研究課題/領域番号 |
21K02472
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 旭川大学 |
研究代表者 |
齋藤 眞宏 旭川大学, 経済学部, 教授 (90405621)
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研究分担者 |
渡邉 巧 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (00780511)
大坂 遊 周南公立大学, 経済学部, 准教授 (30805643)
草原 和博 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (40294269)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 教師教育者の専門性開発 / セルフスタディ / 省察 / 理論と実践の往還 / 教師教育コミュニティ |
研究開始時の研究の概要 |
教師を育てる人=教師教育者の専門性開発において,欧米諸国を中心として顕著な実績をあげてきた「セルフスタディ」の方法論を参照し,①海外においてセルフスタディはどのように理論化され実践されてきたか,②日本においてセルフスタディを用いた専門性開発をどのように導入できるか,という2つの問いを解明する。①では文献や聞き取り調査により海外のセルフスタディの研究成果を整理・分析する。②ではセルフスタディを通じて,日本における教師教育者の専門性を協働的に発展させ,専門性の向上を図る。またそのような実践を積み重ねながら、学びあう教師教育者のコミュニティの形成を目指す。
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研究実績の概要 |
2022年度には,自らのセルフスタディを学会発表や論文化するとともに,学校教員や大学院生と意見交換を行ってきた。その結果,セルフスタディは「即効薬」ではないが,自己の相対化から実践課題を解決に導くヒントを提供してくれるという研究方法上の特性が,対人専門職である教師や教師教育者にとっての魅力であることがわかった。具体的な研究成果を以下の通りに要約した。 (1)教育観・教育方法の発展:①教育実践において、子どもや学生の多様な興味・関心,その背景にある多様な文化を尊重する教育観や教育方法を創出するためにも,教師教育者や教師は自己の「強み」を大切にすることが重要である。②教師の権威性に向かい合い,時にそれを手放す用意も必要である。③子どもたちの主体性の尊重のためにも,教師を目指す学生たちの主体性を大事にし,彼らの主体性を発揮できる環境を用意する。③興味関心を同じくする教師教育者がつながる組織や制度の存在によって専門性開発が促進される,などである。 (2)教師あるいは教師教育者としての生き方・あり方の探究:セルフスタディは,教育者としての自己理解から自他尊重の姿勢・態度の獲得につながる。また自分を常に変革可能な状態におくことができる。より良い教育実践のためには,教師や教師教育者の自律的かつ継続的なセルフスタディは一定の意義を持つであろう。 一方で課題もある。日本社会では,自分を語るということはあまり肯定的に評価されない。セルフスタディの実践から課題解決へのプロセスや,異世代・異分野の教師や教師教育によるセルフスタディを促進する方法や環境の解明も必要である。またセルフスタディは,学術的研究でもある。教師や教師教育者の語りは個人的な体験であると同時に,社会に埋め込まれた価値観や規範を内包させている。教育者の認識の枠組みや学校文化の内実を明らかにすることによって学術的価値も高まる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は,セルフスタディを本格的に日本への導入する時期として位置付けてきた。そこでコロナ禍における制約はあったものの,オンライン会議等を重ねて国内外において研究発表や論文刊行を行ってきた。本科研における研究業績については十分に積み重ねてきたと言える。 国内外における研究発表は5件である。それぞれ異文化間教育学会第43回大会,ヨーロッパ教師教育学会(ATEE),日本教師教育学会第32回大会,日本教育方法学会第58回大会において発表した。さらに12月の第74回中四国教育学会においては2つのラウンドテーブルを行い,学校教員,教員養成に携わる大学教員や大学院生と交流することができた。これは今後の日本の教師教育におけるセルフスタディのコミュニティづくりのために大きな一歩であった。 それらの研究発表の成果は,論文としてまとめられて刊行された。『学校教育学実践研究』第29巻には2本,『東洋大学教職課程センター紀要』第5号,『周南公立大学論叢』第1巻にはそれぞれ1本ずつ掲載されている。また中四国教育学会における2件のラウンドテーブルの成果は『中四国教育学研究紀要』第68巻においてそれぞれ発表された。 特筆すべき成果は,セルフスタディにおける重要な国際的学術誌(査読あり)であるStudying Teacher Educationにおいて,日本の教員養成におけるセルフスタディを海外の研究者に向けて発信できたことである。内容は主体性と教師教育実践についてである。現在はオンラインで公開されているが,本年8月に発行されるVol.19(2)に掲載される予定である。今後の海外とのネットワークづくりのためにも非常に大きな成果だと自負している。 ただし残念ながら,本研究で予定されている書籍の刊行については,原稿はほぼ集まっているものの足踏みしている。できる限り早急に,編集作業に入る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究はまず書籍『セルフスタディを実践する-教師教育者による研究と専門性開発のために-』の刊行を目指す。現在のところ原稿はほぼ集まっている。出版社も決まっており、2023年度中の出版を目指す。そしてこの書籍を元にワークショップや研究会等を実施して教師・教師教育者のコミュニティ構築を図っていく。咋年5月には教員免許更新制の廃止が決まり,教員の主体的・自主的な意向を汲み取った研修が進められる。学校や教育委員会におけるワークショップや 研究会を実施して,学校現場の教師たちがそれぞれが抱えている課題をセルフスタディを通して協働的に探究・解決できる機会を提供していきたい。しかし残念ながら,現状ではセルフスタディはそこまで浸透していない。そこで2023年4月より月1回のオンラインセミナー「金曜日に夜更かしーセルフスタディを語り合うー」を広島大学教育ヴィジョン研究センターとの連携によって開催することにした。8月まで原則毎月第4金曜日に開催する。この成果をもとに12月には第75回中四国教育学会ではラウンドテーブルを実施する。 これらはいずれも論文化する。 それ以外にも,これまで通り国内外学会においてセルフスディの成果を発信していく。2023年5月には,研究代表者が全米教育学会において川柳を用いたセルフスタディを共同発表した。また6月の異文化間教育学会,9月の全英教育学会(British Educational Research Association)においても発表し,アイスランドの視察も行う。広島大学の教師教育者養成講座の成果も公刊する。 残念ながらこの3年間,新型コロナウィルスの蔓延のために国内外の教師教育研究者並びに実践者との情報交流,そしてコミュニティ作りについては予定していた成果を十分にあげられていない。国内外の教師・教師教育者との情報・意見交換については特に積極的に実施する。
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