研究課題/領域番号 |
21K02502
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
|
研究機関 | 東京未来大学 |
研究代表者 |
高橋 文子 東京未来大学, こども心理学部, 准教授 (60789931)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
|
キーワード | 芸術知 / 感性的表象 / 内容的/形式的/形成的方法論 / 美術教育 / 教師教育 / 教材 / 美的真実 / ホリスティック・アプローチ / 美的方法論 / 方法論的解明 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は美術教育における個に即した感性的表象を重視し,教師の専門性の一基盤として「芸術知」を設定する。「芸術知」とは芸術に関する知識のみに限定されない,情意を喚起する方法論的認識であり、その方法論を解明し、教師プログラムを開発することを目的とする。 本プログラムは,教員養成課程で学ぶ学生だけでなく,学び直しを必要とする現役の教師も対象とする。生活感情との結び付きを重視した造形要素,方法論的知見から10のトピックをコア実践題材として構造化する。それらを体験して「わかる美術」の方法論を得た教師群の実質的創造性の伸長を検証する。同時に「芸術知」を軸とする美術教育内容の体系化を目指す。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は、教師教育及び教師の学び直しに必須のコンピテンシーとして、芸術に関する形象と感性を統合する方法論的認識を「芸術知」概念と規定し、美術教育体系を見据えたプログラム開発を行うことである。これまでの検討により以下の成果を得た。 9月にはトルコのチャナッカレで開催された国際美術教育学会(InSEA)で口頭発表を行い、授業実践から抽出された芸術知の3側面(内容的/形式的/形成的)の理解は、創作を俯瞰して分析する視点を与え、児童・生徒が習得する能力と授業の力点を明確にすることで「わかる美術」を可能とすることを主張した。美学領域において山本正男は、日常的に美や芸術に触れて味わう感動と内容を「美的真実(aesthetic fact)」と総称し、美術教育が「形象表現」と「理念表現」という異なる次元の統合を図る教育内容をもつことを示した。美性(Aesthetic)への問いから、ホリスティック・アプローチによる美術教育観の検討を行った。全体性(Wholeness)と聖性(Holiness)からなる二軸直交モデルを構想し、横軸の全体性は「個別性⇔普遍性」、縦軸の聖性/美性は「精神性⇔物質性」の指標を定めた。個の志向性を支える「感覚・感情・信念等」の内容的側面は上部に、素材の独自性を示す「形態・素材・質感等」の形式的側面は下部に位置し、動的な「手の操作、技法等」の形成的側面はそれらを繋ぐ3次元の美術の作用として関係性を可視化した。また、創作過程における「考えて組み立てる」質的上昇と芸術知の親近性に着目し、湯瀬明意氏と共に実践研究を行った。また小学校6年、中学校3年修了時に習得を目指す教師の教育観とそれらの実現を促す具体的な題材構想について、民族誌的なリサーチによって談話と資料を収集する調査を国内(6校、2施設)、台湾(4校)で実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
美的なものを現象させる方法論的認識について、3側面それぞれの独自性を明らかにすることができた。形成的側面は、内容と形式をつなぐ動的概念であることを改めて、確認した。分ち難い要素を便宜的に分けて捉える分析的視点は、理念と各側面の要素との関係性を掴みやすい。特に造形的な見方、考え方の育成(perspective)を重視する現行の図画工作、美術教育の方向性においては直観的な把握と共に基盤となる。 中学一年生を対象とした優れた題材である「試験管を用いた花器」の創作過程において、3側面の方法論的認識の集積を捉えられるように、ワークシートに「解像度(内容的側面)/しっくり度(形式的側面)/手ごたえ度(形成的側面)」の各指標を加えて自己のモデリングを促した。生徒は「どのように試験管を支えるか」という事物的なレベルから次第にイメージを生み出し、感覚的な言語化と共に創作の質的上昇(深化点)を示した。特に、形式的側面の材料群は動的な「包む/接着する/巻く/組む等」の形成的側面と共に統合されるという構造を示すことができた。 教員養成における「子ども美術」の学びの視覚化のためのポートフォリオ実践において、学生の自己評価は、印象の表出等の質的レベルよりも、沢山書けたという量的レベルの達成感を拠り所とする実態であった。芸術的表出の内容や分析から抽出された「構成的操作」「記号的操作」「象徴的操作」等の習熟が今後の課題として示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では「芸術知」の総体として、国際バカロレアのディプロマプログラムTOK(Theory of Knowledge)の2022年の改訂で姿を消した「知るための方法WOK(Way of Knowledge)」の8つの具体的な方法「言語、知覚、感情、理性、創造、信仰、直観、記憶」を重視する。さらに内容的側面と形式的側面を繋ぐ作用の側面から検討を重ねる。 美しいと感じる感受と表出は個別のものであり、それ故、美のつくり方、美的方法論も個別に検討される。一方で教師の提案する授業プログラムは、児童、生徒の表現及び鑑賞を促し、それらの事実の客観的考察と内容の価値論点考察を経て教師の美術の方法論として集約される。併せて感性的表象の妨げとなる要因も提示される。美的真実を基礎とする美術教育学は、これらの教師の美術教育独特の構造モデルの体系化によって共有される。この3段階の形成プロセスを踏まえ、プラグマティズムの系譜に位置付けた教師教育における「わかる美術・芸術知ハンドブック」(仮称)の内容、構成を検討する。
|