研究課題/領域番号 |
21K03108
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10030:臨床心理学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
金子 周平 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (10529431)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 保護観察所 / 薬物再乱用防止 / 保護要因 / リスク要因 / 薬物再乱用防止プログラム / 薬物事犯者 |
研究開始時の研究の概要 |
薬物事犯者に実施される標準化された薬物再乱用防止プログラムについて、保護観察所では、個別処遇と集団処遇の選択や、個別的な支援計画などの柔軟な運用が可能である。本研究は、そうした処遇の選択を的確に行うために有用な判断基準を得ることを目的とする。まず、薬物事犯者を対象とし、プログラムの効果を、薬物を止めることへの「動機づけの高さ」と「薬物使用行動の機能分析による代替行動の獲得」の2点から評価する。また、その効果の影響要因として、薬物自体のバイオロジカルな要因、知能や病歴などの個人的要因、居住環境や就業などの社会的要因を検討し、保護要因とリスク要因を明らかにすることにより判断基準を考察する。
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研究実績の概要 |
保護観察所の薬物再乱用防止プログラムの効果測定には、変化のステージと動機づけに関する尺度であるSOCRATES(Miller et al.,1996)の薬物バージョン(S-8D)が用いられることが多く、本研究でもS-8Dを効果指標とする。しかし医療機関や精神保健福祉センターとは異なり、保護観察所ではプログラム参加が義務の者が多いため、動機づけ以外の評価も必要である。本研究では、より適応的な代替行動の獲得と実行の判定も効果指標の一つに加えている。その評価はプログラム開始1年後の令和4年7月から開始し、現在も分析のためのデータ蓄積の途中段階である。現時点では、不同意もしくは同意撤回者44名を除く全データ94名が分析対象となっており、開始後5回のコアプログラムの効果検証や1年後までの転帰から分類した高リスク群(再犯者、1年後低評価)と低リスク群(1年後高評価)の差を予備的分析の段階である。 コアプログラムの前後のS-8D得点は、80名(平均年齢44.90歳、薬物使用平均年数[初使用時から現在]23.05年)から収集している。S-8D得点全体には前後の有意差は見られないものの、下位因子の病識・迷い・実行の3種類のうち「実行」得点は上昇している。また、これらの効果指標に影響するリスク・保護要因については、1年後の評価もしくは再犯者等のデータが揃っていない段階であるため未実施である。今後は年齢、使用歴、帰住先の種類(家族51名、厚生保護施設19名、その他10)、就業(有50名、無30名)、性別(男性55名、女性25名)、IQ、精神病歴(有27名、無53名)、使用薬物の種類(シンナー40名、覚醒剤46名、大麻18名、その他16名:重複あり)等が、代替行動の獲得や環境変化の維持等のための保護因子もしくはリスク因子となりうるかを分析する段階が控えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、1)対象者の社会的要因(帰住先、職業)、 個人的要因(性別、能力、病歴)、薬物自体の要因(使用歴、使用薬物の種類)等が、動機づけ向上に寄与する程度を明らかにすること、2)上記要因が、薬物使用行動の代替行動の獲得・実行もしくは環境の変化に寄与する程度を明らかにすることであった。この2つの目的のための データ収集は開始しており、現時点ではプログラム対象者の138名の内94名から研究に対する同意を得ている。そのうち、約2ヶ月半から3ヶ月で行われるコアプログラム前後のS-8Dのデータを取得できたのは80名である。上記の各種の要因についても、研究に同意したデータの蓄積は令和4年度にプログラムを開始する者の1年後のフォローアップまで行われ、分析に必要なデータ数は確保できると考えられる。現時点では順調に研究のプロセスは進行している。しかし新型コロナウィルスの感染状況による保護観察所の処遇方法の変更が生じたため、反転学習の効果、集団療法的関わりの効果、集団処遇と個別処遇に分けた分析については、データ取得と分析を中止している。本研究の主な目的であるS-8Dの得点変化と代替行動の獲得・環境の変化に関して、保護要因とリスク要因についての算出に必要なデータ蓄積は順調であり、代替行動の獲得・環境の変化の調査も対象者のプログラム受講から1年後より開始している。 予備的な分析の結果、動機づけに関する得点のうち「実行」因子得点はコアプログラム前後で上昇した(t(79)=3.01, p<.01)ことが確認された一方、プログラム前の「病識」得点は再発の低リスク群に影響しておらず、むしろ再犯群・高リスク群で高いこと(t(20)=2.43, p<.05)、低リスク群が「病識」得点を低下させること(F(2,28)=7.33, p<.01, effectsize f=.72)も明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では薬物再乱用防止の動機づけを測定するS-8Dを効果指標として用いるのに加え、薬物使用行動に代わる適応的な代替行動の獲得・実行もしくは持続的な環境の変化についての判定を効果指標の一つに加えている。保護観察所のプログラム参加者は、多くが処遇に義務的に参加しており、変化への動機づけが精神科病院のプログラム参加者などと比べて高くなく、むしろ高く評定するバイアスが予想されるためである。その評価を実施する1年後の対象者は、すでに令和4年度内でプログラム前の時期を過ぎており、それらの対象者のコアプログラム後、1年後時点をフォローすることが今後の計画となる。具体的には、本研究の対象者が保護観察所に来所する日が、プログラム開始以降1年以降のもっとも近い日程にS-8Dを渡し、実施する。またプログラムの前後に10分から20分程度のアセスメント面接を行い、代替行動の獲得(具体性・アクセシビリティ・薬物による強化との類同性の3点)、環境の変化(持続可能性・変化への主体的働きかけ)の評価を行う。評価は保護観察所に常駐する保護観察官とプログラムのファシリテーター兼アドバイザーが実施する。結果は代替行動もしくは環境の変化の有無(1か0)で評価され、主な分析方法はロジスティック回帰分析による予定である。上記の「現在までの進捗状況」に示した研究結果は、未発表であるため令和5年度中に予備的研究もしくは速報として学会発表を行う予定である。
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