研究課題/領域番号 |
21K03140
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
苧阪 直行 京都大学, 文学研究科, 名誉教授 (20113136)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 社会脳 / ハイパースキャニング / シンクロナイゼーション / 自己と他者 / 機能的近赤外分光法 |
研究開始時の研究の概要 |
人類の誕生時から、人々は自然や社会環境の変化に適応して生き残るため協力してきたが、協力を導く共感の形成過程とその脳内機構はよくわかっていない。ヒトがなぜ協力するのか。その理由は、志向性の共有、つまり自他間で一つの目的の達成に向けて、意図を共有し心を接続し合うことにある。こうした志向性の共有を生みだす時空間的同期を調整する脳内基盤について解明する。目標の達成に向けて複数脳が協調し合う社会的な脳の働きの仕組みの研究は、今日まで認知脳研究にとって困難であった芸術、文化や道徳の研究に道を拓く可能性をもっていると考えられる。
|
研究実績の概要 |
複数の人々が目標をもって協調を生み出だす脳のメカニズムを解明するためには、複数脳の同期的作動特性の理解に向けて、人々の協調課題下での脳活動の同時的測定が必須になってくる。このような複数脳の同時測定には、ハイパースキャニング(hyperscanning)と呼ばれるイノベーティブな技術が必要である。ハイパースキャニングの結果からパラメータを計算していく方法としてwavelet transform coherenceと呼ばれる方法がある。脳の前頭前野などの血流のヘモグロビンの変化が課題(例えばハミングや合唱)のスタートから時系列的に二者間で同期して現われることが知られている。ペアを組んでハミングをした二者間において、二名のそれぞれのwavelet波形について、周波数帯域ごとに分解し、二名の同期的な活動の強さを計算すると、同期的な活動の増加が前頭皮質に於いて見られるのである(Osaka et al.,2015)。今回はその発展形として、三名でハイパースキャンを試みとして実施した。今回、我々は、三人のインタラクション場面において、その内の二名の間の関係性が徐々に変化をして行くような場合に、行動や社会脳の活動の相関関係を中心に、どのような変化を見せるかを検討した。三名が自由に、ある課題をインタラクションしながら行うのでは、三人の関係がどうなるかについて実験者側では統制できない。そこで、今回は実験者の方で、参加者の三人には知らせることなく三名間の関係性を操作する試みを導入し、ハイパースキャニングによる検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三名ずつ25組、合計75名の初対面同士の被験者に対して、行動実験やfNIRS(機能的近赤外分光法)によって計測チャンネルを均等に三名に三分割して同時に脳血流のヘモグロビンの変化を計測した。行動課題はプレとポストの二課題を実施した。プレ課題では、三名のうち、実験者側でランダムに一人を選んで(例えばAさん)、その課題実験の三名の中で中心になるように決め、これを残りの二名の参加者(BさんとCさん)には教えないという条件設定である。その上で、BさんとCさんに、特にAさんとBさん、AさんとCさんの間の関係を実験者側で操作することを試みた。被験者は全員、初対面であることを確認した上で参加した。プレ実験では多くの無意味図形を呈示し、横に二つ並置し、どちらが好きですかと三人に問うた。ここでは、三人が共に課題に取り組む。被験者は右左どちらかのボタンを押すことで、いずれか好きな方を選択する。その後で結果が表示され、誰と誰が同じものを選んだか、あるいは三人とも同じものを選んだという結果が表示されるというシークエンスを繰り返した。実際には、表示される結果は、被験者が何を選んだかということ無関係で、実験者側が事前に設定していた結果が表示されるようになっている。今回は、AさんとBさんの関係性を近づける一方、逆にAさんとCさんの関係性は離れてゆくような操作を導入した。そたため、AさんとBさんが同じものを選んだという結果が、全体の半分出るようにセットし、他の結果は六分の一ずつ出るようセットした。課題が進行してゆくと、被験者は、こちらでは何も明示的に言わなくても、AさんとBさんは同じものを選ぶ割合が高いなと思うようになる。逆にAさんとCさんが一致する確率は六分の一しかないので、徐々にAさんとCさんの間で、何か好みが違うということで、関係性が遠ざかっていくとの想定のもとにプレ実験を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
プレ実験の行動データの結果では、AさんとBさん、およびAさんとCさんの回答の実際の一致率は、チャンスレベルとしては50%となり、AさんとBさん、あるいはAさんとCさんの間に、初めから好みの一致のようなものは認めらなかった結果、ポスト課題に影響しないことが確かめられた。 ポスト実験では、多くのバラバラに並んだドットが、決まった割合で右か左かどちらかの方向に動く動画を流し、まずAさんにどちらの方向に動いたかの判断を求める。その結果は、BさんとCさんに同時にも表示され、その後、BさんとCさんにも左右どちらかのボタンを押すことで判断を求めた。 さらに動画の方向の難易度を操作した。例えば、全体の51.2%のドットが右左のどちらかに動く条件では、どちらに動いているかの判断はしやすいが、25.6%や12.8%になると、判断はやや難しくなる。もっとも難しい0%の条件では、方向の判断はわかりにくくなる。このような課題で、最初にリーダーであるAさんが判断し、BさんとCさんは、その判断の結果を見た後で自分自身の判断を行った。プレ実験でAさんと好みが近くなっていったBさんはどちらかというとAさんの判断に従いやすくなり、逆にCさんは、その逆になると想定した。 ポスト実験の方の結果は、判断がわかる課題ではAさんの解答との一致率は高くなったが、判断に迷う課題では、プレ実験で操作を変えたBさんとCさんで組によっては差が認められたり、認められなかったりした。脳活動については、現在解析を試みている。
|