研究開始時の研究の概要 |
複素数体上定義された非特異射影多様体Xとその上の豊富な因子Lとの組(X,L)を偏極多様体と呼ぶ. この(X,L)に対して随伴束K+mL (ただしKはXの標準因子, mは正整数) は(X,L)の性質を調べるうえでとても重要な役割を果たす. 近年K+mLの大域切断のなす次元について考察がなされており, この次元がいつ正になるかについては, 簡単なようでとても難しい研究課題である. 本研究では, 偏極多様体の不変量の性質を用いてK+mLの大域切断のなす次元の正値性とその値による偏極多様体の分類などを研究することにより, 今まで以上に, より深く偏極多様体の性質を調べることにある.
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研究実績の概要 |
以下では, Xをn次元非特異複素射影多様体, KをXの標準因子, LをX上の豊富な因子とする. 3つある本研究目的のうち, 令和5年度は主に以下の(課題1)(いわゆるBeltrametti-Sommese予想)について研究を進めた:(課題1) nが5以上の整数のとき, K+(n-1)LがnefならK+(n-1)Lの大域切断のなす次元が正となるかについて調べる. この(課題1)については n=5の場合を考えているが, 2022年度までの研究により, 5次元の場合, K+4Lがnefであれば, 2以上の任意の自然数mに対して, m(K+4L)が大域切断を持つことについては研究代表者がすでに示しているので, 2023年度は次のステップとして2(K+4L)の大域切断のなす次元の値が小さい場合の偏極多様体(X,L)の分類に関する研究を行った. その結果, 2(K+4L)の大域切断のなす次元が2以下となる5次元偏極多様体(X,L)の分類を行うことができた(その際, K+4Lのnef性の条件は不要であることに注意).この研究成果を山口県宇部市で行われた研究集会で発表した. また, 以下の(課題2)と(課題3)についても考察を行ったが, 目立った進展は見られなかった:(課題2) nが6以上の整数であり, かつLの大域切断のなす次元が正の時に以下の(予想)が正しいかどうかについて考察をする.(予想)n+1以上の任意の整数mに対して, K+mLの大域切断のなす次元が(m-1)!/{n!(m-1-n)!} 以上となる. さらに, n+1以上のある整数mで随伴束K+mLの大域切断のなす次元がちょうど(m-1)!/{n!(m-1-n)!}になる時, Xはn次元射影空間となり, Lはその超平面となる.(課題3) nが4以上の整数でK+(n-2)Lがnefの時, K+(n-2)Lの大域切断のなす次元が正となるかを調べる.
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今後の研究の推進方策 |
Xをn次元非特異複素射影多様体, KをXの標準因子, LをX上の豊富な因子とする. 今後の研究推進については, 上記の研究成果を踏まえて以下のことについて取り組んでいく.(課題1)については, n=5の場合で考察が進んでおり, 今までの考察を踏まえて, K+4Lがnefの時にK+4Lの大域切断のなす次元が正になるかについて考察を進める. また, 2023年度までに得られた結果を論文にまとめて投稿することを計画している.(課題2)については, n=6の場合について, Lが大域切断を持つという仮定以外に, f(1), f(2), f(3)の値の様子に関する条件を設定して考察を行う(ただし, f(t)はK+tLの大域切断のなす次元の値).(課題3)については, 引き続きn=4のとき, 2(K+2L)の大域切断のなす次元が正となるかについて考察し, 2(K+2L)の大域切断のなす次元の値が小さいときの偏極多様体(X,L)の分類も行いたい. 上記研究課題以外にも, 本研究課題に関連する話題が生じた場合にはそれについても研究し, 本研究課題との関連性も含めて考察をしてみる予定である.
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