研究開始時の研究の概要 |
本研究では, 総実代数体上のアーベル拡大に関する総合的研究を行う. 代数的不変量と関係するL関数の零点やその位数, および特殊値に関する理論的研究と計算機による近似的計算を行う. また, 円分体における1の冪根に対応するような, 代数体の最も良い整基底の選択方法について考える. 代数体の整基底は有理数体上のアーベル拡大であっても取り方によって不変量の計算に大きく影響する. このような基底の選び方に着眼し, イデアル類群やコホモロジー群,代数的K群など代数的不変量の零化元の構成およびそれらの位数の可除性について調べることを目的とする.
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研究実績の概要 |
(1) 前年度投稿したLehmerの馴分岐5次巡回体の正規整基底とガウス周期に関する結果に関する論文(橋本優氏との共同研究)が, 雑誌 The Ramanujan Journal に受理された. (2) Leopoldtによって得られていたアーベル数体の整数環のガロア加群構造について, Shanksの3次巡回体の場合に考察し, 整数環のAssociated order上の生成元をShanksの多項式の根を用いて与えた(小川元氏との共同研究). まとめた論文は現在専門誌に投稿中である. 馴分岐の場合は, すでに先行研究(橋本優氏との共同研究)で得られており, 論文の結果は暴分岐の場合が本質的である. (3) 上記(1),(2)の研究に使用した手法に加え, Albertによる3次体の整基底に関する明示的結果を用いることで, 一般の3次巡回体の整数環のガロア加群としての生成元(Associated order上の生成元)を生成的C3多項式の根を用いて記述した. この結果は上記(2)のShanksの3次巡回体のファミリーの場合の一般化にあたる. 論文は現在執筆を終えており, 国内外の研究者から意見を伺った後, 専門誌に投稿予定である. (4) Leopoldtによる整数環のAssociated order上の構造定理は, 基礎体が有理数体以外の場合,特に円分体や虚二次体上の場合など多くの研究がLettl, Byott, Taylorらよって得られている. これらの文献のいくつかを解読し, 上記(1),(2),(3)の研究の一般化や応用について研究を行った. (5) 計算機代数ソフトウェアMagmaの開発に長年携わっている, カイザースラウテルン工科大学(ドイツ)のClaus Fieker教授を訪問し, 代数体の不変量に関する計算アルゴリズムについて共同研究を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Lehmerの馴分岐5次巡回体に関する論文が専門誌に受理された. Shanksの3次巡回体の整数環のガロア加群構造に関する論文は現在投稿中である. また, 一般の3次巡回体に関するガロア加群構造に関する結果については,新潟大学で定期的に開催されている新潟代数セミナーにおいて講演を行い, 結果をまとめた論文は投稿予定である. 以上の研究は多くのアーベル数体のファミリーに適用することが期待でき,またイデアル類群や単数群,岩澤加群など代数的不変量の研究への応用が期待される. 今年度はカイザースラウテルン工科大学(ドイツ)のClaus Fieker教授と共同研究を行い, 国内外の研究者と多くの情報を交換することができた.
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今後の研究の推進方策 |
アーベル数体の整数環のガロア加群における構造, および計算アルゴリズムについてさらに研究を進め, イデアル類群や単数群,岩澤加群や岩澤不変量などの代数的不変量に関する応用について考察する. また, L関数の特殊値やArtin root number などの解析的不変量との関係に関する研究や, 円分体や虚二次体上の相対代数体に関しても研究を進めたいと考えている. 次年度の研究費の一部は国際研究集会「Development of Iwasawa theory, A conference in honor of the 60th birthday of Masato Kurihara」の招待講演者の旅費に使用する予定であり, 研究集会の参加者と情報交換を行いたいと考えている.
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