研究開始時の研究の概要 |
本研究では, 非可換代数の不変式論と母函数論を連動・推進する. ある代数で直接不変式論を展開する代わりに, 形式的変数の代数とのテンソル積で論じる(この元を母函数と呼ぶ). 元の代数で複雑なことがこのテンソル積で簡潔になることがある(たとえば複雑な交換関係が, 簡単な交換関係に整理される). 形式的変数の代数や元の代数とのテンソル積における"微分"を用いれば, さらにさまざまな議論ができる(母函数から不変式を取り出す道具, 作用の記述の道具, さらに作用の双対性や不変式の生成性の証明の道具になる).
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研究実績の概要 |
日高昌樹氏と共同で得たSchur多項式の特殊値に関する結果について, 「1の原始n乗根におけるSchur多項式の値」というタイトルで2023大分宮崎整数論研究集会で講演し, 整数論の専門家に聞いてもらう機会に恵まれた. これは「自然数nが2以外の素因数を高々二つしかもたないとき, 1の原始n乗根すべてをSchur多項式に代入した値は 1, 0, -1 のいずれかにしかならない」という結果である. この結果は, 円分多項式の性質の一般化と見做せる. 実際, (1^k) という分割の場合は, この結果は「nが2 以外の素因数を高々二つしかもたないとき, n 次円分多項式の係数には 1, 0, -1 しか現れない」という有名な事実に言い換えられる. また (k) という分割の場合は, この結果は円分多項式の逆数についての同様の性質に言い換えられ, これは 2009 年に P. Moreeによって証明されている. 集会でもらったコメントを踏まえて, この結果を学術論文"The Schur polynomials in all primitive nth roots of unity"にまとめ, これをarXivで発表するとともに学術雑誌に投稿した. また昨年度に引き続き, 「Alon-Tarsi予想」というラテン方陣に関する未解決問題について, 非可換不変式論の枠組みにおける言い換えとその証明について検討を進めた.
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