研究課題/領域番号 |
21K03236
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分11020:幾何学関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
長友 康行 明治大学, 理工学部, 専任教授 (10266075)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 調和写像 / 正則写像 / グラスマン多様体 / ベクトル束 / モジュライ空間 / ゲージ理論 / 接続 / 表現論 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、応募者による一般化された高橋の定理およびdo Carmo-Wallach理論を利用して、コンパクトリーマン多様体からグラスマン多様体への調和写像のモジュライ空間およびそのコンパクト化の幾何学的意味を明らかにすることが企図されている。この中には、コンパクトケーラー多様体から複素グラスマン多様体または、複素2次超曲面への正則写像の研究も含まれている。一般論の構築だけでなく、それに必要であると思われる具体例の研究も並行して行い、調和写像論の研究において、ベクトル束の幾何学を中心とするゲージ理論の役割が本質的であることを示し、従来の研究とは異なる視点から調和写像論にアプローチする。
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研究実績の概要 |
今年度は研究代表者によるリーマン多様体からグラスマン多様体への正則写像、調和写像のモジュライ空間に関する理論を様々な具体例に適用し、理論の進むべき方向性、可能性を模索した。また、すでに得られていた結果をまとめ、論文として投稿した。 最初に、複素射影空間から四元数射影空間への特殊ユニタリー群の下で同変な調和写像の分類問題を考察した。四元数射影空間は複素ベクトル空間内の2次元部分空間のなす複素グラスマン多様体の全測地的部分多様体として実現されるので、問題の写像は複素グラスマン多様体への調和写像とみなせる。さらにその次数は0であることもわかる。さらに研究代表者の導入したEinstein-Hermite型の調和写像であることも示せる。この結果、以前得られた複素射影直線から複素グラスマン多様体への同変調和写像の分類定理を利用することが可能となり、複素射影直線の場合には非自明なモジュライ空間が出現した。一方、次元が高い場合には不変接続の分類問題から始めて、研究代表者によるdo Carmo-Wallach理論の一般化を適用することにより、同変調和写像の剛性定理を得ることができた。これらの結果は論文としてまとめられ投稿されたが、出版社からの修正の要請後、再投稿済みである。 次に、複素グラスマン多様体から複素射影空間内の複素2次超曲面への正則等長埋め込みの分類を問題とした。この場合も、正則等長埋め込みがEinstein-Hermite型の正則写像となることが示せるので、do Carmo-Wallach理論の一般化を適用することにより、同変正則写像のモジュライ空間を得ることができた。この結果は研究代表者による複素射影空間から複素2次超曲面への正則等長埋め込みの結果と共通点があり、さらなる一般化が期待される。この結果も論文として投稿され、すでに受理されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題ではリーマン多様体からグラスマン多様体への正則写像、調和写像のモジュライ空間の構成が主題である。その研究において、高橋恒郎の定理の一般化に始まり、do Carmo-Wallach理論の一般化により、ベクトル束の幾何学の果たす役割の重要性を示せたものと自負している。最初は一般論はもとより、個々の具体的な研究においても成果を出すのは困難であると予想していたが、ベクトル束の幾何学を加味することにより、この状況を打破できたことが本研究につながっている。 本年度は今まで、終域が実および複素グラスマン多様体である場合に理論を構築してきたが、その応用として四元数グラスマン多様体にまで理論を拡張できたことが特長である。このとき、定義域が実2次元である複素射影空間の場合と4次元以上である複素射影空間でモジュライ空間が大きく異なることを示せたことも大きな成果であろう。なぜならば、先行研究では定義域が実2次元のときにのみ通用する理論が存在したため、定義域が実2次元リーマン多様体である場合の結果がほとんどであったが、本研究課題で発展させている理論は定義域の次元にとらわれることなく展開可能なので、その結果、次元による違いを明確にできたからである。 また、研究代表者は複素射影空間から複素2次超曲面への正則等長埋め込みの分類結果を定義域が複素グラスマン多様体に拡張した。この場合、上記の結果とは異なり、モジュライ空間の記述に共通点が見られることから、どこまで一般論が展開できるのかが今後の課題である。同時に次元によりモジュライ空間に違いが見られる場合と共通点がある場合とに大別されることにいかなる理由があるのかも問題となり、理論の健全な発展が見られるといってよいと思っている。 また、この成果を順次論文として発表していることも、順調な進展の理由となるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、引き続き、高橋恒郎の定理の一般化と一般化されたdo Carmo-Wallach理論に基づいた調和写像のモジュライ空間の研究を推進する予定である。特に、正則写像以外の調和写像にも本理論が有効であることを示すため、複素射影空間や複素グラスマン多様体への調和写像、特に全実調和写像のモジュライ空間の構成に挑戦したいと思っている。ここで、全実調和写像に注目する理由を説明する。 第一に終域が複素射影空間の場合には全実等長はめ込みに関する先行研究がいくつかあるのだが、そこでは例を構成するにとどまっており、その分類にはほど遠いと思われることが挙げられる(なお、それらの研究においては高橋の定理そのものが使用されてる)。 次に本理論においては、複素射影空間上の超平面束の標準接続の引き戻し接続が重要な役割を果たすが、全実調和写像の場合には、この引き戻し接続が平坦接続となることが導かれるので、一般化されたdo Carmo-Wallach理論を適用するときに、接続を固定して考えられるという利点がある。また、全実等長はめ込みを一般化した、定エネルギー密度関数を持つ全実調和写像は研究代表者の定義したEinstein-Hermite調和写像となり、平均曲率作用素も固定して考えることができるので、一般化されたdo Carmo-Wallach理論を有効に使うことができる。このため、上記研究はかなり有望であると思われる。 また、現在までの進捗状況のところでも述べたが、複素グラスマン多様体から複素2次超曲面への正則等長埋め込みのモジュライ空間の記述には共通点が見られるので、定義域を旗多様体にまで拡張し、一般論が展開できるのかが今後の課題といえる。このとき、おそらく正則等長埋め込みをEinstein-Hermite正則写像に一般化して議論すれば大きな一般化が得られるものと期待している。
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