研究課題/領域番号 |
21K03185
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分11010:代数学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 修司 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 特任准教授 (20635370)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 多重ゼータ値 / 多重ポリログ関数 / 超幾何関数 / 多重ポリログ |
研究開始時の研究の概要 |
多重ゼータ値・多重ポリログ関数と超幾何関数の間には,級数表示,積分表示,微分方程式などの共通する属性がある.またそれらの共通点を通じて,具体的な等式によって両者を結びつけられる場合もある.特に,多重ポリログ関数のある種の和の母関数を超幾何関数と関係づける大野・ザギエの公式のように,一方に属する対象を集団として適切にまとめることでもう一方の対象が現れる,というタイプの関係は興味深い.この研究では,このような多重ゼータ値と超幾何関数の間の関係について,新しい等式の発見や,より包括的・構造的な理解の実現を目指す.
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研究実績の概要 |
本年度はまず,多重ポリログの和の母関数を超幾何関数で表す大野・ザギエ公式を有限多重ゼータ値に応用する視点で考察を行った.有限多重ゼータ値は,多重ゼータ値を定義する多重級数を各素数未満で打ち切った有限和を,その素数を法として有限体に還元し,それらを適切な意味で族とみなしたものである.この打ち切り有限和は多重ポリログ関数のベキ級数展開係数としても現れるため,大野・ザギエ公式をこれらの打ち切り有限和に関する公式とみなすことも可能である.一方,超幾何級数を有限項で打ち切った和の素数法(または素数ベキ法)での振る舞いについてはいろいろな先行研究があり,これらを組み合わせることで有限多重ゼータ値について非自明な結果を導けると期待した.ところが詳しく考えてみると,大野・ザギエ公式における多重ポリログの和の取り方と,素数に関する族のまとめ方との間で微妙な問題が生じた.そのため,この方針で有意味な結論を導くためには,諸概念の定義から再検討が必要であろう,との見解に至った. 一方,モジュラー形式の係数の満たす合同式と有限代数的数の関わりについて,田坂浩二氏と前年度から議論を続けていたが,本年度は新たに小笠原健氏の参加を得て,様々な数値実験とその解釈を繰り返す形でさらに議論を行った.決定的な成果には至っていないものの,目指すべき方向については一定の共通理解を得ることができた. また本年度の2月,多重ゼータ値の打ち切り有限和に関する興味深い公式(MSW公式)がMaesaka-Seki-Watanabeによって発見,公表された.これを受けていくつかの発展的な考察を行ったところ,等号付き多重ゼータ値(多重ゼータスター値)に関する類似の公式,対角的一定なインデックスに関するSchur型多重ゼータ値への一般化,Hoffmanの双対的恒等式の再解釈,川島の等式の再解釈,といった結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における着想の原点は,大野・ザギエ型公式に見られる「多重ポリログから作られた母関数が超幾何関数と結びつく」という現象と,「超幾何関数の値から作られた母関数が多重ポリログと結びつく」という現象の二つであった.これらを出発点として,多変数の超幾何関数に対応する多重ポリログ的対象を発見することが重要な目標であり,その方向での試行は継続しているが,今までのところ満足できる成果は得られていない.一方,多重ポリログの展開係数でもある打ち切り有限和に関しては,MSW公式をはじめとして,当初の計画段階では持っていなかった知見が蓄積しつつあり,今後の進展には期待が持てる.これらのことの長短を勘案して,現在までの研究は「やや遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
まずはこれまでの幾つかの研究路線を継続する.具体的には,大野・ザギエ型公式の多変数超幾何関数への一般化を引き続き試みる.この路線はまだ成功していないが,決定的な壁にぶつかったという感触ではなく,継続する価値はあると思われる.また打ち切り有限和および有限多重ゼータ値への応用について,大野・ザギエ公式の非自明な帰結を得るために,ある種の無限和や有限体の元の族のまとめ方に関する定義の再検討を行う.有限代数的数に関しては,田坂氏・小笠原氏と議論を続け,出版に値する成果をまとめることを目指す.MSW公式の拡張・応用については,本年度中に得られた結果の出版を目指すとともに,他の研究路線との結びつきを模索する. また近年よく研究されている有限体上の超幾何関数は,超幾何級数の打ち切り有限和にも関連が深いと思われるので,新しい研究路線として,多変数版を含めて考察してみたい.
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