研究課題/領域番号 |
21K02724
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09060:特別支援教育関連
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
正井 隆晶 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (80880632)
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研究分担者 |
松山 沙樹 独立行政法人国立美術館京都国立近代美術館, 学芸課, 研究員 (00898413)
山本 利和 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (20200826)
廣瀬 浩二郎 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 准教授 (20342644)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 視覚障害児者 / 絵画鑑賞 / 触図教材 / 遠近法 / 視覚障害特別支援学校 / 美術館 / 触図 / 実態調査 / 触覚教材 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、視覚障害者が絵画を鑑賞する方法としての触図を取り上げ、絵画の遠近法などの表現を触図に翻案する方法の検討と触図をさわる視覚障害児者への適切な学習方法の検討を通して視覚障害児者の新たな絵画鑑賞モデルの構築を目指す。1年目は視覚支援学校や美術館における触図の使用や工夫についての実態調査と遠近法の触図への翻案方法や学習方法の検討を行い、2年目は、1年目の検討を元に、絵画を選定して触図を作成し、その触図を使った学習プログラムを作成する。3年目は、2年目に作った学習プログラムを視覚支援学校の授業や美術館のワークショップで実施し、触図+学習という新たな絵画鑑賞プログラムの有効性を検証する。
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研究実績の概要 |
2022年度は、前年度のアンケート調査の結果において、視覚障害者が遠近法そのものを学ぶための教材の必要性や視覚障害者用に配慮された鑑賞教材の不足の実態が課題として挙げられたこと、また、触図の作成では、「デフォルメの程度」と「遠近や重なりの表現の難しさ」等が課題として挙げられたことを踏まえ、研究計画通り、①視覚障害児者への遠近法の学びのための触図教材の作成、及び、②作家の作品の触図への翻案の研究に取り組んだ。作成に当たっては、研究分担者及び大阪教育大学美術専攻の2名の学生を研究協力者として協働して取り組んだ。①視覚障害児者への遠近法の学びのための触図教材では、「3つのボールと4本足の机ががある白色と黒色の壁の部屋」の絵を使用して、絵画の中に描かれている物を独立した触図として作成し、それらをクリアファイルを利用したレイヤーを使って遠近や重なりを確かめながら学ぶことのできる学習教材及び確認のための立体模型を作成した。②作家の作品の触図への翻案では、フィンセント・ファン・ゴッホ作の「3本のひまわり」の絵画の触図への翻案と半立体翻案を作成した。また、2022年8月6日に大阪教育大学柏原キャンパスにて「絵をさわって鑑賞し絵をつくる」ワークショップを開催し、視覚障害児者を含む8家族23名の参加を得て、これらの教材や触図の有効性を検証した。結果、主として学習教材については、概ね好評価を得た。作家の作品については、半立体翻案と本物のひまわりを触る体験との組み合わせの有効性が示唆された。また、2023年2月には、奈良県立盲学校にて、研究分担者が作成している触図を使用したワークショップを開催するとともに、コロナ感染拡大の影響で2021年度には実施することができなかった先進的な取り組みの美術館への視察調査として、長野県立美術館を研究分担者と共に視察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、研究計画通り、①視覚障害児者への遠近法の学びのための触図教材の作成、及び、②作家の作品の触図への翻案の研究、の2つに対して、研究分担者及び大阪教育大学美術専攻の2名の学生と共に協働して取り組むことができた。①視覚障害児者への遠近法の学びのための触図教材の作成では、具体的には、線遠近法(透視図法)、大小遠近法(小さい人物は奥、大きい人物は手前など)、重畳遠近法(事物同士の重なり:前の事物によって遮られている事物が奥)の3つの遠近法について、立体コピーにおける1枚の触図への翻案ではなく、各事物をパーツとして独立させて翻案し、それらの独立したパーツを、クリアファイルを利用したレイヤーを用いることによって遠近や重なりなどを確認しながら学ぶ教材を開発できた。また、媒介学習の方法としては、フォイヤーシュタインの提唱する「指導者は全てを疑問形で学習者に発問し、問いかけ、学習者はヒントを得ながら考えることによって認知構造に変容をもたらす」学習のあり方を取り入れた鑑賞方法を実践することもできた。更に本学の技術科専攻の学生とその指導教員とも連携して、線遠近法(透視図法)と大小遠近法については、視覚的な状態を触覚的にも捉えることができる3Dモデルの試作品の作成及び検討も進めてきており、研究分担者に評価も実施してもらった。結果、触図の触察後、3Dモデルを触察し、その上で現実状態を確認できる立体模型を触察する方法が有効と考えられること、また、円形の物や影を含む絵画表現を、このような3Dモデルで学習する方法の有効性も示唆された。このように、遠近法等の理解の媒介学習を経て、作品を鑑賞するといった鑑賞のための一連の流れや、描かれている物の実物や立体翻案・半立体翻案されたものとの組み合わせといった鑑賞方法そのものの枠組みの検討も実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、これまでの取り組みで得られた成果を、特殊教育学会第61回大会で発表するとともに、2023年度全日本博物館学会においても、「美術館での触図の設置状況」について、研究分担者がポスター発表するなど、引き続き、研究成果を広く公表・発信する予定である。研究の推進方策としては、本学教職大学院生の視覚障害特別支援学校での学校実習における研究授業に使用する絵画鑑賞教材として、色情報を付加した触図の翻案に取り組み、色情報の付加という新たな翻案方法の開発にも取り組む予定である。また、昨年と同様に8月には、大阪教育大学柏原キャンパスにて、絵画鑑賞のワークショップを開催する予定であり、その際には、美術館・博物館の研究分担者が作成に取り組んでいる新たな作家作品の触図についても検証を行うととともに、実物や立体翻案、半立体翻案、或いは、視覚障害特別支援学校で最も使用されいてる立体コピーで作成された触図との組み合わせ等についても検証していく予定である。更に、本学の技術科専攻の学生とその指導教員とも連携して、開発を進めている視覚的な状態を触覚的にも捉えることができる3Dモデルの作成については、円形の物や影を含む絵画表現を触覚的に捉えることのできる3Dモデルの開発に取り組む予定である。そして、最終的には、絵画表現の理解のための媒介学習を含めた視覚障害特別支援学校での絵画鑑賞の学習の在り方や、美術館との連携を視野に入れた視覚障害児者の総合的な絵画鑑賞モデルの枠組みの構築を目指す。
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