研究課題/領域番号 |
21K02597
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
上里 京子 群馬大学, 共同教育学部, 教授 (80202448)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | 予防キャリア問題教育 / カリキュラム構成 / カリキュラム開発 / フランスの教育課程 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、フリーターやニートの増加等の就業問題と、失業等による貧困問題など、現在及び将来起こりうる職業生活に関する問題に対して、その解決と予防教育を実践しているフランスの「予防・健康・環境」科と関連教科との連携構造の分析と授業研究を行うことによって、予防キャリア問題教育のカリキュラム開発を試みる。 特に、2019年のプログラム改訂により、教科間連携が一層拡充されたことや、LGBT等の多様性を認めながら自他を尊重して意思決定することで、人間関係上の問題やストレスの予防を図る教育内容が充実した点に着目し、生涯発達を可能とするキャリア問題解決力と予防力を確実に習得できるコンピテンシー基準を開発する。
|
研究実績の概要 |
本研究では、フランスの「予防・健康・環境(PSE)」科における予防キャリア問題教育のカリキュラム構造と他教科との連携について、プログラム(2019年)の分析を通して考察した。 PSEは、24の各モジュールに設定された諸活動を通じて、共通の分野横断的能力を育成することを指導目標としており、「育成すべき能力」として、①情報処理、②所与の状況における分析手法の適用、③特定の生理現象、環境問題、法規定を予防措置と関連付けて説明する、④問題解決方法の提案、⑤選択の理由付け、⑥分かりやすい構文と適切な語彙を用いて筆記・口頭コミュニケーションを行うことに関する6つのコンピテンシーを明示している。 前回のプログラム(2009年)からの大きな改定点は、PSEの内容と関連する教科や学習内容、学習活動等が詳細に示された点であり、その理由として“職業教育科目の担当教師が連携し、複数教科にまたがる内容の授業を行うことによって、職業リスクの予防というテーマを幅広くカバーすることができる”ことをあげている。 各モジュールは、マトリクス表で示され、表の上部には、コレージュの生命と地球の科学(SVT)、テクノロジー、物理・化学、道徳・公民(EMC)、体育(EPS)で既に取り上げた概念が詳細に明記されている。 以上の分析結果から、2019年のプログラムでは、各モジュールの内容ごとに関連する教科間で、水平的・垂直的な連携を図る総合学習が推進されており、多くの教科を交差する演繹的な学習と、実習や企業研修等における帰納的な学習を螺旋的に繰り返すことによって、科学の方法論である分析と総合を繰り返す学びのプロセスが拡充されていた。具体的には、様々な職業生活問題とリスクを分析し、習得した公民としての能力や行動力を駆使して、問題解決と予防を図ることに総合できる系統的かつ実践的なカリキュラムが改良されている点は注目に値する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は主にPSEのプログラムにおけるカリキュラム構造と、他教科との関連に関する記述内容等を詳細に分析することができた。予防キャリア問題教育に関する内容は、12のモジュールから成り、「学習目標」と「関連する重要な概念」「活動・学習媒体」を三位一体で示すマトリクスで表されている。 12のモジュールの最初に位置づく「C1:労働の保健衛生と安全という課題」のマトリクス表を例に、他教科との関連に関する記述内容を概観すると、①表の上部にモジュールの目的が示され、「職業教育コースの履修を開始する生徒に、学校や企業研修の受け入れ先である企業の実習現場における労働の保健衛生・安全という課題を意識させること」を確認している。②つぎに、これまでに取り上げた概念が示され、コレージュの「テクノロジー」での「各種リスクの意識化、その原因や自然と人間に対する影響の分析」、「物理・化学」での「自身と他者の安全、リスク及びその管理」、「体育」での「リスクを評価し、無理をしないことを学ぶ」ことがあげられている。③表の左の欄には、「学習目標」が具体的に示され(例:従業員の健康と安全をめぐる課題を特定する)、中央の欄には「関連する重要な概念」、右の欄には「活動・学習媒体」(例:人的、社会的、経済的な課題の特定を目的としたリソースの活用)が示されている。④表の最下部には、「各課程の専攻職種に特化した職業教育とのつながりを考える。」という課題が示され、各生徒が専攻する職業教育の学習内容に関連付けることが指示されている。 以上のように、予防キャリア問題教育に関わる教科と教科課程は多く存在しているが、2020年1月以降は新型コロナウイルス対策のため、国外での資料調査や研究者へのインタビュー調査等ができない状況が続いたことと、2023年5月以降も依然として国外渡航には注意が必要であることから、やや遅れている状況にある。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の方法論に基づき、フランスの「予防・健康・環境」科のプログラムに示された予防キャリア教育に関する内容について、特に関連教科との連携の実態を、教科書の分析からも明らかにする。また、キャリア問題は、生き方モデルとしての親の教育力の低下問題の影響が大きいことから、親準備教育としての「ライフキャリア教育」に対応した「公民科」や、 2015年にフランスの教育課程に新設された「モラル教育」等との教科間連携の構造と内容を分析する。 本研究の推進方策として、教育内容における科学的概念と、子どもの生活概念を関連づける方法論に焦点を当てて分析することや、道徳・公民等との教科間連携の実態を明らかにすることで、それらの教科と親和性が高い総合教科としての日本の家庭科教育における予防キャリア問題教育のカリキュラム再構築に、有効な示唆を得ることができると考える。 また、フランスの予防キャリア問題教育に関わる各教科においては、教育課程を貫く「科学」に基礎をおいた科学教育という基本理念のもと、フランス独自の科学の認識論による概念によってカリキュラム開発が進められていることが推察できるが、この点を踏まえて比較分析することで、日本の家庭科教育を中心とした予防キャリア問題教育における独自の科学的概念を「市民生活リテラシー」として構築し、それを基軸としたカリキュラム開発を推進できると考える。
|