研究課題/領域番号 |
21K02976
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
大上 渉 福岡大学, 人文学部, 教授 (50551339)
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研究分担者 |
縄田 健悟 福岡大学, 人文学部, 准教授 (30631361)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 無差別殺傷 / 通り魔 / 銃乱射 / 大量殺人 / ローン・オフェンダー / 決定木 / 孤独 / 孤立 / テロ / 社会的排斥 / 集団実体性 / 排斥 |
研究開始時の研究の概要 |
社会から排斥されて孤立した者による無差別な殺傷事件は度々発生しているが,その事前防止は困難とされている。無差別殺傷事件に関するこれまでの研究では,社会からの排斥や孤立が暴力のトリガーであることは指摘していても,無差別な殺傷に至る機序までは解明されていない。本研究では,そもそも他責的傾向などがあり,かつ集団実体性の認識(集団のまとまりの程度,これが高いとまとまりのある実体として認識される)が高い者が所属集団から排斥された際,集団全体に無差別な報復攻撃を行うという仮説を立て,テキストマイニングや構造方程式モデリングなどで検証し,排斥・孤立の報復としての無差別殺傷を予防する道を拓く。
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研究実績の概要 |
令和5年度における本研究は,主に以下の3点に集約された。 第1に,文献調査として,海外の「無差別大量銃撃事件」「学校における銃乱射事件」「ローン・オフェンダーテロ」に関する先行研究,及び国内の無差別殺傷事件に関する研究やルポルタージュを広く調査し,これらの知見の蓄積を進めた。無差別銃撃事件やローンオフェンダー手尾の背景には,個人,家族,社会といった複数の次元からなるリスク要因が存在し,これらが重なり合って発生する。具体的なリスク要因の例としては,家庭内虐待,暴力,いじめ,両親のDV目撃,離婚などの子ども時代の有害な体験(ACEs),精神疾患,薬物やアルコールの濫用,暴力的行動の前歴などが挙げられる。
第2に,無差別殺傷事件に関するデータセットの充実に努めた。新聞記事データベース(朝日新聞,読売新聞,毎日新聞など)から,関連キーワードで記検索し,216件の事件データを登録した。また,裁判所の「裁判例検索」を用いて無差別殺傷事件の裁判例を調査し,データセットの詳細情報の充実を図った。
第3に,無差別殺傷事件の危険性推定に着手した。これまで日本で発生した無差別殺傷事件には,死亡者を伴う事件と伴わない事件とがある(データセット216件中86件,約40%の事件で被害者死亡)。このデータセットを基に死亡者を伴う事件と伴わない事件の加害者属性の違いについて決定木分析を行った。分析結果から死亡者が発生する要因として,「虐待・ネグレクトの経験」「心理・精神面の問題」「薬物等使用の有無」「犯人職業」が抽出された。このモデルにより,虐待・ネグレクトの経験がある場合や,それがなくても心理・精神面に問題があり薬物等を使用していれば,心理・精神面に問題がなくても,犯人の職業が会社員・公務員,または土木・建設・工員である場合に,死亡者が発生するリスクが高まることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究進捗は当初の予定に比べ遅れが見られる。当初の計画計画では令和5年度は「質問票調査と因果モデルの構築」に着手し完了しているはずだが、現在までにこれらの作業に着手できていない。質問紙調査はリサーチ会社に委託し、大規模に展開する予定だった。しかし、回答者の過去の排斥経験に関する質問が必要であり、倫理的な観点から実施が困難であることが見込まれる。 その一方で、当初の研究計画には含まれていなかった無差別殺傷事件の危険性推定に関する研究からは、有益な知見が得られている。これらの知見は、今後の研究方向性の再検討に役立つものと考えられる。今後は、これまでに収集したデータを基に、研究方針を見直し、倫理的な課題に配慮しながら研究を進める計画である。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり,令和5年度初めて無差別殺傷事件の危険性研究に取り組んだ。この取り組みは予備的な試みであり,重大な暴力行為のリスクをもつ無差別殺傷犯を特定し,相対的に危害の少ない他の無差別殺傷と区別することを目的としている。ローン・オフェンダーテロを含め,無差別殺傷犯は,事前予防が困難とされているが,危険性の推定は事前予防策定において重要な意義がある。 令和5年度の取り組みでは,死亡者を伴う,リスクの高い無差別殺傷事件の加害者要因を特定することを通じて,行政,医療・福祉,警察などが事前に介入することで,事件の未然防止につなげるための予備的試みである。今年度の取り組みから知見は,本研究が当初掲げていた,集団実体性に焦点を充てたメカニズムの解明以上により実効性が高いものとなる可能性がある。 今後の研究の推進方策としては、研究方針を見直し,今年度に作成したデータセットのケース数や内容をさらに充実させる。これにより,無差別殺傷事件の危険性を推定する精度を高めることが期待される。この取り組みは,無差別殺傷事件の事前防止策を向上させるための重要なステップになると思われる。
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