授業における異質協同のグループ学習において学習者同士が学習対象(教材)をめぐる関係構築のなかで新たな学習内容の探求活動が創発する場合があることを事例として確認し、その要件を検討する。そして、異質グループによる創発的学習の評価が従来の形成的評価とは異なる特徴を持つことを明らかにする。 創発的学習が生起する要件の第一は、教師が想定する授業のねらいや学習内容に未確定、曖昧な部分があるということである。第二の要件は、学習課題に対する学習者の気づき(認識)、受け止め方(興味・関心や疑問)、要求や主張(意見)を自由に表現(表明)することが教授において受容され求められるということである。第三の要件は、学習者が教師の想定外の表現や反応をしたとき、教師はそれが学習のねらいや内容の修正や変更、さらには新たなねらいや内容の創出につながることを直感し、学習者の表現や反応を協同的・応答的に意味づけていくということである。 次に創発的学習の評価の特徴に関して、主体的・自律的学習をめざす「学習としての評価」の重要性とともに、学習者が設定された評価基準の役割を問い直し、批判的に検討し、他の新たな基準を正当化する可能性をもつ評価の変革的な捉え方が重視される。また、評価について教師と生徒が相互に対話しながら「責任化・主体化・協働化」を図ることが求められる。そして目標準拠的で目標収束的な評価ではなく、オープンエンドで探求的な学習指導において学習者の多様なニーズに応答しながら何を学ぶのかを探索することを促す評価が重視される。つまり、「学習としての評価」のプロセスに「変容的評価」(transformative assessment)の機能的側面を組み込むことが必要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が開始された頃から広がったコロナ禍により予定していた研究活動が進められなかったことが、全体的な計画の遅れと方針転換を余儀なくしてきた。そのなかで、詳細な授業記録資料や授業実践者からの聞き取り情報をもとに、授業事例の検討と分析を進め、体育授業における異質協同の創発的学習にふさわしい「学習としての評価」に変容的評価の機能的側面を含めた評価の特徴を一定明らかにすることができた。 その特徴はこれまでの目標準拠型の評価を問い直し、新たな評価の見かた・考え方を求めるものである。つまり、①教師の予想・想定外の学習状況をより有用な新たなねらいや内容(新たな目標・評価基準)を創出するチャンスと捉える。②学習と評価のプロセス自体に教師だけでなく学習者自身も責任を持つようになる(自己・相互評価の展開と改善)。③学習者自身が学習のねらいや内容や方法に自ら責任を担う主体化を促していく。④異質な他者は互いに学習に有効な情報を提供・共有し、支援とケアし合う存在となり、互いに応答的責任を引き受け合うようになる。⑤学習活動の対象化・共有化、意味や価値の検証、改善、統合を促す仕組みや方法を異質グループの学習活動のプロセスに組み込む。 以上のように研究計画全体としては当初の予定を延長して次年度に継続する必要がある一方で、変容的評価の機能的な特徴がある程度明らかになったという点で、「やや遅れている」と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、次の3つの研究課題に取り組むことを予定している。 第一は、創発的学習に相応しい評価の特徴を、さらに実践事例に照らし合わせて具体化していくこと。これには引き続き、授業実践の探索が必要となる。 第二は、目標創出タイプの評価、変容的評価についてより多くの先行研究の資料を探ることである。 第三は、既存の目標・内容から逸脱している学習行為のアセスメントから目標を創出する過程を明確にする(把握・意味づけ・意味の共有・新たな目標・課題の明示化)。これは本研究の焦点的研究課題であるが、この課題を明らかにするために最適な授業実践(教授ー学習過程)、とくに本研究で特徴づけてきた評価の見かた・考え方をもった実践者が見つかるかどうかが鍵となる。 以上の研究課題の追求し、その成果をもとに授業のデザイン方法について原理・原則を導き出したい。
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